後悔2
「っ、今すぐ依形を使え明野!救護班を呼ぶから!」
「力を貸して、ヤマツミ……」
明野は青白くなった唇を震わせながら、自身の依形に触れて、何とか発動させた。
アタシのカイジンと似た性質を持つヤマツミは、明野の下半身を一度蔓で覆うと、花が咲き乱れる植物製の足へと変えた。
いつもは綺麗な白い花が、血で赤く染まっていた。
しかし、こんなのは出血を少し遅らせるだけで、気休めにしかならない。
「くそ、ワンコール以内に出ろよ!!おい!負傷者だ!場所はA-101地区!早く来てくれ!ああ!?負傷者が誰とかそんなのどうでもいいだろうが!さっさとしろって!」
明野の容態を確認しながら、アタシはスマホに向かって思い切り叫んだ。
あの時のアタシは気が動転していて、明野がこうなった原因にまで気が回っていなかった。
だから、千切れた明野の両足を貪り食う「それ」に気づくのが遅れてしまった。
さっきの小鬼みたいな乙型人魔が、泣いて謝りながら、口元を紅色に染めていた。
両腕はカマキリみたいな鎌に変化しており、刃から血が滴り落ちている。
「ごめんなさいごめんなさい!でも、美味しそうだったから、我慢できなくて……!」
「あ、あぁ……あああぁ!カイジン!!」
馬鹿だった。アタシも明野も。
ちょっと話が通じるからって、こんな怪物を人間と同じように見てしまった。
視界が怒りで真っ赤に染まり、そこから先のことは覚えてない。
後から聞いた話によると、救護班が到着するまでずっと暴れて、乙型人魔の遺体を破壊していたらしい。
この一件以降、全国で乙型人魔は明確に討伐対象となり、明野ユリは前線に立てない体になった。
最強の討魔士は死んだ。たった一度の失敗、それも善意のせいで。
アタシがもっとしっかりしていれば、防げたはずだった。アタシが代わりになればよかった。
討魔局製の特別な義足で、ぎこちなく歩く明野を見て、アタシは罪悪感に苛まれた。
明野はそれまでの実績を買われて、第五対策班の班長になることが決まった。
前線に出られない、お飾りの班長。そんな軽口を叩いた第五対策班の討魔士を思い切り殴って、アタシはしばらく謹慎処分を受けた。
謹慎期間が終わって第五対策班に戻った時には、班は再編成されていて、明野とアタシ以外は人員が入れ替わっていた。
そんな中で明野はもう、みんなのリーダーとして普通に働いていた。
「よかった、あなたが復帰してくれて。短期討魔士が一気に3人も増えて、指導が大変だったから」
「あの、あのさ明野……アタシ……っ、これからはアタシに現場を任せなよ!リーダーはリーダーらしく、椅子にふんぞり返っていればいいから!」
アタシはその日から、みんなの頼れる先輩を演じようと心に決めた。
そうしないと、押し潰されてしまいそうだったから。




