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最初の仲間

王都を出発して三日。


「疲れた。」


レオンが道端に寝転がる。


「まだ歩き始めて三時間だ。」


ガロスが呆れたように言う。


「三時間って長いじゃん。」


「……今のお前、少し昔に戻ってきたな。」


「そう?」


「文句だけは一人前だ。」


二人が歩いているのは《グレイ森林》。


王国でも有数の危険地帯だ。


魔物が多く、新人冒険者なら命を落としても不思議ではない。


「静かだな。」


ガロスが周囲を見回す。


「魔物の気配がない。」


その時だった。


「きゃああああ!」


森の奥から悲鳴が響いた。


レオンはガロスを見る。


「行く?」


「聞くまでもない。」


二人は駆け出した。


森を抜けると、一台の馬車が横転していた。


護衛は三人。


全員倒れている。


その前には巨大な熊型の魔物。


《黒爪熊(ブラックグリズ)》


B級魔物。


「くそっ……!」


若い女性が短剣を構えていた。


栗色の髪を後ろで束ねた少女。


年齢は十八歳ほど。


商人の服装だ。


「もう無理……!」


熊が腕を振り上げる。


その瞬間。


「おーい。」


間の抜けた声が響いた。


「こっち向け。」


熊が振り返る。


レオンが手を振っていた。


「そんな女の子いじめて楽しい?」


熊は怒り狂って突進する。


「レオン!」


ガロスは止めない。


もう分かっている。


レオンは誰かを助ける時、躊躇しない。


レオンは深く息を吸う。


心臓が高鳴る。


誰かを守る。


戦う。


その気持ちが胸を熱くする。


《ドーパミン分泌 12%》


「低いな。」


「まあ十分か。」


熊の拳が迫る。


ヒュンッ。


紙一重で避ける。


「おっと。」


熊は驚いたように目を見開く。


「遅いよ。」


レオンは拳を握る。


ドンッ!


熊の腹へ一撃。


「グオオオ!」


数メートル吹き飛ぶ。


しかし倒れない。


「丈夫だな。」


レオンは笑う。


「もう一回!」


再び突っ込む。


拳。


蹴り。


肩から体当たり。


攻撃するたび、心が躍る。


《ドーパミン分泌 16%》


《18%》


《21%》


「やっぱり戦うと上がる!」


最後は飛び上がり、熊の額へ拳を叩き込んだ。


ズガァァァン!!


黒爪熊は白目をむき、そのまま倒れた。


森に静寂が戻る。


「助かった……。」


少女はその場へ座り込んだ。


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げる。


「私はリナ。」


「行商人です。」


レオンは笑顔で手を差し出した。


「僕はレオン。」


「えっと……旅人。」


「旅人?」


ガロスが横で咳払いする。


「英雄だ。」


「え?」


リナが目を丸くする。


「まさか王都を救った英雄レオン様!?」


レオンは苦笑した。


「そんな大した人じゃないよ。」


「いや、大した人です!」


「黒爪熊を素手で倒す人なんて聞いたことありません!」


ガロスはぼそっと呟く。


「俺もない。」


馬車を起こし終えた頃には、日が傾き始めていた。


「今日は近くの村まで一緒に行きませんか?」


リナが提案する。


「お礼をさせてください。」


「ご飯!」


レオンの目が輝く。


ガロスはため息をつく。


「現金な奴だ。」


「だってお腹すいた。」


三人は笑いながら歩き始めた。


だが、その様子を森の木陰から見つめる影があった。


黒い仮面。


白い外套。


「発見。」


男は小さな水晶を取り出す。


「こちら第五観測班。」


「対象・ドパガキを確認。」


「現在、同行者二名。」


水晶の向こうから声が返る。


「排除は?」


「まだです。」


男はレオンを見つめる。


「例の少女と接触するまで泳がせます。」


通信が切れる。


男は不気味に笑った。


「レオン。」


「君の旅は、すでに私たちの手のひらの上だ。」


その頃、レオンはそんなことなど知る由もなく、リナが作るシチューの話で頭がいっぱいだった。


そして、この「リナ」との出会いが、やがて彼の失われた記憶を大きく揺さぶる最初のきっかけになるとは、まだ誰も知らなかった。

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