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記憶のない英雄

第二章始まります。

「先生!」


「レオンがおかしい!」


王都中の治癒術師が集められた。


最高位の治癒魔法。


精神鑑定。


記憶魔法。


考えられる治療はすべて試された。


しかし――。


「駄目です。」


老治癒術師は首を横に振る。


「これは病気ではありません。」


「能力の代償です。」


王女セリアは唇を噛む。


「治せないのですか……?」


「今の人類には不可能でしょう。」


部屋の隅では、レオンが窓の外を眺めていた。


「……。」


驚くほど静かだった。


あれほど落ち着きのなかった少年とは別人のように。


「君。」


セリアが椅子を引いて座る。


「私はセリア。」


「王女です。」


レオンは小さく頷いた。


「セリア。」


「うん。」


「初めまして。」


その一言だけで、セリアは胸が締め付けられた。


昨日まで「お姫様」とからかっていた少年は、もういない。


「あなたはレオン。」


「十五歳。」


「王都を救った英雄よ。」


レオンは困ったように笑う。


「そうなんだ。」


「何も覚えてない。」


その笑顔はどこか寂しかった。


その頃。


王都から数百キロ離れた魔王城。


四天王ヴァルグは片膝をついていた。


全身包帯だらけ。


玉座には魔王が座っている。


「負けたか。」


低い声。


ヴァルグは頭を下げた。


「申し訳ありません。」


魔王は責めなかった。


ただ静かに尋ねる。


「100%になったか。」


「はい。」


「……そうか。」


魔王は目を閉じる。


「また始まったのだな。」


周囲の幹部たちは意味が分からない。


一人が尋ねた。


「魔王様。」


「なぜそこまでドパガキを警戒されるのです?」


魔王はゆっくり立ち上がる。


「六百年前。」


「世界を滅ぼしかけた者がいた。」


「名は残っていない。」


「だが人々は、その者をこう呼んだ。」


「最初のドパガキ。」


部屋が静まり返る。


「勇者ではない。」


「魔王でもない。」


「ただ一人の少年だった。」


魔王は拳を握る。


「奴は戦いを楽しみ。」


「成長を楽しみ。」


「強敵との出会いを楽しみ。」


「そして最後には――」


「神を殴った。」


幹部全員が息を呑んだ。


神。


この世界を創った存在。


その神と戦った人間。


「神は勝ったのですか?」


誰かが尋ねる。


魔王は首を横へ振った。


「分からぬ。」


「それ以来、神は人前へ姿を現さなくなった。」


「だから歴代のドパガキは、100%へ至る前に我ら魔王軍が討ってきた。」


ヴァルグは顔を上げる。


「ですが今回は……。」


「失敗した。」


魔王は窓から夜空を見る。


「いや。」


「まだ終わってはいない。」


その瞳には、長い年月を生きた者だけが知る恐怖が宿っていた。


「100%は始まりに過ぎん。」


翌朝。


王都。


レオンは城の庭を歩いていた。


花を見つめる。


鳥を眺める。


静かな時間。


すると庭師の老人が笑った。


「英雄様でも花は好きなんですかな?」


レオンは首をかしげる。


「好き……なのかな。」


「分からない。」


老人は優しく笑う。


「思い出せなくても構いません。」


「人は今日から好きなものを作ればいい。」


その言葉に、レオンは少しだけ微笑んだ。


「ありがとう。」


その時だった。


ズキッ――。


突然、頭に激しい痛みが走る。


「あっ……!」


脳裏に一瞬だけ映像が浮かぶ。


血。


燃える空。


巨大な黒い影。


そして、自分によく似た少年。


『まだ早い。』


『お前は……二人目だ。』


声だけが響く。


レオンは思わず頭を押さえた。


「誰だ……?」


映像は一瞬で消えた。


だがその頃、世界の果てにある神殿では、一体の石像にひびが入っていた。


パキッ。


眠っていた巫女が目を覚ます。


「封印が……。」


彼女は青ざめた表情で呟く。


「また、ドパガキが目覚めてしまった……。」


こうしてレオンの知らないところで、世界中の勢力が動き始める。


英雄として祭り上げようとする王国。


利用しようとする貴族。


抹殺を狙う魔王軍。


そして――ドパガキを「神殺し」へ導こうとする、謎の組織。


レオンの旅は、王都の外へと広がっていくのだった。

読んで頂きありがとうございます。

深夜テンションで書き始めましたので気が向いたら更新します。

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