100%の向こう側
音が消えた。
風も。
悲鳴も。
瓦礫が崩れる音さえ聞こえない。
レオンは少女をゆっくり地面へ降ろした。
「……あれ?」
体が軽い。
今までとは比べものにならないほど。
指を握る。
空気が震えた。
「これは……。」
周囲の景色が止まって見える。
いや、違う。
自分だけが速すぎる。
「まさか……。」
ヴァルグの額から冷や汗が流れる。
禁書に記されていた一文が脳裏をよぎる。
『100%へ到達したドパガキは、人を超え、理性を捨てる。』
だが、目の前のレオンは違った。
笑っていない。
怒ってもいない。
無表情だった。
感情が、消えていた。
「レオン!」
ガロスが叫ぶ。
返事はない。
レオンはただヴァルグを見つめる。
「来るぞ!」
ヴァルグが剣を構えた瞬間。
レオンの姿が消えた。
「なっ──!」
次の瞬間。
ドゴォォォン!!
衝撃波だけが広場を駆け抜ける。
ヴァルグの体が何百メートルも吹き飛び、城門を突き破った。
兵士たちは何が起きたのか理解できない。
「見えなかった……。」
「一撃……?」
ヴァルグは瓦礫の中から立ち上がる。
鎧が割れていた。
四天王の鎧。
神鉄で作られ、竜の炎にも耐える鎧。
それが拳一発で砕けた。
「あり得ん……。」
レオンは静かに歩いてくる。
足音すら聞こえない。
ヴァルグは本能で理解した。
勝てない。
歴代の英雄とも違う。
勇者とも違う。
目の前にいるのは、
災害だった。
「くっ!」
ヴァルグは魔力を解放する。
黒い炎が空を覆う。
「《終焉黒炎》!」
王都を飲み込むほどの黒炎がレオンへ襲いかかる。
誰もが絶望した。
しかし。
レオンは炎へ歩いていく。
避けない。
防がない。
ただ歩く。
黒炎はレオンへ触れた瞬間──
消えた。
「……は?」
ヴァルグの顔から血の気が引く。
レオンは首をかしげる。
「熱くない。」
その一言だけだった。
次の瞬間。
また姿が消える。
「しまっ──」
ドン。
軽く額を指で弾かれた。
それだけ。
それだけなのに。
ヴァルグの体は一直線に空へ飛び、雲を突き抜けて見えなくなった。
数秒後。
遥か彼方の山脈から爆音が響く。
ズゴォォォォン!!
静寂。
誰一人として言葉を発せない。
ガロスだけが小さく呟いた。
「……勝った。」
しかし。
レオンは勝利を喜ばなかった。
空を見上げたまま立ち尽くしている。
瞳から光が消えていた。
「レオン……?」
セリア王女が恐る恐る近づく。
レオンは振り向く。
「……君。」
「誰?」
その一言に、広場が凍りついた。
「え……?」
「何を言ってるの?」
レオンは周囲を見渡す。
兵士。
冒険者。
王都。
どれも初めて見るような目だった。
「ここは……どこ?」
ガロスは禁書の最後の一文を思い出す。
『100%の力は肉体を完成させる。だが代償として、その者は最も大切な記憶を失う。』
ガロスは拳を強く握った。
「これが……ドパガキの呪いか。」
レオンは四天王を倒した。
王都を救った。
だがその代償は、あまりにも大きかった。
彼は、自分が「レオン」であることさえ、忘れ始めていた――。
第一章 完
読んで頂きありがとうございます。
深夜テンションで書き始めましたので気が向いたら更新します。




