初めての敗北
「全員下がれ!」
ガロスの怒号が響く。
兵士も冒険者も一斉に後退する。
四天王同士の戦いならまだしも、今から始まるのは「未知の怪物」と「魔王軍四天王」の激突だ。
誰も割って入れる領域ではなかった。
ヴァルグは剣を肩に担ぎ、余裕の笑みを浮かべる。
「来い、ドパガキ。」
レオンは首を鳴らした。
「後悔すんなよ。」
地面を蹴る。
爆発するような加速。
さっきまでの速度とは比べ物にならない。
「速っ──!」
兵士が目で追えない。
しかし。
キィン!
ヴァルグは片手で剣を振るっただけだった。
レオンの拳は弾かれ、そのまま十数メートル吹き飛ぶ。
「がっ!」
地面を転がる。
「……いてぇ。」
初めてだった。
まともに攻撃を止められたのは。
「ほう。」
ヴァルグは少しだけ感心する。
「今ので腕が折れないか。」
「歴代より頑丈だ。」
レオンは立ち上がる。
腕が震えている。
それでも笑った。
「すげぇ。」
「本当に強い。」
心臓がドクンと鳴る。
恐怖。
興奮。
悔しさ。
全部が混ざる。
《ドーパミン分泌 94%》
「……!」
身体が熱い。
筋肉が膨らむ感覚。
視界がさらに鮮明になる。
「もう一回!」
レオンは突っ込む。
今度は拳ではない。
足払い。
回し蹴り。
肘。
膝。
ありったけの技を叩き込む。
しかし。
「遅い。」
ヴァルグは最小限の動きで全てをいなす。
一発も当たらない。
「終わりだ。」
ドンッ!
腹に拳がめり込む。
「がはっ……!」
空気が肺から一気に抜ける。
レオンの身体が宙を舞い、城壁へ激突した。
石壁が崩れる。
広場が静まり返った。
「レオン!」
ギルド職員が叫ぶ。
瓦礫の中から、レオンはゆっくり起き上がる。
口から血が垂れる。
左腕はだらりと下がっていた。
「折れたか……。」
それでも。
笑っていた。
「最高だ……。」
ヴァルグの眉がわずかに動く。
「まだ笑うか。」
「強ぇ奴と戦えるんだぞ?」
レオンは血を拭った。
「こんなの初めてだ。」
《ドーパミン分泌 97%》
その瞬間だった。
レオンの視界の端に、幼い少女が映った。
避難が間に合わず、その場に取り残されている。
「お母さん……!」
少女のすぐ近くには、戦いの衝撃で崩れかけた鐘楼。
「危ない!」
誰かが叫ぶ。
鐘楼が少女へ倒れる。
レオンは考えるより先に走っていた。
「間に合え!」
少女を抱き上げ、飛び退く。
だが、自分は逃げ切れない。
崩れた石材が背中へ落ちてくる。
「レオン!」
ガロスが駆け出す。
間に合わない。
ドゴォォン!!
土煙が舞う。
静寂。
誰もが息を止める。
やがて瓦礫が少しだけ動いた。
「……いてて。」
レオンが少女を抱えたまま立ち上がる。
全身傷だらけ。
それでも少女にはかすり傷一つない。
少女は泣きながら言った。
「お兄ちゃん……ありがとう。」
その言葉を聞いた瞬間。
レオンの胸が熱くなる。
今まで感じたことのない感情。
誰かを助けられたという喜び。
誰かに感謝されたという幸福。
それは戦いの興奮とは違う、高揚だった。
《ドーパミン分泌 99%》
ヴァルグの表情が初めて変わる。
「まずい……!」
彼は剣を構える。
「100%になるな!」
ガロスも叫ぶ。
「レオン! 止まれ!」
しかしレオンには意味が分からない。
「え?」
「なんで?」
脳内の数字がゆっくりと変化する。
99.3%
99.6%
99.8%
99.9%
そして――。
《ドーパミン分泌 100%》
その瞬間、世界からすべての音が消えた。
読んで頂きありがとうございます。
深夜テンションで書き始めましたので気が向いたら更新します。




