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春、出会い恐怖する

 赤月駿悟赤月駿悟(あかつきじゅんご)は周囲から虚弱体質だと思われている。

 度々貧血になったように顔色が悪くなり、早退することがあるからだ。


 中学2年生、春、始業式。

 朝から中学生たちの賑やかな声が、校門を彩る。

 

「おっはよー駿悟!今日は顔色いいな!」

 

 テンションが高めの同級生が駿悟の肩を軽くどつきながら挨拶する。

 その勢いで眼鏡がずり落ち、直しながら答える。


「びっくりしたぁ…おはよう、体調いいからかな?あはは…」

 

 こんなことを言っているが、本当は体調不良などめったにない健康優良児。

 しかし、周りには虚弱体質だと認識してもらう方が都合がいい。

 なぜ虚弱体質だと認識してもらう方が都合がいいのか?


 

 久しぶりに友人たちに会えるのもあって、軽い足取りで学校沿いを歩く。

 友人達と話しながら校門をくぐると、駿悟の脳内に衝撃が走った。

 頭が重くなり目が回る。気持ち悪さもあって顔色が急に悪くなった駿悟を見て、同級生が

「おわ!急に大丈夫か?!肩貸すか?!」

 虚弱体質だと思っているので、何かあれば心配してくれる同級生。


「だ、だいじょうぶ。はは…」

「ほんとにダメだったら言えよ!」

「ありがとう。助かるよ」

 弱々しい返事をしながら、ゆっくりとした足取りで教室へ向かう。


 同級生が離れたタイミングで、駿悟の右後ろあたりに女性の霊が現れ話出す。

「学校に珍しい。敷地内にかなり嫌なものがいるね」

 淡い桃色の長い髪を高い位置で一つに結っている、二十歳くらいの女性の霊。頭巾は被っておらず、忍び装束に近い濃淡の装いであるが、少々ラフな印象を受ける。

「紗倉…俺の手に負える感じ?」

 駿悟が不安そうな表情で紗倉に尋ねる。

 

「今は無理だね。避けた方がいい」

 その手に負えない何かがいるであろう方向を見て紗倉が言う。

 

「だよね、そんな気がした」

 少し落ち込んでいるように見える駿悟であるが、気にしすぎても何も変わらないと気持ちを切り替え、教室へ向かう。

 

 大半の生徒が教室に集まり賑やかになってきた。

 駿悟も最後尾中央の自分の席へ着く。

 しばらくすると、校門を入った時に感じた頭の重さや気持ち悪さが徐々に悪化していった。

 初老の男性の担任が教室へ入って来る頃には、机に腕をついて前屈みになるくらい体調に影響が出ている。

 

 喋りながら入室する担任と一緒に一人の少女が入ってきた。

「新年度もよろしくぅ!さて、今日からこのクラスの仲間になる珊瑚ヶ峰りんねさんだ。わからないことはなんでも教えてあげて、困っていたらみんなで助けてあげるのがクラスメイトの役目だぞ。頼んだぞぉ〜。では珊瑚ヶ峰さんから挨拶をどうぞ」


「隣の県から来ました、珊瑚ヶ峰(さんごがみね)りんねです。引っ越したばかりで街のことを知らないので、教えてもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!」

 

 溌剌とした声でりんねが挨拶し、クラスの皆んなが注目する中、ガタン!と大きな音を立てて、椅子に座る駿悟が前を向きながら横へひっくり返った。

 と同時に、後ろで静かにしていた紗倉が素早く駿悟の前に立ち、姿勢を少し低くし身構え、守りの体勢に入る。

 新しい仲間に期待する他の生徒とは対照的に、駿悟は顔色が悪く、悍ましく嫌悪感を覚えた。

 りんねの顔周りが目視で確認できないほど空気が悪く、他の人には見えないものが見える駿悟にとっては、恐怖でしかなかった。

 顔色が悪すぎる駿悟を、一緒に登校してきた同級生が心配する。

「今朝より顔色悪いぞ?!」


 中年の男性が駿悟の顔を覗き込み淡々と

「そうなのか、一旦保健室で休んでこい。連れてってやってくれ」と言う。

 普通の状況から考えると冷たい対応に見えるが、そういう人間なのではなく、よくあることなのだ。

「そうします…」

 弱々しく答えて、ゆっくりとした足取りで同級生に付き添われながら保健室へ向かった。

 紗倉は少し険しい顔をしながら、駿悟たちが教室から出るまでりんねの方をじっと見つめた。



 ベッドに横になる駿悟の腕で養護教諭が血圧を測っている。

「ちょっと低いけど大丈夫そう。昨日夜更かしでもしたの?落ち着くまで休んでね。」

「ありがとうございます。…いつもすみません」

 教室にいた頃よりは大分顔色がマシになった駿悟を見て付き添った生徒が

「よかったぁ!いつもよりヤバそうだったから焦ったぞ〜」と安心した様子。

 霊云々については隠しているので、心配してくれる生徒に申し訳ない気持ちからか小さくなる駿悟。


 養護教諭が

 「今日は授業ないし、早退したら?親御さんには連絡する?」

「あ、いえ、迎えに来てもらう程今は酷くないので大丈夫です、ありがとうございます」

「そう?なら離れても大丈夫そうだから、私は状況報告してくるね。付き添ってくれた君もありがとうね。教室戻って大丈夫だから」

「はぁーい。無理すんなよ!駿悟!また来週な!」

 付き添ってくれた同級生がパタパタと駆け足で教室へ戻って行った。


 駿悟以外いなくなった保健室で勢いよく紗倉に話しかける。

「ねぇッあれ何なの?中学生に憑いてるレベルじゃなくない?!どういうこと?!」

「んー…本人が招いたことじゃない影響があるのかな。確かにあんな感じであの穢れた霊が2体も女子中学生に憑いてるの、おかしいもんね。しかも普通に立って喋ってたし」

 首を少し傾げて腕を組んで話す紗倉を見て、一同沈黙する。

「え、待って!?2体も憑いてたの???」

 その時はそれどころじゃなく、紗倉の説明に更に驚く駿悟。今までにない経験で混乱している。

 

 小学生の後半から除霊の修行を始めて、やっと除霊師としてのコツを掴みかけていたと思っていた駿悟にとって、りんねに取り憑いた悪霊たちの手の負えなさに打ちひしがれ、頭を抱える。

 

落ち込む駿悟に対して紗倉が

「まぁ…そんな重くとらえなくていいのかも。

 直視した時、咄嗟に駿悟の前に出て様子見たけど、こっちに何かしてくる感じじゃなかったし、目も合わなかったから、こっちが関わらない限り反応してこないかもね。帰って弥禄に報告しよう」

 フォローする紗倉の言葉に少し安心した様子の駿悟だか、また表情が暗くなる。

「でも、クラスメイトになっちゃったから毎日会うんだよ?毎回具合悪くなってたら保健室登校になっちゃうよぉ…」

 グズグズする駿悟にはもっとしっかりして欲しいところだが、自分の子のように見守っている紗倉はどこまでも手をかけてやるため、親身になって答える。

「最近は探知する修行ばっかしてたでしょ?今度は防御する修行が必要だね。そこも弥禄に相談しよう」

 

 駿悟はベッドに仰向けになり、天井を眺めながら呟いた。

 「あんなの憑いてるのに、普通にしてるのかあ。

 世の中知らないことばっかりだ」


 理解し難い状況でどこか他人事な駿悟だが、

 今後、更に巻き込まれていくことになる。

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