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邪竜の私ですが、討伐に来たはずの王子がなぜか私を守ると言い出しました  作者: 臼田ゆわ
第一章

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第17話 竜の炎

 時間は少し遡る――。


 シグルド王子が魔狼を倒し、村へと一人であっという間に消えていく。

 その背中を私とフェン様は見送っていた。


「ちょ、ちょっと! シグルド王子、ひとりで行っちゃったよ!?」

「見りゃわかるわ」

「いや、そうじゃなくて……!」


 そんな軽口を叩いている場合じゃないのは分かっているのだが、口からは動揺の言葉が漏れていた。

 いつかのお茶回のときにシャリーさんが言っていた。あの人は、民を守れぬ王子ではいたくないのだと。だからこそ、今も躊躇なく駆けていくのだろう。


 洞窟のときだって、あの人はそうだった。

 ――あの時は、巻き込まれてた側だった気がするけど。


「フェン様、どうしよう。私たちも行かないと!」

「そうは言うてもな、見てみぃ」


 フェン様はあたりを睨みながら低い声で警戒する。

 こちらの様子を見ていたのだろう、魔狼が一匹目の前に飛び出してきた。


「うわ、まだいた!」


 魔狼は牙を向いて一直線に飛びかかってくる。思わず反射的にフェン様を抱きかかえたまま身を縮めて魔狼を躱す。くるりと翻りながら魔狼は再度こちらを睨みつける。


「リィネ、忘れたんか。アンタは強いまんまやぞ」

「へぇ?」

「ええから、次きたら一発ぶん殴ったれ!」

「ちょ……それって雑すぎない!?」


 言いながらも、魔狼は待ってくれない。魔狼は素早い動きで飛びかかってくる。

 私は思わず迫ってきた魔狼に腕を振る。私の爪の先が魔狼の脇腹をかすめた。


 どごっ、と嫌な音がした。

 爪がかすめた魔狼の身体は真横に吹き飛び、地面に激しく叩きつけられる。

 魔狼はガクガクと痙攣しながらその場でもがいたかと思えば、間もなく大人しくなった。


「……えっ」

「ほらな? 半竜ゆうてもドラゴン様やで。リィネのパワーでイチコロや!」

「いや、でも、なんか凄い音しなかった!?」

「だから――、っと。それよりまだいるみたいやで」


 さらに前方から二匹、三匹と魔狼が現れる。

 次の瞬間には、もう魔狼が低く唸りながら周囲を回り込み始めている。


「ちょっと待って、心の準備――」


 私が喋るよりも早く、魔狼の一匹が飛びかかる。

 私は反射的に半歩ずれて、勢いのついた頭を両手で押し返した。体勢を崩した魔狼の横腹へ、今度は尻尾を思いきり叩き込む。

 ばしんっ、と乾いた破裂音が響いて魔狼が文字通り吹っ飛ぶ。


「おぉ、デカいだけの尻も役に立つもんや!」

「失礼なんだけど!?」


 でも言い返しながら、ちょっとだけ手応えを感じていた。

 力自体は、ちゃんとある。半竜の姿でも、魔物相手にまるで戦えないわけじゃない。むしろ邪竜のときと同じぐらい戦えそうな感じもある。


 フェン様も私をからかいながら一匹を蹴り飛ばし、爪で別の一匹を薙ぎ払う

 さすが聖竜フェン様。余裕がある。

 このくらいの魔狼たちならなんとかなると思いかけた、そのときだった。

 村の奥から、誰かの叫び声が聞こえた。


 はっと顔を上げると視線の先に広場のほうが少しだけ見えた。

 そこにいたのは、シグルド王子だった。


 家の前に立ち、誰かを庇うように剣を構えている。

 その周りを、たくさんの魔狼が取り囲んでいた。


「王子……!?」


 その瞬間、家の中から男の人が飛び出したのが見えた。

 あ、まずい、と声に出すより先に、シグルド王子がその人の前へ出る。

 魔狼の爪が切り裂いて、王子の左腕から赤いものが散った。


「――っ!」


 思わず、息が止まった。


 洞窟のときの光景が、一瞬だけ頭をよぎる。

 崩れ落ちる岩。血の気の引いた顔。庇って、傷ついて、それでも前に出る姿。


「まったく王子はん、洞窟の二の舞やないか!」


 そう怒鳴るフェン様の声も、先ほどまでの余裕が薄れていた。


 広場の真ん中で、シグルド王子はそれでも剣を構え直している。

 左腕から血を流しながら、村人を背に庇って、群がる魔狼を睨みつけている。


 でも、数が多い。

 一匹二匹じゃない。たくさんの魔狼たちに囲まれてる。今から駆けても間に合うかどうかわからない。


「どうしよう、この距離だと間に合わな……」

 言いかけて、ふと気づく。


 間に合わないなら、間に合うにはどうしたらいい?

 走ってダメなら、別の手を使えば良い。


「フェン様」

「なんや」

「今の私でも、ブレス吐けるんだよね?」


 フェン様がぎょっとした顔で振り向いた。


「あ? そら吐けるやろうけど……もしかしてアンタ」


 私は広場を見る。

 シグルド王子の前で、魔狼たちが一斉に身を沈める。

 一斉に飛びかかり、勝負を仕掛けようとしている。シグルド王子は怯むことなく剣を構えたまま魔狼たちを見据えている。


「あかん! 撃てるやろうけど、その体じゃ――」


 フェン様の声が聞こえたけど途中で遠くなる。

 私はゆっくり息を吸い込み、身体の魔力を集中させる。胸の奥が熱い。

 身体の中に散ったものを、自分の中心へ集めていくような感覚。ばらばらに散っていた力が、ひとつの塊になっていく。喉の奥が焼けるみたいに熱くなっていく――


 できるかどうかじゃない。やるしかない。


 私は思い切り足を踏ん張って口を開いた。

 次の瞬間、解き放たれた光が一直線に世界を貫いてゆく。


 目が眩むような閃光、そして轟音が遅れて響く。

 エネルギーの奔流は弾丸みたいに収束したまま広場の魔狼たちを薙ぎ払い、まとめて吹き飛ばした。


 ――やった。

 そう思ったのも、一瞬だった。


「あ……え?」


 ぐらり、と視界が揺れる。

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