第七話「騎士なれば」
「一緒に行くって、畑に?」
畑へ向かう途中、エキナが振り返る。
「あぁ」
俺は頷いた。
「魔物ってやつをちゃんと見ておきたい。それに……」
少し言葉を探す。
「世話になってるしな。何かできることがあるなら手伝いたい」
エキナは少しだけ目を丸くした。
それから困ったように笑う。
「気持ちは嬉しいけどねぇ」
顎に指を当てて考える。
「勝手なことしない?」
「しない」
「危ないと思ったら逃げる?」
「逃げる」
「本当に?」
「多分」
「そこは絶対って言ってよ!」
呆れたように笑う。
だが少し考えたあと、
「まぁいいや。見学だけね」
そう言って前を向き、畑に向かって走り出した。
⸻
荒らされた畑は街の西側にあった。
踏み荒らされた作物。
折れた柵。
地面にはいくつもの足跡。
エキナがしゃがみ込む。
「んー……」
指で土をなぞる。
「これだね」
人間のものではない。
小さい。
だが数は多い。
「わかるのか?」
「なんとなく」
立ち上がる。
「たぶんまだ近くにいるよ」
そう言って森へ足を踏み入れた。
⸻
森の中を進む。
足跡は続いている。
数分ほど歩いた頃だった。
ガサッ。
茂みが揺れる。
俺は反射的に身構えた。
そこから現れたのは――
小柄な人型。
緑色の肌。
異様に長い腕。
手には棍棒。
「……あれが」
「ゴブリン」
エキナが小さく答える。
さらに左右の茂みから二体。
合計三体。
一体は棍棒。
一体は錆びた短剣。
もう一体は石を握っている。
「ギギッ!」
見つかった瞬間、向こうもこちらを認識した。
空気が変わる。
「下がっててね」
エキナが剣を抜いた。
⸻
最初に動いたのは棍棒を持ったゴブリンだった。
地面を蹴る。
思ったより速い。
小柄な体で一気に距離を詰めてくる。
「ギャアッ!」
棍棒が振り下ろされる。
だが、
当たらない。
エキナは半歩だけ横へ動いた。
たったそれだけ。
棍棒は空を切る。
「よっと」
軽い声。
そのまま剣が走る。
首元を斬られたゴブリンが地面を転がった。
⸻
だが終わらない。
短剣を持った個体が飛び出す。
横から。
かなり嫌らしいタイミングだ。
「ギッ!」
短剣が閃く。
エキナは剣で受け流す。
金属音。
さらに二撃、三撃。
思った以上に手数が多い。
俺が思っていたより遥かに厄介だ。
⸻
その時だった。
後ろにいた一体が腕を振る。
投石。
「エキナ!」
思わず叫ぶ。
石は一直線。
顔面を狙って飛んでいた。
だが
エキナは振り返らない。
避けようとも見えない。
石が頬へ届く、その寸前。
ほんの僅か。
首を傾けた。
ブォンッ!
石が顔の横を通過する。
赤いポニーテールがふわりと揺れた。
陽光を受けた髪が一瞬だけ宙に広がる。
それだけだった。
まるで最初から見えていたみたいに。
「え……」
思わず声が漏れる。
エキナは何事もなかったように前を向いている。
「三速」
ぽつりと呟いた。
次の瞬間。
姿がぶれた。
地面が弾ける。
一気に石投げのゴブリンとの距離が消える。
「ギッ!?」
慌てて後退する。
だが遅い。
エキナの剣が先に届いた。
ゴブリンの頭が宙を舞う。
⸻
残る一体。
短剣持ち。
それでも逃げない。
叫びながら飛び込んでくる。
「ギャアアア!」
必死だった。
恐怖もあるのだろう。
それでも仲間のためか、最後まで向かってくる。
だがエキナは全てを捌く。
受ける。
流す。
避ける。
無駄がない。
まるで訓練を見ているみたいだった。
俺が死にかけた戦いとは何もかも違う。
最後。
ゴブリンが大振りした。
その瞬間。
エキナの剣が下から跳ね上がる。
短剣が空へ舞った。
武器を失ったゴブリンが後ずさる。
「ギ……」
震えている。
エキナは一歩前へ出た。
「ごめんね」
静かな声。
剣が振られる。
森に静寂が戻る。
エキナは剣を払い、鞘へ納めた。
「よし、終わり!」
さっきまで戦っていたとは思えない声。
俺はしばらく何も言えなかった。
魔物に対する恐怖よりも、
戦いの技術に対する関心よりも、
華麗に舞う姿に感銘を受けていた。




