第六話「騎士の仕事」
欠伸を噛み殺しながら廊下を歩く。
「ふぁぁ……」
窓から差し込む朝日が妙に眩しい。
今の俺は騎士団支部の空き部屋を借りて生活している。
行く場所もない。
金もない。
身元もわからない。
そんな人間を放り出すわけにもいかなかったらしく、使われていない部屋を貸してもらっていた。
ありがたい話だ。
正直、野宿を覚悟していた。
軋む床を踏みながら食堂へ向かう。
この支部はそれほど大きくない。
廊下も短いし、部屋数も多くない。
それでも今の俺にとっては十分広かった。
食堂の扉を開ける。
「おはよー!」
聞き慣れた声が飛んできた。
エキナだ。
すでに席についてパンを頬張っている。
「おはよう」
「今日は早起きだね」
「そうか?」
「そうだよー」
もぐもぐと咀嚼しながら頷く。
俺も向かいに座った。
用意されていた朝食に手を伸ばす。
「傷どう?」
「ほとんど平気だな」
脇腹を軽く叩く。
少し違和感はあるが痛みはほぼない。
「よかった」
エキナは素直に笑った。
「もう無理して倒れたりしないようにね」
「なるべくは」
「それしない人の返事なんだよなぁ」
呆れたように笑われる。
パンを齧る。
温かい。
気付けばこういう時間にも慣れてきていた。
するとエキナが何か思い出したように手を叩く。
「あ、そうだ!」
「ん?」
「今日は巡回の日!」
元気よく宣言する。
「巡回?」
「うん!」
椅子から少し身を乗り出す。
「街を回って異常がないか確認したり、お手伝いしたりする日!」
なるほど。
騎士の仕事か。
「ソラも来る?」
「俺が?」
「見学!」
即答だった。
「どうせ暇でしょ?」
「まぁ」
聞き込みもひと段落して行き詰まっている。
やることは特にない。
「じゃあ決まり!」
エキナは満足そうに笑った。
⸻
黄凰の街は今日も平和だった。
通りには人が行き交い、店には客が集まっている。
エキナはそんな街を慣れた様子で歩いていた。
「おはよー!」
「エキナちゃんおはよう!」
「今日も元気だねぇ」
あちこちから声が飛ぶ。
「人気者だな」
「そう?」
「そうだろ」
少なくとも俺にはそう見える。
本人はあまり自覚がないらしい。
首を傾げている。
しばらく歩いていると、八百屋の前で荷物を運んでいる老人がいた。
木箱を持ち上げようとしているが重そうだ。
「あ、おじいちゃん」
エキナが駆け寄る。
「手伝うよ!」
「おお、助かるよ」
そう言うなり木箱を持ち上げる。
見た目以上に重いらしいが、エキナは平然としていた。
「騎士ってそういうこともするのか」
「もちろん!」
木箱を運びながら答える。
「魔物と戦うだけじゃないよ」
なるほど。
確かに街の人たちが親しげなのも納得だった。
⸻
その後も巡回は続く。
迷子の子供を親のところへ連れていき。
壊れた柵を直す手伝いをし。
畑仕事をしている人たちと話をする。
想像していたよりずっと地味だった。
「もっとこう……」
「うん?」
「剣持って戦いに明け暮れるのかと」
「あはは!」
エキナが笑う。
「そんな場所じゃ安心して生活できないでしょ〜」
「まぁそうか」
騎士というより便利屋みたいだ。
だが街の人たちは皆感謝していた。
だからこそ必要な仕事なのだろう。
⸻
昼を少し過ぎた頃。
畑の近くを歩いていた時だった。
遠くから男が走ってくる。
「エキナちゃん!」
息を切らしている。
どこか焦っているようにも見えた。
エキナの表情が少し真面目になる。
「どうしたの?」
「まただよ!」
男は肩で息をしながら言う。
「また畑が荒らされた!」
「え?」
「西の方の畑だ!作物がめちゃくちゃになってる!」
空気が少し変わった。
さっきまでの穏やかな巡回とは違う。
「魔物?」
エキナが尋ねる。
「たぶん……だと思う」
男は頷いた。
「足跡もあったし……」
エキナは少し考える。
そして真面目な顔で俺を見る。
「ソラ」
「ん?」
「ちょっと行ってくる」
その表情は朝までとは違った。
街を守る騎士の顔だった。
「見学はここまでかもね」
そう言って笑う。
だがその目は周囲を警戒している。
俺も自然と畑の方へ視線を向けた。
風が吹く。
穏やかだった一日が、少しだけ違う方向へ動き始めていた。
「エキナ、俺も行っていいか?邪魔はしない」
魔物名 アーマードボア
危険度 中程度
分類 獣型
鉱物で構成された鎧を頭部につけた見た目をしている猪のような見た目をした魔物。獲物に対し直線で突進を繰り出す。突進の威力は大木を薙ぎ倒すほどと言われているがアーマードボアのサイズによる。




