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創世輪廻譚  作者: からあげ大佐
第一部 第二章「都市と騎士」
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第三十六話「新しい居場所」

第一部隊詰所を出ると、ロマリーが廊下の先へ歩き出した。


「さて、まずは本部を案内する。」


 ソラとエキナもその後へ続く。


「本部は広い。最初のうちは迷うだろう。」


「必要な場所だけ覚えておけば問題ない。」


 淡々とした説明。


 エキナはその横を歩きながら、懐かしそうに周囲を見回している。


「本部って、前より広くなった?」


「改築された区画があるからだろう。」


「そっか。」


 エキナは頷く。


 ソラは二人の会話を聞きながら、廊下の壁へ視線を向けた。


 そこには王国騎士団の紋章が刻まれた旗がいくつも飾られている。


 すれ違う騎士たちがロマリーへ頭を下げる。


 そのたびにロマリーも軽く会釈を返していた。


「まずは食堂。」


 大きな扉の前でロマリーが足を止める。


「ここで食事を取る。朝、昼、夕方の三食が用意されている。」


「お金はいらないんですか?」


「騎士団員なら無料だ。」


「へぇ……。」


 エキナがソラの横から顔を出す。


「ここのご飯、結構美味しいよ。」


「特に肉料理がおすすめ。」


「エキナは食べる量が多いからな。」


「それは余計。」


 エキナが少しむっとする。


 ソラは思わず笑った。


 そのまま廊下を進んでいく。


 訓練場。


 医務室。


 資料室。


 それぞれの場所をロマリーが簡単に説明していく。


「訓練場は自由に使える。ただし、使用中の部隊がある場合は邪魔をしないこと。」


「医務室は怪我をした際に利用する。」


「資料室は許可が必要な資料もある。勝手に持ち出さないように。」


「分かりました。」


 ソラは頷きながら、頭の中へ一つずつ覚えていく。


 覚える。


 その言葉に、ふと胸の奥が引っかかった。


 自分には記憶がない。


 だからこそ、こうして新しい場所を覚えていくことが少し不思議だった。


「……ソラ?」


 エキナの声に顔を上げる。


「どうしたの?」


「いや。」


 ソラは小さく首を振った。


「なんでもない。」


 エキナは少しだけ心配そうに見つめたが、それ以上は聞かなかった。


「次は部屋だ。」


 ロマリーが廊下の角を曲がる。


「第一部隊の隊員には、それぞれ個室が用意されている。」


「ソラの部屋はここだ。」


 足を止めた先に、一つの扉があった。


 ロマリーが扉を開く。


 中にはベッドと机、椅子。


 衣服を入れるための棚と、小さな本棚。


 必要最低限の家具だけが置かれている。


 それでも、殺風景には感じなかった。


「……ここが。」


 ソラは部屋の中へ入る。


「今日から、君の部屋だ。」


 ロマリーの言葉が静かに響く。


 ソラはゆっくりと部屋を見回した。


 自分のものは、まだ何一つない。


 けれど。


 ここには自分のために用意されたベッドがあり、自分が使う机があり、自分が帰ってくるための扉がある。


「……いい部屋ですね。」


「そうか。」


 ロマリーは短く返す。


「必要なものがあれば言うといい。可能な限り用意する。」


「ありがとうございます。」


「礼は必要ない。」


 ロマリーはそう言って扉の外へ出る。


「エキナの部屋も近い。」


「私も?」


 エキナが驚く。


「第一部隊員だからな。」


「そっか。」


 エキナは笑う。


「じゃあ、ソラ。」


「何?」


「これからは結構近くにいるから。」


「困ったことがあったら言ってね。」


 ソラは一瞬だけ黙った。


 そして、静かに笑う。


「うん。」


「よろしく。」


 記憶を失った自分にとって、王都も、騎士団も、第一部隊も。


 まだ知らないものばかりだった。


 それでも。

少しずつ、自分の居場所ができていく

そんな気がした。


――――――――――――――


ソラたちが詰所を出てしばらく経った頃。


 静かになった部屋で、ザミは一人、ソファーに座っていた。


「……団長。」


 向かいの机で書類を眺めていたニアンへ声をかける。


「ん?」


「あの白髪の彼ですが。」


 ザミは先ほどまでソラが立っていた場所へ目を向ける。


「本当に、第一部隊に所属するほどの実力があるのですか?」


 ニアンは書類から顔を上げる。


「立ち振る舞い、目線、身体の使い方。」


「どれを見ても、そこまでの実力があるようには感じません。」


 ザミは腕を組む。


「少なくとも、私がこれまで見てきた第一部隊の隊員とは違う。」


「剣を扱えることは分かります。」


「ですが、それだけです。」


 ニアンはしばらく黙ってザミを見つめた。


 やがて、ふっと笑う。


「……まぁ、そう思うよな。」


「はい。」


 ザミは即答した。


「なら、明日からお前が確かめればいい。」


「本人に実力がないのであれば、それまでです。」


「逆に――」


 ニアンはそこで言葉を切る。


「お前が見抜けなかった何かがあるなら、それも分かる。」


 ザミは少しだけ目を細めた。


「……随分と期待しているように聞こえますが。」


「さあな。」


 ニアンは椅子の背もたれへ身体を預ける。


「ただ、俺はあいつを第一部隊に置く必要があると思ってる。」


「アーティファクトだけが理由ですか?」


「それもある。」


「だが、それだけじゃない。」


 ニアンは窓の外へ視線を向けた。


「ソラ自身についても、まだ分からないことが多い。」


「記憶がない。」


「それでいてアーティファクトを持っている。」


「確かに、危険ではありますね。」


 ザミが静かに頷く。


「だからこそ、お前に頼む。」


「ソラの力を見極めてくれ。」


「戦えるのか。」


「何ができるのか。」


「そして――」


 ニアンはザミを見る。


「こいつを第一部隊に置いていい人間なのか。」


 ザミはしばらく黙っていた。


 そして立ち上がる。


「承知しました。」


「明日、確かめます。」


「おう。」


 ザミは扉へ向かう。


 その背中へ、ニアンが声をかけた。


「ザミ。」


「はい。」


「優しくな」


「……善処します。」


 そう言って、ザミは詰所を後にした。


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