第三十四話「命令かぁ」
「……え?」
思わず漏れた声が、静まり返った団長室へ響いた。
第一部隊。
王国騎士団の中でも、団長直属の実力者が集う部隊。
そんな場所へ、自分が。
ソラはまだ状況を飲み込めずにいた。
「第一部隊って……僕が、ですか?」
「ああ。」
ニアンはあっさり頷く。
「まぁ、一応聞く形にはしたけど。」
そう言って肩をすくめる。
「これは命令でもある。」
「だから決定なんだけどな。」
「……。」
ソラは返す言葉が見つからなかった。
断るという選択肢が、最初から存在しない。
戸惑いを隠せないまま立ち尽くすソラを見て、ニアンは苦笑した。
「安心しろ。」
「いきなり無茶な任務に放り込んだりはしない。」
「……多分。」
「多分なんですか。」
思わずツッコミを入れるエキナ。
ニアンは悪びれる様子もなく笑った。
「はは。」
「その時次第だ。」
「もう……。」
エキナは呆れたように額へ手を当てる。
「それと。」
ニアンは思い出したように視線をエキナへ向けた。
「ゴルドから推薦が来てる。」
「……え?」
エキナが首を傾げる。
「本人は嫌がるだろうが。」
「エキナ、お前も第一部隊だ。」
「…………へ?」
一拍遅れて理解が追いつく。
「えぇぇっ!?」
部屋中へ大きな声が響いた。
「わ、私もですか!?」
「ああ。」
「正式な推薦だ。」
ニアンが答えるより先に、ロマリーが静かに口を開く。
「ゴルドから第一部隊への推薦が届いている。」
「黄凰支部での功績、戦闘能力、判断力。どれを取っても十分だと。」
「ま、主席卒業なんだから全員知ってるからな。」
ニアンが軽く付け加える。
「だから決定。」
「そんな軽く言われても……。」
エキナは肩を落とした。
「ゴルド....絶対最初からそのつもりだったなぁ……。」
ぼそりと呟く。
ソラはそんなエキナを見て、小さく苦笑した。
自分だけではなかったらしい。
「まぁ。」
ニアンは椅子にもたれながら続ける。
「理由はちゃんとある。」
その声色が少しだけ真面目になる。
「ソラ。」
「お前は記憶がない。」
「……はい。」
「そして、その状態でアーティファクトを持っている。」
ソラは腰の青い剣へ視線を落とした。
「悪いが。」
「それは放っておける状況じゃない。」
部屋の空気が少しだけ引き締まる。
「疑ってるわけじゃない。」
「黄凰での戦いを見れば、お前が人を守ろうとする奴だってことくらい分かる。」
「だが。」
「記憶を失った人間が、世界に十四本しかない剣を持っている。」
「何も調べない方がおかしい。」
ソラは黙って頷いた。
その言葉に反論はできない。
「だから第一部隊で預かる。」
「監視、という意味もある。」
ニアンは隠すことなく言った。
「……監視。」
ソラが小さく呟く。
「気分は良くないだろう。」
「でも、立場上そうするしかない。」
その言葉には、誤魔化しは一切なかった。
ロマリーも静かに頷く。
「騎士団として必要な措置ということだ。」
「だが、君を拘束するためではない。」
ニアンが指を立てる。
「王都は、この国で一番情報が集まる。」
「お前の記憶についても。」
「アーティファクトについても。」
「調べるなら、ここ以上の場所はない。」
「お前にとっても利益がある。」
「俺たちにとっても都合がいい。」
そう言うと、ニアンはいつもの気の抜けた笑みを浮かべた。
「ま、お互い利害一致ってやつだ。」
ソラは少しだけ考えた後、小さく息を吐く。
「……分かりました。」
「よろしくお願いします。」
「よし。」
ニアンは満足そうに立ち上がる。
ぐっと背伸びをし、肩を鳴らした。
「そうと決まれば。」
「早速団員の紹介でもしようか。」
ロマリーへ視線を向ける。
「第一部隊詰所にみんないるか?」
「あぁ」
「今日は仕事がないはず、訓練をしていなければ今は詰所にいるはずだよ」
「ならちょうどいい。」
ニアンはそのまま扉へ歩き出した。
「二人とも。」
「ついてこい。」
勢いよく扉が開かれる。
団長室の外には、王国騎士団本部の長い廊下が続いていた。
磨き上げられた石床を、ニアンは迷いなく歩いていく。
ソラとエキナは顔を見合わせ、小さく頷くと、その後を追った。
王国最強と名高い第一部隊。
その仲間たちとの出会いが、もうすぐそこまで迫っていた。




