第三十三話「アーティファクトと第一部隊」
団長室。
先ほどまで屋上で昼寝をしていた男のための部屋とは思えないほど立派な部屋だった。
大きな窓から陽の光が差し込み、壁際には本棚が並び、部屋の中央には重厚な木製の机が置かれている。
その机の前に、ソラとエキナは並んで立っていた。
そして、その向こう側。
「さて。」
団長――ニアンは椅子へ深く腰掛けていた。
いや、腰掛けているというより、もはや寝転がっているに近い。
肘掛けに頬杖をつき、片足は机へ投げ出し、身体はぐったりと背もたれへ預けている。
とても国一番の騎士には見えない。
「改めて。」
気の抜けた声が部屋へ響く。
「俺が王国騎士団団長、ニアン。」
「よろしく。」
軽く手を挙げる。
本当に、それだけだった。
ソラは思わず瞬きを繰り返す。
(……この人が。)
さっき屋根の上で昼寝をしていた人。
あまりにも普通すぎて、未だに現実味がない。
「ニアン。」
静かな声が響く。
隣に立つロマリーだった。
腕を組み、じっとニアンを見下ろしている。
「…………。」
ニアンは横目でロマリーを見る。
「めんどくせぇ……。」
ぼそりと呟き、足を机から下ろした。
「はいはい。」
気怠そうに身体を起こし、ようやく普通に椅子へ座る。
「これでいい?」
「最初からそうする。」
「へいへい。」
ロマリーは小さくため息をついた。
エキナは苦笑しながら肩をすくめる。
「いつも通りだね。」
「そうなのか。」
「うん。」
「団長なのに。」
「団長だから、かな?」
エキナの言葉にソラは首を傾げる。
よく分からない。
だが、この空気がこの人たちにとっての日常なのだろう。
ソラは一歩前へ出る。
「それで。」
「どうして僕たちを本部へ呼んだんですか。」
「あー。」
ニアンは頭を掻く。
「そうだった。」
「理由は二つ。」
人差し指を一本立てる。
「まず。」
「黄凰での活躍を聞いたよ。」
「ご苦労様。」
その一言は短かった。
だが、適当に言っているようには聞こえない。
「君らの頑張りのおかげで、被害は最小限だったらしい。」
「よく頑張った。」
ソラは軽く頭を下げる。
「……ありがとうございます。」
「いや。」
ニアンは首を横へ振った。
「礼を言うのはこっち。」
「キングを止められなかったら、黄凰支部は壊滅してた。」
「街も、人も、もっと死んでた。」
その言葉に部屋が静まる。
キングとの戦い。
あの巨大な魔物。
血の臭い。
崩れた街並み。
必死に剣を振った記憶が蘇る。
エキナも静かに拳を握っていた。
「まぁ。」
ニアンは空気を変えるように肩を回す。
「終わった話をいつまでも引きずってもしゃあない。」
「二人とも、生きて帰ってきた。」
「それが一番だ。」
ふっと笑う。
その笑みは屋上で見たものと同じだった。
自然で、力が抜けていて、それでいてどこか安心できる。
「んで。」
今度は二本目の指を立てる。
「二つ目。」
ニアンの視線がソラへ向く。
「ソラ。」
「お前が持ってる青い剣の話だ。」
ソラは腰の剣へ視線を落とす。
青く透き通る刀身。
名前も分からず、気付けば自分の手にあった剣。
「まず、どこから話そうか。」
ニアンは少し考えるように天井を見上げる。
「まぁ、端的に言う。」
「それは世界に十四本しか存在しない、アーティファクトと呼ばれる剣の一本だ。」
ソラは何も言わず耳を傾ける。
エキナも初めて聞く話なのか、少し驚いた表情を浮かべていた。
「勘違いすんなよ。」
ニアンは軽く手を振る。
「どこで手に入れたとか、寄越せとか、そういう話じゃない。」
「そもそもアーティファクトは持ち主を選ぶ。」
「仮に奪ったところで意味はない。」
「使えもしないし、持ってるだけだ。」
そう言うとニアンは小さく息を吐く。
「それに。」
「お前が危険な奴じゃないってことは、先の一件で分かってる。」
「だから安心しろ。」
「その剣をどうこうするつもりはない。」
ソラは少しだけ肩の力を抜いた。
正直、没収される可能性も考えていた。
それがないと聞き、胸を撫で下ろす。
「アーティファクトについては、俺たちもまだ調べてる最中だ。」
「分かってないことも多い。」
「だから、その辺の細かい話はまた今度。」
ニアンは椅子へ深くもたれ直した。
「ただ、一つだけ。」
「俺たち王国騎士団第一部隊は、そのアーティファクトについても調査を続けている。」
一瞬だけ部屋が静かになる。
ニアンはソラを真っ直ぐ見た。
「だから。」
「単刀直入に言う。」
一拍。
「ソラ。」
「第一部隊に入ってもらう。」
部屋の空気が止まった。
「……え?」
思わず声を漏らしたのはソラだった。
隣ではエキナも目を丸くしている。
「だ、第一部隊って……。」
「団長直属。」
ロマリーが静かに補足する。
「王国騎士団の中でも、実力者の集いだ。」
ソラは言葉を失ったまま、ニアンを見つめていた。




