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創世輪廻譚  作者: からあげ大佐
第一部 第二章「都市と騎士」
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第三十二話「騎士団本部」

重厚な扉が静かに開く。


 王国騎士団本部。


 外から見ても巨大だった建物は、中へ入るとさらにその広さを実感させた。


 高い天井。


 赤い絨毯が真っ直ぐ奥まで伸び、左右にはいくつもの廊下が枝分かれしている。


 受付では騎士たちが書類を受け渡し、鎧姿の者が慌ただしく行き交う。


「……広いな。」


「でしょ?」


 エキナが胸を張る。


「ここ、本部だから!」


「その説明はもう聞いた。」


「えへへ。」


 すると、二階へ続く大階段から見慣れた白い髪が姿を現した。


「来たか。」


「ロマリーさん!」


 エキナが手を振る。


 ロマリーは階段を下りながら小さく頷いた。


「道中問題はなかったか。」


「ああ。」


「迷わなかったか。」


「エキナがいたからな。」


「そうか。」


 相変わらず淡々としている。


 だが、その口元は少しだけ緩んでいた。


「団長がお待ちだ。」


「案内しよう。」


 三人は本部の廊下を歩き始める。


 歩くだけでも、本部の広さがよく分かった。


 窓の外には広い訓練場。


 別の棟へ続く渡り廊下。


 忙しそうに書類を抱えて走る騎士。


 黄凰支部とは何もかも規模が違う。


「すげぇ……。」


 思わず呟く。


「慣れれば普通だ。」


「慣れる未来が見えねぇ。」


 エキナが吹き出した。


「最初はみんなそう言うよ!」


 やがて、一枚の立派な扉の前でロマリーが足を止める。


「ここだ。」


 コンコン、と二度ノックをする。


「失礼する。」


 扉を開く。


「団長、お連れ――」


 言葉が止まった。


 部屋には誰もいない。


 机。


 書類。


 棚。


 椅子。


 あるべきものはある。


 ただ一つ。


 団長だけがいなかった。


「……。」


 ロマリーは静かに部屋を見回す。


「またか。」


 ため息を一つ。


 部屋の隅へ目を向けた。


「リア。」


「は、はいっ!」


 赤髪の少女が勢いよく返事をする。


「団長はどこだ。」


「え!? えっと!」


 目が泳ぐ。


 両手をぶんぶん振りながら必死に言葉を探す。


「えーっと、その、その……!」


 隣を向く。


 青髪の青年――レンは。


「…………」


 静かに顔を逸らした。


 額には一筋の冷や汗。


 あまりにも分かりやすい。


「えっと!」


 リアはついに観念したように叫ぶ。


「ト、トイレです!」


 部屋が静まり返る。


 ロマリーは無表情のまま口を開いた。


「団長室にトイレはない。」


「あ……。」


 リアの顔が真っ赤になる。


「レン。」


「…………。」


「何か言うことは。」


 レンは少しだけ口を開きかける。


 だが何も言わず、もう一度だけ顔を逸らした。


「…………。」


 ロマリーは深く息を吐く。


「セーラ。」


 窓際。


 本を読んでいた大人な雰囲気の女性ががゆっくり顔を上げる。


「ん?」


「団長はどこだ。」


「さぁねぇ。」


 ページを一枚めくる。


 そして小さく笑った。


「ふふっ。」


「知っているな。」


「どうだろ。」


 にこにこと笑うだけ。


 絶対に教える気はないらしい。


「……。」


 ロマリーは額を押さえた。


「本当に自由な人だ。」


 エキナが苦笑する。


「探しに行く?」


「ああ。」


 ロマリーは頷くとソラへ向き直った。


「少し時間が掛かりそうだ。」


「本部内なら自由に見て回っていて構わない。」


「分かった。」


「迷うなよ。」


「努力する。」


「努力では困る。」


 即答だった。


 思わずソラも苦笑する。


 ロマリーとエキナは足早に部屋を出て行った。


「さて……。」


 一人になったソラは歩き出す。


 廊下を進み、訓練場を覗き、食堂の前を通る。


 どこを見ても新鮮だった。


 歩いているうちに、人の少ない階段を見つける。


「上……?」


 なんとなく登ってみる。


 屋上へ続く扉を押し開けた。

心地よい風が吹き抜けた。


 何もない。


 柵があるだけの、広い屋上。


「……誰もいないか。」


 そう思った時だった。


「んー。」


 間延びした声。


 見上げる。


 屋上から続く傾斜の屋根。


 その上に、一人の男が寝転がっていた。


 片腕を枕にして空を見ている。


 昼寝でもしているのだろうか。


「んー、そんなとこ立ってないでこっち座りな。」


 男は相変わらず空を見たまま言う。


「……俺?」


「他に誰もいないし。」


 返事も軽い。


 ソラは少しだけ迷ったが、屋根へよじ登り、少し離れた場所へ腰を下ろした。


「もっと近くでいいよ。」


「いや、ここで。」


「そっか。」


 それ以上何も言わない。


 静かな時間が流れる。


 風だけが吹いていた。


 不思議な空気だった。


 初対面なのに、気まずくない。


 話さなくてもいいような。


 そんな空気。


 男がぽつりと口を開く。


「黄凰から?」


「ああ。」


「遠かった?」


「転移だったから、一瞬だった。」


「そっか。」


 また沈黙。


 普通なら会話が終わるところだ。


 それなのに、不思議と居心地は悪くない。


 男は空を見上げたまま笑う。


「ここ、気持ちいいんだよね。」


「よく来るのか?」


「暇があれば。」


「怒られないのか。」


「怒られる。」


「じゃあやめればいいだろ。」


「それは嫌。」


 即答だった。


 思わずソラも笑ってしまう。


「変な人だな。」


「よく言われる。」


 男も笑う。


 その笑い方は子どものように無邪気だった。


「黄凰はどうだった?」


 今度は少し考える。


「いい街だった。」


「うん。」


「人も良かった。」


「うん。」


「帰りたいって思える場所だった。」


 男は少しだけ目を細める。


「そう。」


「それならよかった。」


 その一言だけが、少しだけ重かった。


 まるで何かを確かめるような。


 そんな声音だった。


 ソラは横目で男を見る。


「アンタは?」


「ん?」


「ここで何してる。」


「昼寝。」


「……仕事は?」


「あとで。」


「サボりか。」


「うん。」


 悪びれもせず答える。


 ここまで堂々とされると、逆に清々しい。


「怒られるぞ。」


「たぶんね。」


「他人事みたいに言うな。」


「他人事だから。」


「意味分かんねぇ。」


 二人で笑う。


 その瞬間。


「団長ーーーーー!!」


 勢いよく屋上の扉が開く。


 ロマリーの声だった。


「ようやく見つけたぞ!」


「またこんな所で昼寝をして……!」


 エキナも顔を覗かせる。


「あっ! 本当にいた!」


 男は寝転んだまま片手をひらひら振る。


「おー、お疲れ。」


「お疲れではない!」


 ロマリーが鋭く言い返す。


 ソラはゆっくりと隣の男を見る。


「……団長?」


 ロマリーは一つ咳払いをした。


「あぁ、めんどくさくて挨拶後回しにしてたな」


 黒髪の男はゆっくりと体を起こし、小さく伸びをする。


 そしてソラへ手を差し出した。


「初めまして。」


「俺が王国騎士団、団長のニアン。」


「よろしく。」

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