第三十一話「王都ウィルツアーツ」
眩い光が視界を埋め尽くす。
足元から溢れた光は体を包み込み、景色そのものを白く塗り潰していく。
風も音も消えた。
ただ、体がどこかへ引っ張られていくような不思議な浮遊感だけが残る。
「……。」
次の瞬間。
ふっと足裏に硬い感触が戻った。
光がゆっくりと晴れていく。
「着いたよ。」
エキナの声が聞こえる。
ソラはゆっくりと目を開いた。
「……。」
言葉を失う。
目の前にそびえ立っていたのは、今まで見たどんな建物よりも巨大な城壁だった。
石造りの壁は見上げてもなお頂上が遠く、高さは数十メートルはあるだろう。
その中央には、何十人が並んでも余裕で通れるほどの巨大な門。
門の上には王国の紋章が堂々と掲げられていた。
「……でか。」
思わず漏れた一言に、エキナが笑う。
「ふふっ。」
「ここが王都、ウィルツアーツ!」
誇らしげに両手を広げる。
その姿はまるで自分の家を紹介する子どものようだった。
「これ全部、城壁か。」
「うん。」
「王都をぐるっと囲んでるんだよ。」
「……すげぇな。」
黄凰の街とは規模が違う。
それだけで、この国の中心なのだと理解できた。
「行こ!」
エキナに腕を引かれ、門へ向かう。
巨大な門の前には鎧姿の騎士が数人立っていた。
近付くと、その内の一人が一歩前へ出る。
「失礼します。身分証の提示をお願いいたします。」
「はい。」
エキナは慣れた手つきで腰の小袋から一枚の金属製の札を取り出した。
続けてロマリーからの手紙も差し出す。
「騎士団からの招集です。」
門番は札と手紙を受け取り、静かに確認を始める。
その間、ソラは黙って待つしかなかった。
(身分証なんて持ってたのか。)
初めて見るものだった。
記憶がない以上、こういう常識も分からない。
少しすると門番は頷き、二人へ敬礼した。
「確認いたしました。」
「ようこそ、王都ウィルツアーツへ。」
重厚な門がゆっくりと開いていく。
その先へ一歩踏み入れた瞬間。
「……。」
ソラは再び足を止めた。
「どうしたの?」
「いや……。」
視界いっぱいに広がる街並みを見渡す。
黄凰とは何もかも違っていた。
真っ直ぐに伸びる広い石畳。
中央には馬車専用の大通り。
その両側には歩行者用の道が整備され、多くの人々が行き交っている。
さらにその外側には透き通った水路。
水は静かに流れ、小さな橋が等間隔に架けられていた。
街全体が美しく整えられている。
「道が……広い。」
「馬車がいっぱい通るからね。」
ちょうど目の前を荷馬車が通り過ぎていく。
その横を別の馬車が追い越していくが、それでも余裕があるほど道幅は広かった。
見上げれば、建物も黄凰とは比べものにならない。
三階、四階建ては当たり前。
中には五階建てほどある建物まで見える。
窓には色鮮やかな花が飾られ、店先には看板が並んでいた。
武器屋。
防具屋。
食堂。
服屋。
魔道具店。
見たこともない店が次々と目に入る。
「人、多いな。」
どこを見ても人。
旅人。
商人。
騎士。
子ども。
大道芸人までいる。
賑やかな声が街中に響いていた。
「黄凰の何倍いるんだ?」
「何倍だろうね。」
エキナは笑う。
「でも王都だから。」
「みんなここに集まってくるんだよ。」
屋台からは焼きたての肉の香り。
甘い菓子の匂い。
香辛料の刺激的な香りまで漂ってくる。
思わず腹が鳴った。
「……。」
「あ。」
エキナが笑いを堪えている。
「聞こえた?」
「うん。」
「忘れてくれ。」
「無理。」
くすくす笑いながら歩き出す。
ソラも少し照れながら後を追った。
歩き続けるうちに、街を歩く騎士の数が増えていく。
黄凰支部の制服とは違う。
鎧も装備もどこか洗練されていた。
歩き方一つとっても隙がない。
(……強そうだ。)
すれ違うだけで伝わる空気が違う。
支部とは比較にならない。
これが本部直属の騎士たちなのだろう。
「本部ももうすぐだよ。」
エキナが前を指差す。
二人は角を曲がった。
「……。」
ソラは再び立ち止まる。
目の前には巨大な建物がそびえ立っていた。
白を基調とした荘厳な外壁。
何本もの柱が建物を支え、正面へ続く長い階段。
空へ伸びるような塔。
中央には王国騎士団の紋章が大きく刻まれている。
城と見間違えても不思議ではないほどの威厳だった。
「着いたよ。」
エキナが嬉しそうに笑う。
ソラはその建物を見上げたまま、小さく息を吐く。
「……ここが。」
「王国騎士団本部。」
ついに第二章に入りました!
新しい街に新しい場所、そして新しく出会う人々。
ここからさらに面白くないってきます!




