第三十話「行ってきます」
翌朝。
空は雲一つない快晴だった。
支部の前に立つソラは、小さく息を吐く。
隣ではエキナが落ち着きなく足踏みをしていた。
「楽しみだなぁ。」
「昨日からそれしか言ってないな。」
「だって王都だよ?」
そう言って笑うエキナに、ソラも苦笑する。
ロマリーから届いた手紙を取り出す。
裏には転行印。
これを使えば騎士団本部へ行けるらしい。
「じゃあ行くか。」
その時だった。
「ちょっと待った!」
聞き慣れた声が響く。
二人が振り返る。
そこにはゴルド。
さらに支部の隊員たちや街の住民たちまで集まっていた。
「なんだ?」
「忘れ物だ。」
ゴルドの後ろから一人の鍛冶職人が前へ出る。
その手には一本の鞘があった。
深い青を基調とした、美しい鞘。
装飾は派手ではない。
だが丁寧に磨かれているのが一目で分かった。
「これは……?」
「街のみんなからだ。」
ゴルドが短く答える。
「せっかく立派な剣なんだ。」
「皮袋に突っ込んで持ち歩くのも味気ねぇだろ。」
職人が照れ臭そうに頭を掻く。
「俺が作った。」
「木工屋が芯を作って。」
「革屋が革を巻いて。」
「細工師が金具を付けて。」
「みんなで仕上げた。」
「受け取ってくれ。」
ソラは少し言葉を失った。
「……俺に?」
「当たり前だ。」
「街を守ってくれた英雄への礼だよ。」
周囲の住民も笑顔で頷く。
「ありがとな。」
「助かった。」
「本当にありがとう。」
ソラはゆっくりと鞘を受け取る。
手に伝わる温もり。
一人で作ったものではない。
みんなの想いが詰まっている気がした。
腰から皮袋を外す。
中から青い剣を取り出した。
静かに鞘へ滑らせる。
カチッ。
吸い込まれるように収まった。
「……ぴったりだ。」
思わず呟く。
「当然だ。」
職人は胸を張った。
「その剣見てから何日悩んだと思ってんだ。」
笑いが起こる。
ソラも自然と笑っていた。
「ありがとう。」
短い言葉だった。
それでも十分伝わった。
「大事にする。」
職人は満足そうに頷いた。
ゴルドが腕を組む。
「さて。」
「本当に行くんだな。」
「ああ。」
エキナが手紙を取り出す。
「じゃ、使うね。」
手紙を地面へ置く。
そして迷いなく踏み抜いた。
ボッ!!
突然、紙が青白い炎に包まれる。
「!」
ソラが目を見開く。
燃え上がった炎は紙を焼き尽くし、そのまま地面へ流れ込んだ。
複雑な紋様が石畳へ一瞬で焼き付き、巨大な門印を描き出す。
「これが……。」
「転行印。」
エキナが笑う。
「すご……。」
思わず漏れた本音だった。
「ほら、真ん中。」
「あ、ああ。」
二人は門印の中央へ立つ。
淡い光が足元から立ち昇り始める。
ソラはもう一度だけ街を見渡した。
見慣れた景色。
見慣れた人たち。
記憶はない。
それでも。
この街で過ごした時間だけは、本物だった。
「それじゃ。」
ソラが口を開く。
「行っ――」
「違う。」
ゴルドの声だった。
ソラが振り返る。
「そういう時は。」
一拍置く。
「『行ってきます』だろ。」
ソラは一瞬きょとんとする。
そして小さく笑った。
「……そうだな。」
ゆっくり息を吸う。
「行ってきます!」
「「「行ってらっしゃい!!」」」
街中に声が響く。
エキナも笑顔で手を振った。
「行ってきまーす!」
次の瞬間。
門印が強く輝く。
視界が白く染まる。
景色が溶ける。
(この街で得たものは、記憶なんかじゃない。)
(仲間がいて。)
(帰る場所があって。)
(また帰ってきたいと思える。)
(そんな場所ができた。)
光は全てを包み込み。
二人の姿は、その場から静かに消えた。
読んでくださりありがとうございます!今回のお話で創世輪廻譚第一部第一章「始まりの街」が終わりました!ここまで続けられたのも読んでくださる皆さんのおかげです!ありがとうございます!
次話から第二章「騎士と都市」が始まります!
ぜひ読んでください!
あ、後それと後書きを使ってキャラ紹介とか魔物紹介とかしてみようかなと思ってるんですがどうですかね?よければご意見をください!
それでは今後も創世輪廻譚をよろしくお願いします!




