第二十八話「手紙」
恐る恐る手紙を開く。
騎士団本部からの手紙。
しかも差出人はロマリーだ。
別れ際は普通だった。
何か問題が起きたようにも見えなかった。
だが、それでも緊張するものは緊張する。
「早く読んでよ。」
隣でエキナが身を乗り出す。
「急かすなって。」
「だって気になるんだもん。」
ソラはため息を吐きながら紙を広げた。
見慣れた綺麗な文字が並んでいる。
間違いなくロマリーのものだった。
ソラへ
恐らく騎士団本部からの手紙ということで、少々身構えているだろうが安心してほしい。不利益を被るような内容ではない。
書いているのは私だ。まぁ字体を見れば分かるだろうがな。
いつこの手紙がお前の元へ届いているかは分からないが、久しぶりだ。
では早速本題に移ろう。
ソラ、そしてエキナ。
君たち二名を騎士団本部へ招集する。
何かの責任を取らされるだとか、処罰を受けるだとか、そういった類の話ではない。
そこは安心してくれて構わない。
招集の理由については団長直々の命令でな。残念ながら私も詳しい事情までは聞かされていない。
ただ、できるだけ早く本部へ来るようにとのことだ。
手紙の裏に転行印を付けておいた。
それでは。
本部で待っている。
――ロマリー
「……本部?」
思わず声が漏れた。
「なんて書いてあったの?」
エキナが横から覗き込む。
「騎士団本部に来いって。」
「え?」
エキナが固まる。
「え?」
もう一度聞き返す。
「だから本部に来いって。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
鼓膜が破れるかと思った。
思わず耳を押さえる。
「うるさっ。」
「本部!? 本部ってあの本部!?」
「他にあるのか?」
「ないよ!?」
エキナは勢いよく手紙を引ったくる。
そして目を輝かせながら読み始めた。
「本当だ……。」
数秒後。
「本当だぁぁぁ!!」
両手を突き上げる。
「やったぁぁぁぁ!!」
「だからなんでお前がそんな喜ぶんだよ。」
「だって本部だよ!?」
何を言っているんだと言わんばかりの顔だった。
「王都だよ!?」
「騎士団本部だよ!?」
「団長いるんだよ!?」
「そうだな。」
「反応薄っ!?」
エキナは頭を抱えた。
「もっとこう!うわぁぁぁ!とかないの!?」
「ない。」
「なんで!?」
「会ったことないし。」
その通りだった。
団長と言われても正直実感がない。
ロマリーならまだ分かる。
だが団長は名前すら知らないのだ。
「もったいないなぁ……。」
エキナはぶつぶつ言いながら再び手紙へ目を落とす。
そして。
「あ。」
何かに気付いたように声を上げた。
「どうした?」
「転行印じゃん。」
「転行印?」
聞き覚えのない単語だった。
エキナは一瞬きょとんとした後、苦笑する。
「あー。」
「そっか。」
「覚えてないんだった。」
「悪い。」
「別に謝らなくていいよ。」
エキナは手紙を裏返した。
そこには赤黒い紋様が刻まれている。
円を中心に幾何学的な線が重なった複雑な印だった。
「これが転行印。」
「何するものなんだ?」
「門印。」
「門印?」
「うん。」
エキナは椅子へ腰掛ける。
こういう説明は嫌いではないらしい。
「門印には三種類あるの。」
指を一本立てた。
「まず転行印。」
「今見てるこれね。」
「これは飛ぶための印。」
「飛ぶ?」
「転移するってこと。」
なるほど。
名前の通りだ。
「次に転帰印。」
今度は二本目。
「これは飛ぶ先を決める印。」
「飛ぶ先?」
「うん。」
「転帰印を設置した場所に向かって転行印を使うの。」
「じゃあ転帰印だけじゃ何も起きないのか。」
「そういうこと。」
エキナは頷いた。
「最後が双行印。」
「それは?」
「転行印と転帰印の両方の役割を持つやつ。」
「便利そうだな。」
「便利だよ。」
即答だった。
「すっごく高いけど。」
「だろうな。」
「本当に高い。」
「だろうな。」
なんとなく想像はついた。
そんな便利なものが安いわけがない。
ソラは改めて転行印を見る。
「つまりこれを使えば本部に行けるのか。」
「行ける!」
エキナの声が弾む。
「しかも団長命令!」
「本部招集!」
「王都!」
興奮が止まらないらしい。
椅子から立ち上がり、部屋の中を歩き回り始める。
「準備しなきゃ!」
「今から?」
「今から!」
「転移するだけだろ。」
「そういう問題じゃないの!」
びしっと指を突き付けられた。
「着替え!」
「荷物!」
「旅の準備!」
「転移するだけだろ。」
「だからそういう問題じゃないの!!」
再び怒られた。
理不尽だった。
だがエキナは本気で楽しそうだ。
ソラは思わず笑う。
「なによ〜」
「いや。」
騎士団本部。
王都。
団長からの招集。
何が待っているのかは分からない。
だが。
エキナの様子を見る限り、悪い話ではなさそうだった。
「ほらソラ!」
エキナが扉を開く。
「準備するよ!」
「はいはい。」
やれやれと肩を竦めながら立ち上がる。
こうして二人は、本部へ向かう準備を始めるのだった。




