表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世輪廻譚  作者: からあげ大佐
第一部「もう一度君に会うために」     第一章「始まりの街」
27/33

第二十七話「鈍く重く堅く強く」

 ガギィン!!


 木剣同士が激しくぶつかる。


「っ!!」


 腕に重い衝撃が走った。


 受け止めたはずなのに、そのまま押し込まれる。


 まるで岩が突っ込んできたみたいだった。


 足が地面を削る。


 それでも踏ん張る。


「どうしたァ!!」


 ゴルドが豪快に笑う。


「一ヶ月も寝てたせいで体まで寝ちまったか!!」


「そんなわけあるか!!」


 ソラは後ろへ飛び退いた。


 距離を取る。


 だが次の瞬間にはゴルドが目の前にいた。


「うおっ!?」


 振り下ろされる木剣。


 慌てて受ける。


 ガンッ!!


 重い。


 とにかく重い。


 木剣なのに鈍器だった。


「遅ぇ!!」


「っらぁ!!」


 ソラも反撃する。


 横薙ぎ。


 だが木剣はあっさり弾かれた。


「甘ぇ!!」


 腹に蹴り。


「ぐっ!?」


 そのまま吹き飛ばされる。


 地面を転がり、土煙が舞った。


 仰向けになった空はやけに青い。


(なんでこうなったんだ……)


 話は少し前に遡る。


 街を歩いていたところをゴルドに呼び止められた。


『来い。』


『え?』


『訓練だ。』


『いや待て。』


『木剣持て。』


『話聞けよ。』


 そして今である。


 理不尽だった。


「何寝転がってやがる。」


 ゴルドが木剣を肩に担ぐ。


 ソラはため息を吐きながら立ち上がった。


「寝転がってるんじゃない。」


「転ばされたんだ。」


「同じことだ。」


「違うだろ。」


 服についた土を払う。


 だが次の瞬間、ゴルドの口から飛び出した言葉にソラは動きを止めた。


「この程度じゃあ、やっぱキングには勝てそうもねぇなぁ。」


「そりゃそうだろ。」


 苦笑する。


「俺が戦えたのだってスキルのおかげだ。」


 キングとの戦いが脳裏をよぎる。


 何度も見た死の未来。


 拳に潰される未来。


 炎に焼かれる未来。


 蛇に噛み砕かれる未来。


「あのスキルがなかったら何回死んでたか分からない。」


「ああ。」


 ゴルドはあっさり頷いた。


「その通りだ。」


 予想外の返答だった。


 てっきり否定されると思っていた。


「だがな。」


 ゴルドは木剣の切っ先を地面へ向ける。


「スキルに頼り切るのは命取りだぞ。」


「でも助かった。」


「ああ。」


「助かったとも。」


 ゴルドは自分の拳を見る。


 大きく、厚く、無数の傷跡が残る拳。


「俺のスキルはガチゴチ。」


「体を岩みてぇに固くする力だ。」


 拳を握る。


 筋肉が膨れ上がり、皮膚が岩のような質感へ変わった。


 何度も見たことのあるスキル。


 だが改めて見ると異様だった。


「だったら常に使ってれば強いんじゃないのか?」


「そう思うか?」


 ゴルドは笑う。


「歩く時に全力疾走するか?」


「しない。」


「だろ。」


 岩のようになっていた拳が元に戻る。


「必要な時だけ使う。」


「必要じゃねぇなら使わねぇ。」


「それだけだ。」


 ソラは黙る。


 ゴルドは続けた。


「俺が強ぇのはガチゴチがあるからじゃねぇ。」


「ガチゴチがある俺が鍛え続けたからだ。」


 木剣を構える。


 その姿には妙な説得力があった。


「スキルは道具だ。」


「剣と同じ。」


「便利な道具。」


「だが振るうのは自分自身だ。」


 ソラは自然と自分の手を見る。


 キングとの戦い。


 未来ばかり見ていた。


 予知に頼り続けていた。


「お前が鍛えるべきなのは未来を見る力じゃねぇ。」


 ゴルドが木剣を向ける。


「未来を見て動ける体だ。」


「未来を見て判断できる頭だ。」


「未来を見ても折れねぇ心だ。」


 言葉が胸に刺さる。


 未来が見えても避けられなければ意味がない。


 未来が見えても怖くて動けなければ意味がない。


 未来が見えても剣が振れなければ意味がない。


「……なるほどな。」


「分かったか?」


「なんとなく。」


「十分だ。」


 ゴルドは満足そうに笑った。


 そして。


「じゃあ続きだ。」


「は?」


「体で覚えろ。」


「今いい話したじゃん!」


「だからだ。」


 ゴルドが踏み込む。


「うおっ!?」


 再び木剣が振り下ろされた。


 ガギィン!!


 訓練場に音が響く。


 そこからは無我夢中だった。


 受ける。


 弾く。


 避ける。


 転ぶ。


 立つ。


 また転ぶ。


 何度も何度も木剣を振った。


 腕が痛い。


 足も痛い。


 息も上がる。


 だが不思議と嫌ではなかった。


 気付けば太陽は大きく傾いていた。


「今日はこんなもんだな。」


 ゴルドが木剣を肩へ担ぐ。


 ソラは地面へ座り込んだ。


「疲れた……。」


「一ヶ月寝てたんだ。」


「その分鈍ってる。」


「勘弁してくれ。」


「しない。」


 即答だった。


「鬼か。」


「違う。」


 ゴルドは笑う。


「教師だ。」


「最悪だ。」


 ソラが肩を落とすと、ゴルドは豪快に笑った。


 そのまま二人は支部へ戻る。


 夕暮れの街は暖かな橙色に染まっていた。


 キングが暴れた跡はまだ残っている。


 それでも人々は前を向いていた。


 商人は店を開き。


 子供は走り回り。


 誰かが笑っている。


 それを見ながらソラは少しだけ胸を張った。


 守れたのだ。


 完璧ではなくとも。


 それでも。


 支部の扉を開く。


「あ、いたいた!」


 聞き慣れた声。


 エキナだった。


 なぜか嬉しそうに駆け寄ってくる。


「どうした?」


「ソラ宛てに手紙来てるよ!」


「手紙?」


 思わず首を傾げる。


 エキナは封筒をひらひらと振った。


「ほらこれ。」


 差し出された封筒を受け取る。


 見慣れない紋章。


 妙にしっかりした封蝋。


「誰からだ?」


「さぁ?」


 エキナは肩を竦める。


「でもなんか偉そうなやつ。」


「なんだそれ。」


 苦笑しながら封筒を裏返す。


 そして。


 差出人の名前を見た瞬間。


 ソラの動きが止まった。


「……え?」


 思わず声が漏れる。


 エキナが首を傾げた。


「どうしたの?」


 だがソラは答えなかった。


 ただ封筒を見つめる。


 その手紙は――王国騎士団本部からのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ