第二十一話「忍耐」
キングがこちらを睨む。
巨大な体。
圧倒的な威圧感。
さっきまでなら視線を向けられるだけで足が竦んでいた。
だが今は違う。
違うはずだ。
(……落ち着け。)
深呼吸。
頭を回す。
(傷は治った。)
理由は分からない。
だが事実だ。
潰れた腕も砕けた骨も裂けた皮膚も捻れた内臓も。
全部消えている。
(それと……)
思い出す。
何度も見てきた光景。
死ぬ瞬間だけ見える未来。
(スキル……なのか?)
分からない。
だが。
(いや、もういい。)
今は考えている暇がない。
(スキルだ。)
そういうことにする。
生き残れたら後で考えればいい。
(俺のスキルは死ぬ未来が見える。)
たぶん。
きっと。
おそらく。
全部全部全部推測だ。
それでも。
今はそれしかない。
(なら。)
剣を構える。
(利用する。)
キングが動いた。
地面が砕ける。
巨体とは思えない速度。
「っ!!」
反射的に横へ飛ぶ。
直後。
ドゴォォォォン!!
拳が石畳を粉砕した。
破片が飛び散る。
頬を掠める。
(速い……!)
だが、見えた。
さっきよりはっきり。
自分の頭が潰される未来。
それを見たから避けられた。
ならやれる。
ソラは踏み込む。
キングの懐へ。
振るわれる拳。
未来。
腹部貫通、死亡。
「っ!」
足を止める。
未来が消える。
なら左。
左へ飛ぶ。
今度は腕。
未来。
頭部粉砕、死亡。
後ろへ下がり、未来が消える。
(面倒くさい!!)
思わず心の中で叫ぶ。
だが。
死ぬよりはいい。
キングの攻撃が続く。
拳。
蹴り。
棍棒。
尻尾。
全てが必殺。
一つでも当たれば終わる。
未来を見て、避ける、未来を見る。避ける。
避けて、避けて、未来を見て、避ける。
その繰り返し。
だが。
少しずつ。
少しずつ。
見えてくる。
「そこだ!」
剣を振るう。
青い軌跡。
キングの腕を斬る。
ザシュッ!!
初めて。
初めて刃が通った。
浅い。
本当に浅い。
それでも。
確かに傷だ。
キングの動きが止まる。
赤い瞳が細められる。
「……効いた。」
思わず声が漏れる。
だが。
次の瞬間。
ギャオオオオオ!!
怒号。
衝撃波のような咆哮。
ソラの体が吹き飛ぶ。
屋台へ激突。
木片が飛び散り、品々が弾ける。
「がっ……!」
血を吐く。
肋骨が軋む。
それでも立ち上がる。
傷は治る。
だが痛みは消えない。
(強い……)
分かっていた。
分かっていたはずだった。
予知がある。
剣もある。
それでも。
全然足りない。
キングが歩き出す。
一歩。
また一歩。
逃げ場を潰すように。
獲物を追い詰めるように。
ソラは剣を握り直した。
(まだだ。)
進めど、死の未来。
斬りかかろうと切れず終い。
何度も。
何度も。
何度も。
そして。
キングが腕を振り上げた。
ソラは右へ飛ぶ。
その瞬間。
未来が見えた。
「……え?」
右側。
飛び込んだ先。
巨大な口。
牙。
黒い大蛇。
今まで見えていなかった尻尾の先が大口を開けていた。
そのまま噛み砕かれる未来。
「っ!!」




