第二十話「進め」
「ぁ….ぁ….」
息ができない。
視界が霞む。
立てない。
全身が痛い。
どこが折れているのかも分からない。
それでも。
キングはゆっくりと近付いてくる。
重い足音。
一歩。
また一歩。
それだけで恐怖が込み上げる。
「くそ….」
震える手で剣を握る。
だが。
ボロリ、と刃が崩れ落ちた。
限界だった。
武器も。
体も。
もう終わりだ。
キングが棍棒を振り上げる。
未来。
頭部粉砕、死亡。
「っ….」
避けられない。
動けない。
死ぬ。
そう思った瞬間。
何かが空から落ちてきた。
キングの目の前。
ソラとの間。
石畳を貫きながら、それは地面へ突き刺さる。
青き刀身の剣。
淡い光を放っている。
「….これ….」
知っている。
最初に持っていた剣。
いつの間にか消えていたはずの剣。
何故ここにあるのかは分からない。
だが。
「っ….」
今はもう、それに縋るしかなかった。
這うように手を伸ばす。
キングが動く。
棍棒。
未来。
頭蓋粉砕、死亡。
「ぁ….」
それでも止まれない。
指先が剣へ触れた。
瞬間。
意識が落ちた。
──静かだった。
音がない。
地面もない。
空もない。
どこまでも空白が広がっている。
その中央。
人がいた。
いや。
人の形をした光。
輪郭が揺れている。
顔も見えない。
男か女かも分からない。
「…….」
何かを喋った。
だが聞こえない。
ノイズみたいに掠れている。
それでも。
何故か、その名前だけが頭に浮かんだ。
「….アズラエル?」
瞬間。
意識が戻る。
「っ!!」
息を吸う。
目を開ける。
広場。
燃える街。
キング。
そして。
青い剣を握る自分。
「….ぁ?」
立っていた。
さっきまで倒れていたはずなのに。
視線を落とす。
潰れていた腕。
砕けていた骨。
血は残っている。
服も破けている。
なのに。
「傷が….」
全部。
消えていた。
時を戻して、東戦線。
「らぁぁぁぁっ!!!」
大剣が唸る。
突っ込んできたノーマルゴブリン達がまとめて吹き飛んだ。
血が舞う。
土が抉れる。
「まだまだぁ!!」
ゴルドは止まらない。
振る。
叩き潰す。
薙ぎ払う。
まるで巨大な棍棒でも振り回しているみたいだった。
ギャァァァァッ!!
アーチャーの矢。
ゴルドは避けない。
腕で弾く。
金属音。
矢が砕け散った。
「ちまちま撃ってんじゃねぇ!!」
地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
アーチャーゴブリン達が慌てて後退した。
だが遅い。
大剣一閃。
まとめて吹き飛ぶ。
その時だった。
グォォォォッ!!
前線を割るように巨体が現れる。
ロード。
ゴルドと同等のサイズを持つ大型種。
「おっ、やっとデケェのが来たか。」
ロードが突進。
巨大な腕を振り上げる。
ドゴォンッ!!
拳がゴルドへ叩き込まれる。
地面が沈む。
だが。
「軽ぃなぁ!!」
ゴルドは笑っていた。
腕が鈍い鉄色へ変わっている。
ロードが目を見開く。
次の瞬間。
ゴルドの腕をロードが噛んだ。
ギギギギギギッ!!
だが砕けない。
「どうしたぁ?」
ニヤリと笑う。
「噛めねぇのか?」
ロードが暴れる。
だが。
ゴルドはそのまま腕を持ち上げた。
「ならよぉ。」
肩を鳴らす。
「よーく味わってくれよぉ!!!」
ブォンッ!!!
ロードごと振り回す。
巻き込まれるノーマル。
吹き飛ぶアーチャー。
悲鳴。
骨の砕ける音。
最後に。
「らぁぁぁぁぁっ!!!」
投げた。
ロードの巨体がゴブリン軍へ突っ込む。
ドゴォォォォンッ!!
土煙。
ゴブリン達がまとめて吹き飛んだ。
「がはははははっ!!!」
大剣を肩へ担ぐ。
「まだまだ来いよぉ!!!!」




