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創世輪廻譚  作者: からあげ大佐
第一部「もう一度君に会うために」     第一章「始まりの街」
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第十五話「現実」

エキナが森へ向かってから数時間が経っていた。


 昼を過ぎても戻ってこない。


 普段ならそこまで気にしない。


 調査というのは時間がかかるものだ。


 それにエキナは騎士だ。


 森にも慣れている。


 だが今日は違った。


「……」


 落ち着かない。


 本を開いても頭に入らない。


 訓練用の木剣を振ってみても集中できない。


 気付けば窓の外を見ていた。


 夢のことが頭から離れない。


 ゴブリンキング。


 本当にそんな存在がいるのだろうか。


 もしいるなら。


 夢との関係は。


「考えても仕方ねぇぞ」


 不意に声がした。


 ゴルドだった。


 椅子に座りながら肉を齧っている。


 どこから持ってきたのかは知らない。


「顔に出てるぞ」


「そんなにか?」


「がはは!わかりやすい!」


 豪快に笑う。


 だがその目は少しだけ鋭かった。


 ゴルドも気にしているのだろう。


 だからこそエキナを向かわせた。


「まぁ待て」


 そう言った時だった。


 支部の扉が勢いよく開いた。


「ただいまー!」


 聞き慣れた声だった。


 エキナだ。


 服には葉っぱが付いている。


 少し土埃も被っていた。


 どうやら相当森の奥まで行っていたらしい。


「おかえり」


「おー!」


 ゴルドが立ち上がる。


 そして。


 エキナの表情を見た。


 笑っていない。


 それだけで十分だった。


「見つけたか」


 空気が変わる。


 エキナは黙って頷いた。


「……うん」


 食堂から笑い声が消える。


「座れ」


 ゴルドが言う。


 エキナは椅子に腰掛けた。


 水を一気に飲み干す。


 それから。


 ゆっくり口を開いた。


「ゴブリンはいた」


「どれくらいだ」


「わかんない」


 即答だった。


 だが続く言葉が重い。


「多すぎて数えられない」


 静かになる。


 俺もゴルドも何も言わない。


「巣は空っぽだった」


「やっぱりか」


「うん」


 ゴルドの予想通りだった。


「でも足跡があった」


 エキナが続ける。


「大量に」


「……」


「全部同じ方向に向かってた」


 嫌な予感が強くなる。


「それで追いかけたの」


 エキナは膝の上で拳を握った。


「そしたら見つけた」


 声が少しだけ震えていた。


 俺は思わず身を乗り出す。


「何を?」


 数秒の沈黙。


 エキナは息を吸った。


 そして。


「群れ」


 その一言だけだった。


「群れ?」


「そんなものじゃない」


 首を横に振る。


「軍隊だった」


 その表現が一番近かったのだろう。


「谷があったの」


「そこが全部ゴブリンだった」


「全部?」


「全部」


 背筋が冷える。


 想像が追いつかない。


 森で戦った三体のゴブリン。


 あれが何百も。


 何千も。


 そんな光景だった。


「ロードもいた」


 エキナが言う。


「一体じゃない」


「何体も」


 ゴルドの顔から笑みが消えていた。


「……で」


 低い声。


「いたんだな」


 エキナは頷く。


 その動作は重かった。


 見たくないものを見てしまったように。


「いた」


 静寂。


 誰も喋らない。


 窓の外では子供達の声が聞こえる。


 平和な街の音だった。


 だからこそ。


 その報告が現実味を帯びない。


「大きかった」


 エキナがぽつりと言う。


「ロードより大きい」


「……」


「周りのゴブリンが全部そいつを見てた」


 思い出しているのだろう。


 表情が硬い。


「怖かった」


 その言葉に。


 俺は何も言えなかった。


 普段のエキナなら。


 危険な魔物を見ても笑っている。


 そんな彼女が怖いと言った。


 それだけで十分だった。


「ゴブリンキングか」


 ゴルドが呟く。


 エキナは頷く。


 否定しなかった。


 できなかった。


「多分」


 それが答えだった。


 ゴルドは大きく息を吐く。


 そして立ち上がった。


「急ぐぞ」


 低い声だった。


「報告する」


「到達まではどれくらいだ?」


 エキナは少し考える。


 森で見た距離を思い出しているのだろう。


 そして。


「三日」


 そう答えた。


「順調に進めば三日後には黄凰に着くと思う」


 その言葉を聞いて。


 俺の背中を冷たいものが流れた。


 三日。


 たった三日だ。


 夢の中で見た炎が脳裏をよぎる。


 燃える街。


 悲鳴。


 大量のゴブリン。


 あの光景が。


 急に現実へ近付いた気がした。

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