第十四話「王」
朝だった。
最近は早くに起きてしまう。
理由は簡単だ。
夢を見るから。
「……」
天井を見上げる。
また見た。
燃える街。
悲鳴。
血。
そして大量のゴブリン。
内容は同じだった。
だが少し違う。
前は逃げるだけだった。
今回は剣を持って戦っていた。
人を助けていた。
それでも最後は死んだ。
「嫌な夢だな……」
小さく呟き、ベッドから降りる。
顔を洗い、着替えを済ませて食堂へ向かった。
食堂には既にエキナとゴルドがいた。
エキナはパンを頬張っている。
ゴルドは朝から肉の塊を食べていた。
相変わらずだ。
「おはよう」
「おはよー」
「おう!」
席に座る。
スープを一口飲む。
温かい。
それだけで少しだけ気持ちが落ち着いた。
「また夢?」
エキナが聞いた。
最近は隠していない。
何度も見ているからだ。
「あぁ」
頷く。
「またかぁ……」
「今度はどうだった?」
ゴルドが聞く。
俺は少し考えた。
「内容が変わった」
二人が顔を上げる。
「変わった?」
「前は逃げて死ぬだけだった」
スープを見つめる。
夢の光景が頭を過る。
「今回は剣を持って戦ってた」
「戦ってた?」
「あぁ」
エキナが少し驚いた顔をした。
「人も助けてた」
「へぇ」
「でも結局死んだ」
静かになる。
重い空気ではない。
ただ考えている。
そんな沈黙だった。
「夢の中の魔物は?」
ゴルドが聞く。
「多かった」
即答だった。
「森で見たゴブリンなんて比べ物にならない」
思い出すだけで寒気がする。
「街中が埋まるくらい」
「……」
ゴルドが腕を組んだ。
「なぁ」
ぽつりと呟く。
「最近の話と少し似てるな」
「最近の話?」
俺が聞く。
エキナも首を傾げた。
ゴルドは少し考えてから言った。
「魔物だ」
食堂の空気が変わる。
「増えてるんだろ?」
「あぁ」
「それにゴブリンも消えてる」
それはこの前聞いた話だった。
巣にいるはずのゴブリンがいない。
数だけが減っている。
「……」
ゴルドはしばらく黙り込む。
そして。
「ゴブリンキングかもしれねぇな」
その言葉に。
エキナが勢いよく立ち上がった。
「まさか!」
椅子がガタッと鳴る。
「そんなの本当にいるの!?」
「俺も見たことはねぇ」
ゴルドが答える。
「だが話だけは聞いたことがある」
俺は二人を見た。
話についていけない。
「なんだそれ」
エキナも座り直した。
表情は真面目だ。
ゴルドは腕を組んだまま話し始める。
「ゴブリンロードってのは知ってるな?」
「あぁ」
群れを率いる上位種だ。
本にも載っていた。
「だがさらに上がいるって話だ」
「上?」
「王だ」
短い言葉だった。
だが妙に重かった。
「ゴブリンキング」
ゴルドが続ける。
「生まれながらにして全てのゴブリンを従える個体」
「全て?」
「全部だ」
食堂が静かになる。
「群れの垣根も関係ねぇ」
「縄張りも関係ねぇ」
「王が現れれば集まる」
その言葉に。
ふと森の話を思い出した。
ゴブリンが消えた。
巣からいなくなった。
それがもし。
集まっているだけだとしたら。
「……」
嫌な想像だった。
エキナも同じことを考えたのか顔をしかめている。
「でもそんなの伝承みたいな話じゃん」
「そうだ」
ゴルドは頷く。
「だから外れててほしい」
本心だった。
それが伝わってくる。
「だが説明はつく」
窓の外を見る。
朝の街は平和だった。
商人が店を開き。
子供達が走り回っている。
何も起きていない。
だからこそ。
余計に不安になる。
「確認してくる」
ゴルドが立ち上がった。
するとエキナも立つ。
「私が行く」
「ん?」
「足跡追ったり調べたりするなら私の方が得意だよ」
ゴルドは数秒考えた。
それから笑う。
「違ぇねぇ」
「でしょ?」
胸を張るエキナ。
「気を付けろよ」
「任せて!」
そう言うとエキナは食事をかき込んだ。
急いで準備するつもりらしい。
俺はその様子を見ながら窓の外へ目を向けた。
平和な街だった。
夢とは違う。
燃えてもいない。
悲鳴もない。
それなのに。
胸の奥に残る嫌な感覚だけは消えなかった。
もし本当にゴブリンキングがいるのなら。
もし夢が現実になるのなら。
この平和は。
いつまで続くのだろうか。




