第十三話「変わる」
「くそ!数が多い!!」
剣を振る。
血が飛ぶ。
目の前のゴブリンが崩れ落ちる。
だが終わらない。
次が来る。
その次も。
そのまた次も。
広場へ続く道は魔物で埋め尽くされていた。
息を吸う。
肺が痛い。
熱い。
街中が燃えている。
崩れた民家から火の粉が舞い上がり、焦げ臭い煙が空を覆っていた。
耳を塞ぎたくなる。
悲鳴が、泣き声が、助けを求める声が。
聞こえる。
「ソラ!!」
聞き慣れた声。
振り返る。
エキナだった。
服はボロボロ。
肩から血を流している。
それでも剣を握っていた。
「後ろ!」
「っ!」
反射的に身を屈める。
頭上を石が通過した。
そのまま振り抜き、踏み込む。
石を投げたゴブリンの胸を切り裂く。
「ありがとう!」
「お礼は後!」
エキナが笑う。
こんな状況なのに。
それでも笑っている。
だから。
まだ大丈夫だと思ってしまう。
まだ終わっていないと。
「ギギィ!!」
ゴブリンが飛び掛かってくる。
一体。
二体。
三体。
振る。
受ける。
弾く。
切る。
苦しい。
腕が重い。
それでも訓練した。
ゴルドに叩き込まれた。
何度も何度も木剣を振った。
だから戦える。
少なくとも逃げるだけじゃない。
「はぁっ!!」
振り下ろす。
ゴブリンが倒れる。
広場の端で子供が泣いていた。
魔物が近付いている。
考えるより先に体が動いた。
「こっちだ!!」
駆け出し、間に割って入る。
ゴブリンは跳躍し飛びかかってくる。
剣で受け、壁に蹴り飛ばす。
強い衝撃を受けてぐったりと倒れた隙に。
「早く逃げろ!」
子供に逃げるよう促す。
生きている。
助けられた。
前はできなかった。
なのに今回はできた。
「がはははは!!」
豪快な笑い声が響く。
ゴルドだ。
巨大な剣が唸る。
ゴブリンがまとめて吹き飛ぶ。
「やるじゃねぇかソラ!」
「ゴルド!」
「死ぬなよぉ!!」
「そっちこそ!」
思わず笑う。
こんな状況なのに。
だが不思議と安心した。
ゴルドがいる。
エキナがいる。
ならきっと大丈夫だ。
そう思った。
その瞬間だった。
ドォンッ!!
地面が揺れた。
いや。
揺れたなんてものじゃない。
何かが落ちた。
そう思うほどの衝撃。
誰もが動きを止める。
ゴブリンですら。
「……なんだ」
視線が広場の中央へ向く。
そこにいた。
見上げるほど大きなゴブリン。
普通じゃない。
そんなことは一目で分かった。
額には赤い宝石。
全身には派手な装飾品。
肩には丸太のような棍棒。
そして。
周囲のゴブリン達がそいつを見ていた。
崇めるように。
恐れるように。
まるで。
王を見るみたいに。
「なんだよ……」
嫌な汗が流れる。
本能が叫んでいる。
逃げろと。
近付くなと。
関わるなと。
「……」
そいつが動く。
ただ一歩。
前へ出ただけ。
それだけなのに空気が変わった。
重い。
息がしづらい。
足が震える。
「ゴルド……」
「見りゃ分かる」
ゴルドが剣を握り直す。
笑っていない。
初めて見る顔だった。
「エキナ」
「うん」
エキナも真剣な顔をしている。
「ソラ」
呼ばれる。
振り向く。
「無理だと思ったら逃げて」
「……」
返事ができない。
逃げる?
誰を置いて?
この街を?
二人を?
できるわけがない。
「行くぞ」
ゴルドが言う。
地面を蹴る。
エキナが続く。
ソラも走る。
三人で同時に飛び出した。
「おおおおおっ!!」
ゴルドの剣が振り下ろされる。
エキナの剣が閃く。
ソラも横から切り込む。
完璧だった。
そう思った。
だが。
見えない。
何が起きたか分からない。
気付けばゴルドが吹き飛んでいた。
建物へ叩きつけられる。
エキナも弾かれる。
石畳を転がる。
「は……?」
理解できない。
強いとかじゃない。
そんな次元じゃない。
「ソラ!!」
エキナの叫び声。
視界が真っ黒になる。
巨大な棍棒。
避ける。
間に合わない。
考えるより先に体が動く。
地面を転がるようにかろうじて避けれた。
石畳が砕ける。
さっきまで立っていた場所が消し飛んだ。
冷や汗が流れる。
今ので死んでいた。
確実に。
「くそぉぉぉ!!」
叫ぶ。
恐怖を振り払うように。
走る。
「ソラ!!待って!!」
剣を握る。
振る。
届く。
そう思った。
だが。
硬い。浅い。
血は出た。
なのに、
そいつは何も感じていなかった。
まるで虫に刺されたみたいに。
「嘘だろ……」
心が折れそうになる。
それでも戦う。戦うしかない。
守りたい。助けたい。
生きてほしい。
だから。
だから――
巨大な影が目の前を覆った。
見上げる。
赤い宝石。
振り下ろされる棍棒。
避けられない。
間に合わない。
死ぬ。
そう思った瞬間。
世界が砕けた。
「っ!!」
飛び起きる。
荒い呼吸。
汗で服が張り付いている。
心臓がうるさい。
窓の外から朝日が差し込んでいた。
見慣れた部屋。
聞こえる鳥の鳴き声。
平和な朝。
夢だ。
また。
あの夢だ。
「はぁ……はぁ……」
だが同じ夢ではなかった。
「似てる....でも...変わった?...」
なんの意味を示すのか。
何が起こって変わったのか。
今はわからない事柄だけど、
剣を持って戦っていた。
少ないけれど救ってた。
これは、大きな意味を持つ。
そんな気がした。




