表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
体育大学まるごと異世界転移 ~帝体大魂が世界を変える~  作者: 空腹原夢路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/43

第40話 魔王軍の黄昏

魔王軍の本拠地、黒鉄の城。


その城門前の広場には、無数の魔族たちが集まっていた。野営のための篝火が焚かれ、肉が焼かれる匂いが立ち上っている。だが、宴の雰囲気ではない。あちこちで、低い唸り声と歯軋りが混じり合っていた。


「くそッ……!」


巨大な角を持つオーガが、地面を拳で叩きつけた。


「俺たちが、人間どもに二度も負けるとはな!」


「サッカーに続いて、野球まで……」


「魔族の誇りはどこへ行った!」


腹を立てる者、頭を抱える者、酒で気を紛らわせる者。広場には、敗者の空気が充満していた。


その中央に、魔王軍野球チームの面々が肩を寄せていた。ガルド、ヴァルナ、バルゴ、バルガ。それぞれが無言で、目の前の篝火を見つめている。


「……気が滅入る空気だな」


ヴァルナが、赤い髪をかき上げながら呟いた。


「ふん。負けたのは事実だ。文句は言えん」


ガルドが低く返す。だが、その声には怒りよりも疲労が滲んでいた。


バルゴとバルガの双子も、いつもの活気がない。尻尾をだらりと下げて、肉串をかじっている。


「次は、勝てるかな……」


「勝つに決まってるだろ、バルガ」


「でも、帝体大もマジーナ王国も、もっと強くなるだろうし……」


「だから、俺たちももっと強くなるんだろうが」


バルゴが弟の頭を小突いた。だが、その手にも力がない。


そんな広場の空気を、一人の影が見下ろしていた。


城の高い塔の上。漆黒のマントを翻し、紅い瞳で広場を眺めているのは魔王だった。


「……静かだな」


呟くと、背後から足音がした。振り返ると、カーミラが片膝をついていた。


「魔王様。ご報告に参りました」


「報告か」


「はい。各地の魔族領で、スポーツを始める者たちが急増しております」


魔王が眉を上げた。


「ほう」


「ええ。野球の練習はもちろん、サッカーも。試合を観に来ていた魔族たちが、自分たちでも試したいと」


「面白いな」


魔王の口元が、わずかに緩んだ。


「敗北の翌日に、それか」


「ええ。罵声を上げる者もおりますが、それ以上に……興味を持った者が多い」


カーミラは少し言葉を選んだ。


「魔族は、強い者を尊ぶ種族です。今回、我々を破ったのは、剣でも魔法でもなく、スポーツという技術でした。ならば、それを学ぼう、と」


「素直だな、魔族は」


「……はい」


魔王は再び広場を見下ろした。


落ち込んでいる者たちのすぐ隣で、若い魔族たちが何やらボールを蹴り合っていた。サッカーの真似事だろう。その横では、別の若い魔族たちが木の棒を握って素振りをしていた。野球のバッティング練習だ。


「サッカーの連中も、野球の連中も、まだ熱が冷めないようだな」


「ええ」


「……次の大会では」


「はい」


「我が軍は、もっと強くなる」


「ええ。間違いなく」


カーミラは静かに答えた。


その頃、広場の片隅。


ガルドたちの卓に、見覚えのある赤い髪が近づいてきていた。


「景気悪い顔してるわね、あんたたち」


カーミラだった。


「カーミラか」


ヴァルナが顔を上げる。


「魔王様の報告を済ませてきたところよ」


カーミラは空いている席に腰を下ろした。


「広場の若い連中、見た?」


「ああ。やけに元気だな」


「ええ。負けた我々を尻目に、もう次に向けて動き始めてる」


「……ふん」


ガルドがジョッキを傾けた。


「魔族らしいといえば、らしい。強くなることに、敗北は障害にならん」


「そうね」


ヴァルナが、艶やかに微笑む。


「ところで、次の大会、何が開催されるかは決まっていないのよね?」


「ええ。三国会談で議題に上がるはず」


カーミラが頷く。


「次もまた野球とは限らない、ということか」


ガルドが顎を撫でた。


「考えてみれば、人間どもにはサッカー以外にも、野球以外にも、競技があるはずだ」


「ええ。あの帝体大という大学、たくさんの部活動があったわ。ラグビー部、相撲部、ボクシング部……」


ヴァルナが思い出すように言う。サッカーやワールドフェスティバルの観戦中に、紹介や応援団の声で耳にしていたのだろう。


「ほう、いろいろあるのか」


「ええ。名前だけは聞いたわ。中身は知らないけれど」


「ふむ」


ガルドが腕を組んだ。


「ならば、次の大会、こちらからも提案するべきではないか」


「提案?」


「魔族の身体能力が活きる競技を、だ。人間どもの土俵で戦って、二度負けたわけだしな」


「ああ、それはアリね」


ヴァルナが頷く。


「でも、私たちは野球とサッカーしか知らないわ」


「そこは、帝体大の連中に聞けばいい」


「ふふ、なるほど」


ヴァルナが笑った。


「『俺たちが勝てそうな競技を教えろ』って?」


「そう露骨に言わずとも、な」


バルゴとバルガが顔を上げた。


「俺、力には自信あるぞ!」


「俺だって!」


「双子で組んだら最強じゃね?」


カーミラが小さく笑った。


「魔王様も、同じことを考えておられたわ」


「ほう?」


「『魔族の身体能力が活きる競技を、次の大会で提案する』と」


「……魔王様自ら、か」


ガルドが目を細めた。


「ならば、我らも本気で考えねばな」


夜は更けていった。


最初は重苦しかった広場の空気も、いつの間にか変わっていた。若い魔族たちがボールを蹴り、バットを振り、年配の魔族たちがそれを見ながら酒を飲んでいる。


「もっと低く蹴れ!」


「バットは握りすぎるな!」


サッカーや野球の試合で見聞きしたことを、見よう見まねで真似ている。中には明らかに間違ったフォームで素振りしている者もいたが、それでも誰もが楽しそうだった。


「魔族が、楽しんでる……」


ヴァルナがぽつりと呟いた。


「妙な光景ね」


「ああ」


ガルドが頷いた。


「だが、悪くない」


「ええ。悪くない」


カーミラが静かに同意した。


魔族は強い者を尊ぶ種族だ。だが、強さを求める過程そのものを楽しめる種族でもあった。それを、彼ら自身が今、発見しつつあった。


塔の上では、魔王がまだ広場を見下ろしていた。


「魔王様、お風邪を召されますよ」


下から上がってきたカーミラが声をかけたが、魔王は動かなかった。


「カーミラ」


「はい」


「次の三国会談には、我が直々に出向く」


「魔王様自らですか?」


「ああ。次の大会の競技、こちらからも提案したい」


「具体的には、何を?」


「さあな」


魔王は背を向けた。


「それは、これから考える。あいつらと一緒に、な」


漆黒のマントが翻り、塔の階段を降りていく足音が響いた。


カーミラはその背中を見送り、再び広場に視線を戻した。


夜風が冷たい。だが、広場には確かに熱があった。


魔王軍の敗北の夜は、終わりではなく、新たな始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ