第37章 最終戦決着 マジーナ王国 vs 帝体大
試合は中盤に入っても、一進一退の攻防が続いていた。
狩野は疲労を押して粘りの投球を続け、マジーナ王国打線を最小失点に抑えていた。一方、帝体大打線も大賀の160kmに少しずつ適応し始め、5回裏には黒崎のタイムリーで1点を返した。
スコアは1-2。1点差のまま、試合は終盤へと突入していく。
魔王軍の観客席では、魔王が静かに試合を見つめていた。
「狩野という男……我との対戦でも粘り強く投げていたが、この試合でも同じだな」
「疲れているはずなのに、気迫で抑えていますね」
ガルドが頷く。
「あれが人間の……意地というものか」
7回表、マジーナ王国の攻撃。
狩野の球威が目に見えて落ち始めていた。8番、9番に連続ヒットを許し、ノーアウト一塁二塁。そして1番レオニールがバッターボックスに入った。
追い込んでからの3球目。レオニールは意表を突くセーフティバントを決め、満塁とした。
魔王軍の観客席で、速水が唸った。
「追い込まれてからのバント……あれは技術がいる」
「真面目に、堅実に、確実に。それがマジーナ王国の野球だな」
魔王が静かに言った。
続く2番打者はセカンドゴロ。矢田がホームへ送球し、一塁へ転送してダブルプレー。だが、その間に三塁ランナーがホームイン。
スコアは1-3。2点差に広がった。
7回裏、帝体大の攻撃。
村瀬がヒットで出塁し、小宮が送りバント。そして黒崎がライト前タイムリーを放ち、1点を返した。
スコアは2-3。再び1点差。
「帝体大も粘るな!」
魔王軍の観客席が沸いた。
「黒崎という男……剣道で鍛えた集中力を、打撃に活かしている」
魔王が感心したように呟いた。
「帝体大の強みは、各競技の技術を野球に応用できること。我々も学ぶべきだな」
8回は両チーム無得点。狩野は限界を超えながらも、気迫でマジーナ王国打線を封じ込めた。
魔王軍の観客席で、ヴァルナが呟いた。
「狩野……限界を超えている。だが、まだ投げ続けている」
「我々との試合でも、最後まで投げ抜いた。あの男の精神力は本物だ」
スコアは2-3のまま、最終回を迎える。
9回表、マジーナ王国の攻撃。
狩野は最後の力を振り絞り、この回を無失点で切り抜けた。
スコアは2-3。帝体大の最後の攻撃が始まる。
9回裏、帝体大の攻撃。6番村瀬からの打順だ。
魔王軍の観客席では、全員が固唾を飲んで見守っていた。
「帝体大、最後の攻撃だ……」
速水が呟く。
「1点差。まだわからない」
井戸川が言った。
「俺たちとの試合では、5点差をひっくり返した。帝体大には、そういう力がある」
魔王は静かに頷いた。
「見届けよう。この試合の結末を」
村瀬がセンターフライに倒れ、1アウト。だが、小宮がライト前ヒットで出塁した。
「まだだ!まだ終わってない!」
魔王軍の観客席が沸く。
8番黒崎が確実に送りバントを決め、小宮が二塁へ進んだ。
2アウト二塁。同点のランナーが得点圏にいる。
そして、9番狩野がバッターボックスに入った。
「狩野と大賀……最後の勝負だな」
ガルドが呟く。
「どちらも全力を尽くしている。これがスポーツの醍醐味というものだろう」
魔王が静かに言った。
帝体大ベンチが祈るような目で見つめる中、狩野は大賀を見据えた。
かつてのチームメイト。今は敵。だが、互いに全力を尽くしている。
「大賀。最後の勝負だ」
「ああ。来い」
大賀が投げ込んだ。160kmのストレート。狩野は振り抜いた。
空振り。
「ストライク!」
続く2球目、外角への変化球。狩野は見逃した。
「ストライクツー!」
追い込まれた。狩野は深呼吸をした。
魔王軍の観客席で、速水が拳を握った。
「狩野……頼む」
井戸川も祈るように見つめていた。
大賀が3球目を投げ込んだ。渾身のストレート。160km。今日一番の球だ。
狩野は全身の力を込めて振り抜いた。
カキィン!
打球はセンターへ高く舞い上がった。
「行けぇぇぇ!」
帝体大ベンチが総立ちになる。魔王軍の観客席も息を詰めた。
「行ったか……!?」
センターの選手が後ろへ下がる。打球は伸びていく。伸びていく。
だが――
センターの選手が落下点に入り、グローブを構えた。
パシッ。
「アウト!」
「ゲームセット!マジーナ王国の勝利!」
スコアは2-3。マジーナ王国が帝体大を下し、優勝を決めた。
会場が沸いた。マジーナ王国の選手たちが歓喜の輪を作る。
「勝った……勝ったぞ!」
レオニールがチームメイトと抱き合う。大賀と米倉も、その輪の中にいた。
「やったな、大賀」
「ああ。でも、これはマジーナ王国の勝利だ」
大賀は静かに言った。
「俺たちが教えたのは、野球の技術だけじゃない。真面目に、楽しく、全力でプレーすること。それを彼らは完璧に実践した」
レオニールが二人に歩み寄った。
「真面目に楽しむ野球……最初は意味がわかりませんでした。でも、今ならわかります」
レオニールは空を見上げた。
「真剣に、全力で、でも楽しんでプレーする。それが野球なんですね」
一方、帝体大のベンチでは、選手たちが肩を落としていた。
「負けた……」
狩野が呟いた。最後の打席、センターフライ。あと少しで同点だった。だが、届かなかった。
だが、狩野は顔を上げた。
「……いい試合だった」
「狩野?」
「俺たちは全力を尽くした。でも、マジーナ王国の方が強かった。それだけだ」
狩野は立ち上がった。
「行くぞ、みんな。相手を称えよう」
魔王軍の観客席では、魔王が静かに立ち上がっていた。
「いい試合だった。両チームとも、全力を尽くしていた」
「我々は両チームに敗れた。だが、この試合を見て、学ぶべきことが多くあった」
ガルドが言った。
「帝体大の寄せ集めの強さ。マジーナ王国の堅実な野球。どちらも、我々にはないものだ」
「次の大会では、我々も進化して見せます」
魔王は微かに笑みを浮かべた。
「ああ。次こそ、優勝を狙う。だが、今日は彼らを称えよう。勝者も敗者も、全力を尽くした者は皆、尊いものだ」
両チームが整列し、互いに一礼を交わした。
「いい試合でした。次は負けない」
狩野がレオニールの手を握った。
「楽しみにしています」
レオニールは微笑んだ。
大賀と米倉が狩野に歩み寄った。
「狩野、いい試合だった」
「ああ。お前の球、最後まで打てなかったな」
「次は打ってくれ」
「当たり前だ」
狩野と大賀は拳を合わせた。
魔王軍の面々もグラウンドに降りてきた。魔王が三国の選手たちを見渡した。
「三国が、スポーツを通じて繋がった。これは、剣や魔法では成し得なかったことだ」
「勝ち負けはあっても、互いを尊重し、称え合う。これがスポーツの力なのですね」
ガルドが頷いた。
「ああ。そしてこれは、始まりに過ぎない」
魔王は静かに言った。
こうして、ワールドフェスティバル野球の部は幕を閉じた。
優勝はマジーナ王国。準優勝は帝体大。3位は魔王軍。
だが、この大会で得られたものは、順位だけではなかった。三つの国が、スポーツという共通言語で繋がった。それこそが、この大会の最大の成果だった。




