強化
始まりと終わりの村アイテールそこにある唯一の鍛冶屋、虎徹。
既に日は落ち、夜となり、
つけたのなら無限に灯火し続けるロウソクがゆらゆらと鍛冶屋の中を照らす。
その中で今、旭との会話から得た情報をクスハは虎徹に伝えた。
「なるほど、夜中か、確かに説明文にそう書かれていたな、
『真夜中に輝く不思議な化石、
竜達の魂の残滓が竜達の墓場に呼応し仄かに漂うことにより共鳴し光る、
墓場でなくともこの化石の力は失われない』」
左手の親指と、薬指で顎をはさみ、自身の顎をつかむ、
右手は右膝、肘は直角に近い、灰色の正方形の石に座る虎徹は、
少し思考した後立ち上がる、
「…クスハ、他の仕事は任せる、俺は今から休んで備える、できるな、」
そう言うと虎徹は視線をクスハに向けた、その視線に、瞳に、
クスハは目を逸らすわけはない、自信ありげにクスハは言った。
「わかりました、師匠、まかせてください」
虎徹は、そんなクスハの姿に、『予感』を感じていた。
夜中、真夜中、現世なら2時、『鍛冶屋』虎徹には『時計』がある、
『大河式からくり時計』、と見えない内部には実は書かれている、
大河と言う人が創ったのだろうか定かではない、
虎徹は知っているのかもしれない。
ともかく確かにある、時針、分針、秒針もある、
その時計が一日12回2時間おきに作動する『からくり』が扉を開け
鳥を模した造形の木が出たり入ったりをして深夜2時を告げる。
「寝ろ、おまえは昼間も働いたんだ、『所作』を忘れるな」
2時になるのを待っていた虎徹は作業を開始する。
「大丈夫です、この1時間が終わったら寝ますから、大丈夫です」
「…勝手にしろ」
虎徹は真剣な顔でそう答えるクスハを一瞥すると、
諦めなのか、呆れたのか、関心したのか、そう、ただ無骨に言葉を発した。
1時間後、特に進展もなく、『儚き竜の化石』を二つ無駄に消費するという結果に終わる。
「…駄目だな、この時間帯に作業すればいいという安易な発想だったが、
何が足らないのか、それともアプローチがそもそも違うのか、」
『鍛冶』その手法は実際はシンプル、
『武器』、それを強化する素材が準備できている状態なら
後は『技術力』があることによりそれを知覚することができる、
一瞬という訳にはいかないが実物を手にしたなら多少観察する程度でその判断ができる。
後は武器『鍛冶屋の資格の金槌』を使い 素材を上に武器を下に上から叩く、
素材を一旦外し、そして再び『鍛冶屋の資格の金槌』で武器を
物により回数が違うが数十回叩くことにより『基本』強化可能、
誰でも可能なのである。
ただし、武器は強化値の限界が『5』、
4から5への強化に関してはそれなりの『知識』、『熱意』、『熱量』がない場合、
最悪素材を消費するだけではなく武器や防具自体が『粗悪品』になり、
実のところこの段階に限り技術力があろうと素人には強化を全くコントロールできない。
最悪数撃ちゃ当たる作戦が最も有効である。
基本防具はレア度が高いものは今現在存在しない為、
技術力がある程度あれば個人でも手順さえ知っていれば5にすることは容易い、
だがレア度の高い武器を強化することになれば
より高いステータスの『技術力』が求められる。
熟練の生者になれば技術力はそれなりに高く、
十分で、武器も4までなら誰でも強化できる。
その最後のひと押しが鍛冶屋『虎徹』の出番なのである。
虎徹の技術力は恐らく生者の中でもトップクラス、
扱えない武器がない上に余計にその数値を上げている。
脳筋の逆とも言える。
そのため結局のところ『鍛冶屋』虎徹の存在は
『転生』を目指す者に於いてはかなり大きい存在と言わざる得ない。
どのような試練や、敵と戦い研鑽を積まなければならないのか提示されてもいない中、
武器の強化がMAXと言うのはかなりの精神的余裕を生んでいる。
筋力ステータスをあげることに終止している
ある意味『臆病者』の吾妻龍人に於いては欠かせない存在である。
逆を言うなら転生を目指していないなら強化値4で十分でもある。
3時を過ぎ、3分ほどの沈黙、虎徹が口を開く、
「これは『例外』の武器ということか…通常の方法では強化ができない、なにか条件でも有るのか?」
さらに2分ほどの沈黙、クスハが一つの提案をした。
「…最初の素材を武器に定着するのを光っている時間に、
打ち込むのをこの石が光らない時間帯、というか3時、
まさに今、打ち込むのはどうでしょうか」
「……なるほど、それは試してみる価値はありそうだ、
いや、最初からそれを選択肢に入れておくべきだったな、
どの道この失敗はしようがない、明日だな、今日はもう無理だ」
「そうですね」
クスハの真剣な眼差しが少しほぐれる、
その表情に虎徹は何を想うのだろうか。
何かを感じているような様子の彼はクスハの顔を見つめながら表情一つ崩さなかった。
翌日、深夜2時55分、『大河式からくり時計』が起動して50分後、
昨日のクスハの提案を試す時、
「…時間です、師匠」
基本的に強化は30分以内、30分過ぎて強化できたかどうかがわかる、
前日の2回の失敗を取り戻すべく強化は始まる、
時計も実際完全に正確かわからないため念を押して5分前からの始動になった。
「ああ、わかっている」
そう言うと虎徹は『鍛冶屋の資格の金槌』で『儚き竜の化石』を叩く、
もちろん『果てなきオーラのロングソード』を下に、
そして確実に10分待機した。
10分後、虎徹は『鍛冶屋の資格の金槌』を振るう、
5回、10回、15回、20回、
『果てなきオーラのロングソード』は、光りだす、
蒼きオーラを醸し出す、それはおそらく、『成功の証』、
「…できたな、」
「はい、」
互いに『果てなきオーラのロングソード』を見つめながら
高揚した声色で確認の相槌を交わす。
虎徹は顔を上げクスハに視線をやった、
それに気づいたクスハも虎徹の瞳を見つめる。虎徹は言う、
「…お前の手柄だ、よく気づいたな」
「いえ、大したことはしてません、師匠もすぐ気づいたでしょうし、
師匠にはまだまだ技術力も熱量も及ばないし、」
首を振り、まだまだだと仕草でも表現する、
それでも少し照れたのだろうか右手の薬指で鼻をすするクスハ、
その仕草をやめるとその表情はやはり真剣で、
嘘偽りなく、本心から、なんの曇りもない、まだ先を見据えた『鍛冶屋』の顔だった。
「……」
虎徹は、静かに、眉根を緩めてわずかに微笑んだ。
はぁ…おっぱい