第二〇章 大団円、ってこんな感じでもいいんだろうか?part2
翔子が成田基地に出向してきて3日。本来なら今日が試験最終日で夕方には茂原に帰れるはずだったのだが、自身が提唱した『震電』の脚を短くする案を実証するため『震電』7号機と共に、海軍横須賀基地に1・2日追加で行かなくてはならなくなった。持論を証明するためだから自分が行うのは当然の事だし、何より7号機と別れるのが淋しかったから、丁度良かったと言えば良かったのだろうけど。
今日も朝っぱらから天気が良い。若干霞んではいるが青空の中を悠々と飛ぶには絶好のコンディションだ。
今日はまずさくらが巡航速度&高度で飛行できるか確認した後、午後にシメの一本として全力で戦闘機動(さくらに心配かけない程度の通常戦技)試験を行えば、成田基地での自分の仕事は終了。一旦茂原に戻って明朝出直す事も可能だったのだが、試験の延長が決まった時点で連絡を入れられてしまったみたいだし(基地司令同士のホットラインで)、さくらや試験隊の皆に自分なりの『震電』乗りこなし術を伝授しておいた方が有益だろうと、成田にもう1泊する事を決めた翔子であった。まあどのみち報告書をまとめ上げなければならなかったので、元々今日は帰れないと覚悟していたのだけど。
ところが──
「なんで『震電』7号機がいないのよーっ!?」
試験隊の格納庫内で翔子が叫んだ。絶叫の通り7号機が忽然と姿を消していたからだ。
「一体どういう事なの? 私全然聞いてないんですけど」
この状況が理解できない翔子は近くにいた整備士を掴んで説明させようとする。がその整備士は翔子の剣幕に怯んでしまい、ロクな返答ができなかった。その対応が翔子を更に逆上させるという悪循環に陥らせたのだが、
「そんなにウチの若い者をイジめないでやってくれ。俺から説明するからよ」
と試験隊整備班班長原村大尉が割り込んできて、部下へ助け船を出す。その言葉に翔子は整備士を掴んでいた両手を放し、長身ではないが軍人らしいがっしりとした体格の班長の前にトテテとやって来た。少しは頭が冷えたのかそのまま班長に掴みかかるような事はなかったが、まだ表情は険しいままである。
「そんなに怖い顔すんなって。折角のかわいい顔が台無しだ……ってのはさておき、あの『震電』なら一足先に横須賀に向かっちまった。夜の内に分解して、明け方列車でな」
「はあぁっ!?」
軽口を交えた班長の説明に翔子は驚きを隠せない。既に7号機は成田基地にはなく、明日追加の試験(実験という方があってるかも)を行う横須賀基地に行ってしまったという現実に。現在の時刻が8時を回ったばかりだから、明け方に出発したとなると、早ければもう横須賀に着いてしまっているかも知れない。
肝心の機体がない以上、今日の予定は全てご破算である。『震電』なら成田基地にはもう1機、昨日配備されたばかりの改修4号機が存在する。しかしこの機体は高々度用に調整したものであり、その説明を昨日受けた他の試験隊員が乗るのが筋というものだし、何よりお気に入りの7号機でないのが翔子の基地を奮い立たせない。そんなやるせなさが班長への理不尽な文句となって表れた。
「なんでもう運んじゃう必要があるんです? 南方の基地に輸送するならバラして船で運ぶのが当然かも知れませんが、横須賀ですよぉ。明日の朝イチで飛んでいけばいいじゃないですか。30分とかからない距離だし、何より分解してまた組み立てるという余計な手間が省ける訳だし」
内容は決して理不尽ではなく至極まっとうなものであった。が自分も部下達も上からの命令に従っただけであって、自分が独断で決めた訳ではない事に関して文句を言われた事が理不尽なのだ。だが少なくとも翔子よりは大人な班長は言われた文句を上手く受け流して、更に細かな説明を加える。
「何でも急に決まった話らしくてな。昨夜の9時過ぎに呼び出されて、徹夜で作業したんだぞ、俺ら。お前さんの気持ちも分からんではないが、理不尽な命令に振り回されるのが軍隊と割り切って我慢しろや。それに──もしかしたらお前さんが提出したっていう改造提案書が関係してるとも聞いたぞ」
「!?」
班長が最後に言った言葉に驚き、毒気を抜かれてしまった翔子。『震電』の脚を短くするのと機体を1日早く移動させる必要性に関連を見つけられなかったから。のでその事をストレートに聞き返すと班長は、
「そんなん俺が知るかい。あくまでちょろっと聞いただけだ。それより昨日お前さんがやった無茶な空戦機動の方が問題になったんじゃないか? バラしてみてダメージの有無を確認するのが目的で、1日早く輸送させたとか」
と答えてきた。
そう言われてしまうと何も言い返せなくなる翔子。昨日の機動は流石にやり過ぎたという認識があるからだ。ので今日は『震電』に乗れないという事までは何とか納得できた。がそうなると今日丸1日何をすればいいのか分からなくなる。急に予定がキャンセルになったものだから、本当にする事がないのだった。すると見計らったようなタイミングで時任司令と甥の時任試験隊長が並んでやってくる。
「立花にも連絡を入れておけば良かったんだが、俺らも航技研からの電話を受けたのが9時頃だったんだ。その頃はまだ航技研から来た連中達とロケット機なんかの話し合いで盛り上がってたろ。それで水を差しちゃ悪いと後回しにしたら、ついうっかり眠っちまったもんでな。事後承諾になって申し訳ないと思うから許してくれないか」
司令がその巨躯を折り曲げて経緯と謝罪を口にする。翔子も既に割り切っていたので今更ではあるのだが、基地司令にここまでされたら一介のパイロットとしては「分かりましたから頭を上げてください」と言うしかなく、最早今日の予定なんてどうでも良くなってしまった。訓練に勤しむ飛行機でも見ながら報告書でも書けばいいかと思う程に。そんな翔子の落胆を予想していたのか、司令は代わりの仕事を提示してきた。
「報告書なんて適当でいいから今日1日、試験隊の連中と模擬戦でもやってくれないか。立花は敵機役としても名が知られているからな。試験飛行ばかりで空戦技術がサビ付いちまってる試験隊員にはいい刺激になるだろ。なあ義次」
「伯父さ…いえ司令。仕事中は名前ではなく役職や階級で呼んでいただかないと、他に示しが付きませんよ」
つい部下である前に甥っ子である試験隊長の事を名前で呼んでしまった時任司令。それを隊長から指摘され、
「お前だってちょくちょく『伯父さん』って声かけてくるじゃないか」
と反論していた。端から見れば「まあ仲の良い事で」なやり取りである。そんな生温かい視線を振り払うように隊長は咳払いをすると、改めて翔子に模擬戦をしてくれるよう頼んできた。
「どーせ暇になってしまいましたから別にいいんですけど…でもどのようにやるんです? 試験隊には同じ機体が何機もある訳じゃないから、1対多の集団戦は難しいでしょう。連携が取りにくいでしょうから」
やる気ない顔をしながらも翔子は現実的建設的な意見を言った。確かに試験隊には採用前の高性能機が多数ある(引き取られ忘れた旧式機もあるけど)。が性能を追求するために各機体ごとにその特性が異なるから、編隊を組むには不向きなのだ。まあ特性に合わせて役割分担をすれば強力な編成を組めるかも知れないけれど、基本的には単機でその機体の性能を調べたり引き出したりするのが試験隊の仕事。集団戦闘どころか編隊飛行すらしなくてもいいのだから(もちろん必要とあらば編隊飛行くらいはするけど)、そんな組織戦などできようはずもない。それが分かっているから翔子は敢えて聞いたのだ。1対1の戦いとなるのだから、ハンデ戦とするのかガチの勝負でいいのか確認するために。すると、
「十人組手の要領でいいんじゃないか。試験隊の連中には空中待機させておいて、1機ずつお前と勝負する。3回戦の2本先取とすれば、どちらにとってもマグレ勝ちって事もないだろうしな。それに10機以上連続ともなればお前だって疲れてくるだろ。それが充分ハンデとなるだろうし」
と翔子の質問の意図をくみ取った司令が結構無茶な提案をしてきた。
試験隊の戦闘機専門要員はさくらを含めても10人あまり(『試製青雲』の田坂中佐達は双発機班なので数には入れていない)。諸条件を鑑みればやってやれない事もないが、成田基地に呼ばれた理由から模擬戦自体の必然性を感じられないのも事実だ。それでも翔子が出した答えは次のようなものだった。
「はぁ~あ。疲れてメンドくさいだけって分かってるんだけどね~。やってみたいって気持ちが抑えきれないんだよな~」
その言葉に司令と隊長が力強くハイタッチをする。どうやら目論見通りだったようだ。のでその事については2人共喜んでいるようだが、当然司令の方が強く、また制御する事もしないので隊長はかなり痛そうにしていた。
「翔子~。また無茶な事を…昨日反省してくれたんじゃなかったの?」
「そうですよ。明日以降の試験を考えれば、体力は温存しておいた方がいいでしょうし」
「かなり無茶なやり方の模擬戦ですもんね。航技研的には認められないレベルだと思いますよ。ま、見ている分には面白そうですけど」
反面さくら達は翔子の体の事を心配して「やめておいた方がいい」と奨めてくる。もちろん純粋に心配しての発言なのだが、わずかに翌日以降の事も念頭にあるような言葉も混ざっているけれど。そんな彼女達に悪いと思っているから、翔子はバツの悪そうな笑顔で答える。
「ま、お仕事だからねぇ。今日1日、半分遊びながら中途半端な報告書をまとめ上げるよりも、みんなの役に立つ事をしている方が気分がいいから。それに私だってムリするつもりはないよ。1日かけていいんであれば、休憩とか挟んでもいいんですよね?」
「ま、まあ、道場破りとかではないから、どうしてもというなら構わないが……」
急に振られ、司令は歯切れ悪そうに答える。休憩を入れたら「十人組手」ではなくなってしまうと思ったからだ。無論司令だって翔子の体をぶっ壊すつもりは毛頭ない。模擬戦ごときで希有な人材を失うつもりなど更々ないから。その反面ボロボロの状態の翔子を見てみたいというのもまた事実。疲れ切った状態でも優位に戦えてしまうのか、それとも一方的に打ちのめされるのか確かめたかったからだ。時任司令個人として後者である事を期待している。字面だけ見るとおかしな表現ではあるが、そうでないと立花の事を自分達とは根本的に違う、本物のバケモノだと思ってしまうかも知れなかったから。それでも体を心配する気持ちの方がわずかではあるが上回っていたから、あらかじめ休憩のタイミングを本人に聞いてみた。
「それでは先に決めておくか? 何人とやったら休憩を挟むとか、午前午後で半数ずつとするとか」
「別に構わないですよ。私自身どれだけやったら疲れるか分かってないから、みんな一斉に上がってもらって。ムダ足踏ませちゃうかも知れませんけどね。だけど1機ごとに3分くらいのインターバルは欲しいかなぁ。エンジン等をクールダウンして万全の状態で戦いたいから」
翔子はしれっと休憩ナシのぶっ通しで模擬戦を行う可能性もある事を示唆する。まるで司令の本心を見透かしたかのように。そのため司令の方が「それでいいのか?」と尋ねたくなった程だ。それでいて休憩代わりにエンジン冷却の時間を設けさせ、ついでに自らの呼吸も整えようと考えていた。後から戦った方が楽に勝てるとかいうのをなくすために。そこまで考えているのかと司令達は翔子の意見を素直に受け入れ、規約として徹底するためにメモしていく。全ては公平公正にこの模擬戦が行われるように。
「それよりさくらも模擬戦には参加するんだよねぇ」
唐突に翔子はさくらに尋ねる。親友の体の事を思い、司令とのやり取りを不安&不満げに聞いていたさくらはどうしたらよいものやらと思い、一瞬返答に詰まってしまう。
「えっ、え~っと、私は遠慮しとこうかな。翔子にはどうせ勝てっこないし、1人減るだけでも少しは負担が軽くなると思うから」
そのさくらが出した答えにつまらなそうな顔になる翔子。どうやらさくらとも戦ってみたかったようだ。
「さくらと模擬戦やったのはさくらが成田に異動になる前が最後だよね。だから今のさくらの技量を知るためにもやりたかったんだけど……さくらが相手してくれないんだったら模擬戦自体をキャンセルして、1日ボ~ッとしてよっかな~」
本当に残念&つまらないといった感じに放った翔子の言葉はさくらだけでなく司令達をも驚かせた。もし模擬戦が取りやめになったら密かに企んでいた計画が台無しになってしまう。その企みとは翔子の空戦技術を体感し盗ませる事。正直翔子がこんな無茶な模擬戦を承諾したのも同じ理由で(打ち合わせなど何もない真に偶然の一致であった)、それ程危なくない機動で戦ってみせるつもりだった。のでそれだけは避けたい司令と隊長は2人がかりでさくらを説得しようとする。が説得も何も2人が自分の前に来た時点で、さくらは参加を受け入れる旨を先に告げたのだった。
「そうと決まれば気が変わらない内にさっさと始めちまうか。とは言っても準備やら他の隊とのすり合わせがあるから、そうだなあ…約1時間後の9時半頃から始めて、10時丁度の開始とするか」
と司令が言うと隊長は試験隊員への指示出しや他の隊との連絡のため動き出す。整備班にはそれとなく伝えてあったため、既に作業に入っていた。もっとも普段あまり使わないような機体でもすぐに動かせるよう日常的に整備を行っているため、日々の作業と区別はつかなかったが。
「10時開始だったら今から茂原に戻って『飛燕』取ってきていいですか? もしオーバーホールが終わってればですけど」
司令の言葉にどうせ模擬戦をやるなら乗り慣れた機体を使いたいと思った翔子は、愛機である「『飛燕』23型特」を取りに行っていいか尋ねる。内容がハードな上に細かな操縦(100%の全力でない微妙な手の抜き方)をするのだから、手足のように馴染んでいる愛機で臨みたかったのだ。がそれは司令によりあっさり却下されてしまう。
「試験隊保有機の中にも『飛燕』はあるぞ。お前の愛機程ではないが、かなりいじくって高性能に仕上げたのが。でなければ昨日来た『震電』を使えばいいじゃないか。一応機体の選択優先権はお前にあるぞ。かなりのハンデを背負っているんだから、それくらいのメリットがないとやってられんだろうからな」
司令は試験隊が保有する機体の一覧表を手に、この中から選べと迫ってきた。自分に選択の優先権を与えてくれたのは優しさからだろうが、パイロットとしての機微が分かってない、と翔子には思える。まあまっとうなパイロットならどんな機体でもそれなりに乗りこなす事ができる。翔子だってその中の1人だ。が翔子レベルになってしまうと、かえって僅かなフィーリングの差が気になってしまうのもまた事実。だから、
「それじゃ意味ありません。なまじ同系統の機体で操縦感覚が近い方が微妙な所で操作を誤ってしまいます。それなら性能で劣っているとしても、全く異なる機体の方がやりやすいんですよ」
と独特な感性の持論を展開した。
「だったらどの機に乗りたいんだ。お前が決めないと他の者の乗機も決まらんぞ」
確かに機体選択の優先権が翔子にある以上、翔子が決めない限り、さくらを含めた他の試験隊員の乗機も決まらない。司令や隊長は翔子が選ばなかった機体から隊員達に機体を割り振ったり、模擬戦の順番を決めるつもりだったから、さっさと翔子が乗機を決めてくれなければ最終的な計画の立てようがなかったのだ。そういう意味で翔子が普段乗機としている『飛燕』やお気に入りの『震電』を選ばなかったのは意外であった。必ずどちらかは選ぶだろうと一応対抗策を練っていたものだから、予想が外れ困った事この上ないのである。
そんな司令達の思惑など汲んでやる必要などないのだが、司令の表情に単なる苛立ちだけでなく焦りのようなものも読み取った翔子は流石に少し気が引けたので、早いところ決めてしまおうと格納庫内を見渡した。もちろんこの格納庫の中に全保有機がある訳ではないが(戦闘機だけでもいくつかの格納庫に分散している上、露天駐機のものもある)、手っ取り早く決めるため、この中で一番良く映った機体を選んでしまおうと思ったからだ。するとある1機に目が留まった。
「ああ、私、あの子でいいわ。この中じゃ一番輝いて見えるもの」
そう言って翔子が指差したのは、この格納庫の奥でひっそりと佇んでいた「1式戦闘機『南風』」であった。そのチョイスに司令やさくら達は驚く。この格納庫内には『南風』より新しくて高性能な機体がいくつもあったからだ。それなのにわざわざ『南風』を選ぶとは、司令達は意外を通り越して心配でしかなかった。
この『南風』とは日本・中華民国国民党・新世朝鮮(住民投票により独立)・満州国の国や企業が出資した合弁企業『極東飛行機』の主力生産機の1つで、『零戦』をベースに生産の簡略化を図ったアジア共通フォーマット機である。
見た目は『零戦』そのものだが中身は全く異なり、設計者自身が「『零戦』もこのようなスタイルにすれば良かった」と言った程の隠れた傑作機であった。しかし44年の空には旧式機という感が否めず、それで皆大丈夫かと心配しているのだ。
「ちょっと翔子本気ぃ? わざわざあんな旧式機選ばなくても」
「そうだぞ立花。そこまでハンデ背負う必要はないし、勝ちを譲ってやる必要もない。もしあれで最新鋭機に勝てると思ってるなら、流石に傲慢というものだぞ」
「確かにアレはないわー」
「『南風』を使うのだったらその隣の『白燕』を使った方が戦えそうですけどね」
などと詰め寄るさくら達に翔子は人差し指を立て、自信ありげに選択理由を語った。
「確かにここは試験隊だから探せば優秀だったり面白い機体は沢山見つかる。という事はあの『南風』だってどこかしらいじってあるよね。『南風』って見た目は『零戦』そっくりだけど、中身は全然違ってすごく頑丈。急降下の特性なんか『飛燕』、いや同じ空冷エンジンの『白燕』の方が性能的にはより近いんじゃないかな。それでいて『零戦』の素直さはあまり失われてない。ま、『零戦』の本気を引き出すにはこちらの技量が高い必要があるんだけどね。そしてエンジンナセルの吸入口やオイル冷却器を見れば、エンジンを交換しているのが分かる。『南風』の中でもっとも強力なのが『金星』6x型装備のヤツのはずだけど、あの子はそれより強力なモノに換装されている。でしょ?」
「ああ、その通りだ。あの『南風』は2段3速過給器付き1720hpの試製『金星』7x型に換装したものだ。想定通り高々度性能は向上したし最高速も600㎞/h超に達する事ができた。だけど『烈風』ベースの『西風』に主力機が移ったのと、補助戦闘機としてはコストを増加させてまでの高性能はいらないと、採用には至らなかったみたいだけどな」
翔子の確認に資料を見ながら答える司令。エンジンナセルを見てエンジン換装に気付くとは「流石立花」と言いたいところだが、それでも『烈風』等には及ばないと判断された機体だ。模擬戦とはいえ立花には本気を出してもらいたいと考える司令は、改めてもっと高性能な機体に乗らないかと尋ねてみる。だが、
「身軽な機体の方がいいんですよ。いろんな技を見せつけるにはね。空戦の方法が一撃離脱が基本となった時代ですが、だからこそ時代にそぐわない格闘戦の技が役に立つ場面もあると思うんですよ。それにアメリカが身軽な機体を作ってこないとも限りませんし。頑丈で高速であっても小型化により軽量化は可能でしょうから」
などと言って譲らなかった。ここまで頑なだと議論説得は時間の無駄だと司令の方が折れるしかなかった。『グラマン鉄工所』製などと揶揄される艦上機群やダンプトラックに例えられる『P-47』などを見る限り、「高い運動性を有する」ならともかく「身軽な」と言える機体などアメリカが作ってくるとは思わなかったが、また拗ねられて模擬戦やめるなどと言われたくなかったから。
が翔子が予言したような機体が【海軍休暇】終了後半年くらいして敵母艦上に現れた事には日本軍全体が驚かされたが、それはまた別の話である。
「それじゃ『南風』の整備はお前が中心になってやってくれ。571じゃ一度に10機以上飛ばす事はほとんどないから人手不足みたいでな。お前だったら整備だってできるだろ?」
「できなくはないですけどね……じゃ『南風』使っていいんですね?」
「どうせ止めても無駄だろ。だったらせいぜい本気出してもらって、その上で恥でもかいてもらった方がいいと思ってな…それより整備なんて1人じゃ無理だろ。若いの2・3人連れてっていいから、万全な整備をしろよ」
「それじゃあ上村伍長の班が手が空いていれば………って伍長達も『震電』と一緒にもう横須賀に行ったのーっ!?」
『震電』の整備の様子を見ていて上村伍長達の技量は良く知っている。だから可能なら彼らに手伝ってもらおうと思った翔子なのだが、彼の名前を出した途端原村大尉が話に割り込んできて、伍長達がいない事を教えてくれた。それも『震電』と一緒にである。だったら自分も一緒に行きたかった。翔子は一瞬そう思ったが、自分が一緒にいたところで何ができる訳でもなく、結果的に今日ここに自分がいる事が一番の正解だったと思い直し、格納庫内に響き渡る声で手伝ってくれるよう余裕のありそうな整備士に声をかけた。するとしばしの時間相談が行われた後、中堅っぽい整備士(上村伍長クラスか)が2人翔子の元に来てくれた。その2人の姿に安心感を得た翔子は2人を伴い『南風』の所へ行こうとする。が途中で立ち止まり、
「そう言えばさくらはどの機体に乗るか決めたのーっ?」
と尋ねた。自分に合わせてあまり性能の高くない機体を選んだようなら「遠慮はいらない」と言ってやらないといけなかったからだ。がその質問にさくらがオロオロとしていると、代わりに司令が答えてくる。
「沢渡だって試験隊の一員だ。乗機はこちらで決めさせてもらう。お前の期待を裏切らない機体を選んでやるから、お前は何も気にしないで『南風』の整備をしっかりやれ」
「はーい」
翔子は右手を挙げ気が抜けたような返事をすると、『南風』の所へ歩き出した。
次話に続く──
相変わらず遅筆で申し訳ございません。それにこのPart2では模擬戦まで書くつもりだったのですが、時間と文章が長引いてしまったため、途中で切らせていただきました。そのため次回のPart3はPart2.5と言える分量となるでしょう(時間をかけていいならトンデモなく長くする事もできましょうが)。
また[兵器紹介]内の[【ヨアケマエ】世界の日本戦艦]シリーズはご覧になっていただいているでしょうか。画像も加えて登場予定の戦艦の紹介をしておりますので、まだの方は一度ご覧になって下さい。
あと本文についてですが、「班」の使い方がかなりゴチャゴチャ混乱しております。早い内にしっかりと定義付けしますので、それまではご容赦いただきたいと思います。




