第一三章 『試製震電』はアシが問題なのよ、アシがぁ(CV:とある軽空母)
第一三章 『試製震電』はアシが問題なのよ、アシがぁ(CV:とある軽空母)
「多分みんなは最初に特に問題視されている離着陸時や低速時の極端な右傾とその対策について聞きたいんだと思うんだけど、私は脚の事から話していこうと思うんだよね」
「脚っ!?」
翔子の言葉に皆一様に驚いた。翔子だって手こずっていた『震電』の右傾ではなく、これも問題ではあるのだけど3車輪式のおかげで操縦への影響は小さい、脚の長さの事から話し出すとは誰も考えていなかったから。実際先程さくらをキレさせた原因となったやりとりも右傾に絡む話だったし。ので時任試験隊長が代表してその理由を問いただす。
「なあ立花。何で最初に脚なんだ? お前の腕ならあれくらい脚が長くたって離着陸に問題は無いだろうに」
「私が感じている事と私が語らなければならない事は必ずしも一致しませんよ」
隊長の問いに翔子は哲学的とも言える表現を用いて言い返した。
「個人としての要望よりも1テストパイロットとして修正しやすい方から話しておこうと思っただけです。それに右傾対策は長くなるから、後でゆっくり話そうと思いましてね」
「そういう理由があるんであれば別に構わないのだが」
隊長は半ば納得、半ばバツが悪そうな顔で翔子の方針を了承する。だが続けて否定的な意見を言う事も忘れない。客観的に見て脚の長さは『震電』という機体の宿命的な問題だったから。
「でもあの脚の長さはちゃんと理由があっての事だぞ。そりゃあ多少は切り詰められるかも知れんが、根本的な解決は無理なんじゃないのか?」
「確かに旧式機、例えば『零戦』くらいに短くしろと言ったら私だってムリだと思いますけど、それでもある程度、特に前脚についてはかなり短くできるはずですよ」
「「「「はあぁっ!?」」」」
『震電』という機体を知っている者の中でその主張をした翔子と、翔子の事を信頼していて、かつ今は食べる事に専念していたさくらを除いた全員が、理解不能な意見にシンクロして驚きの声をあげる。敢えて「この場にいる者の中で」としなかったのは、その言葉が伝われば同様の反応を示しただろうからだ。それくらい翔子の提案は『震電』に関係した者の常識からは外れたものだったのだ。
「『特に前脚』って、前脚を短くしちまったら主翼の迎え角が小さくなるじゃないか!」
皆を代表するように時任司令が翔子の意見に反論する。長い事自ら操縦桿を握ってはいないが、流石は元パイロット。飛行機の基本は体と心に深く刻み込まれている。それ故翔子の意見は危なっかしいものに思えた。それは現場に近い者程強く感じていて、飛行機に関してはこの上なく信頼している翔子のとんでもない意見に隊長や本庄准尉などは眩暈すら覚える程だ。しかし当の本人は場の空気に臆する事もなく、むしろ返ってきて当然の反応に喜びすら感じていた。そして更に場を混乱させるような言葉を続ける。
「小さくなるどころか理想としたら推力線に対しフラット、つまり迎え角ゼロにしたいくらいなんですから。そうすればプロペラのクリアランスも充分とれるから、更に脚を短くできそうですしね」
翔子は楽しげに常識外れの持論を展開する。すると今度は本庄准尉が声を荒げた。
「ちょっと待ってください、翔子さん! そんな事したら『震電』は飛び立てなくなりますよ。それこそ初号機は前脚の取り付け位置が微妙に悪くて、初飛行の際に機首上げが上手くいかずやり直しになったんですから。もっともちょっと修正する事ですぐに解決できたようですけど」
確かに『震電』初号機は初飛行の際、離陸しようとしたら思うように機首が上がらず、思い切り昇降舵を引いたら今度は上がりすぎてプロペラを地面に叩き付けてしまい、その修理のためその日の初飛行はお預けになっている。そして修理の時間を使って機首が上がりにくい原因を探ったら、わずか10㎝重心から見た適切な位置とズレていたために起こった現象だと判明した。そのため応急的に初号機と完成間近の2号機には、主翼を貫く形になっている垂直尾翼の下に小さな補助輪を付け対応し、まだ大幅な修正が可能だった3号機以降は前輪取り付け位置を適切な位置にする対策を施してから供給される事になったため、離着陸問題の1つは早々にクリアできた。もっとも7号機までは念のため補助輪を残す事になったけど。故に成田基地に配備され、翔子も操縦した機体にも補助輪は付いたままだった。しかし8号機以降はテストの結果機首上げの不安が無くなったと判断されたため補助輪は省略される事になり、また初号機と2号機も後に前脚の取り付け位置が修正された。
そういう話は試験を始める前にかなり綿密に『試製震電』の事に関しては話し合っている。それだけでなく翔子は自分達の説明を聞きながらもそれとは別に資料に目を通していた。ので初号機に起きた事故もその理由も分かっているはず。それに翔子は試験前に脚を短くできないかと口にし、それは難しいと本庄准尉とさくらから全力否定されていた。なのだが、そんな事意にも介した様子もなく翔子は改めて『震電』の脚を短くしようと言っている。
もしかしたら根本的な解決法に思い至ったのかも──西准尉は試験前のやりとりも含めてそのように結論付けたが、だとしてもあれだけ厳しく否定されたのにその意見を突き詰めて物にしてしまう(正しくは物にしてしまったのかも知れない)、その精神力はやはりただ者ではない。翔子に対する認識を更に高めてしまう西准尉なのであった。
「修正されてるならホントに問題ないじゃない。そりゃあ離着陸距離がちょっとは伸びるかも知れないけど、スピードさえ乗ればちゃんと飛べるわ。それ以上に脚が短くなる事によるメリットの方が大きいはずだよ。強度の問題だけじゃなく軽量化もできるから速度とか機動性も良くなるはずだしね。ホンの少しだけど」
翔子は相変わらず持論を続ける。自分の考えに絶対の自信を持っているようだ。しかし本庄准尉は頑強に抵抗し続ける。翔子の本心はまだ掴みかねているが、何か翔子が肝心な事を見落としているような気がして、説得を続けるしかないと思ったからだ。
「確かに飛行機という物は一定の速度を超えれば離陸する事ができます。ですがそれには『速度』だけでなく『揚力』という要素も入っているんです。迎え角を大きくできれば揚力も大きくなる。これは常識ですよね。『震電』はただでさえ主翼付け根付近の迎え角を0度としてありますから、地上姿勢までフラットにしたら迎え角が全く無くなってしまいます。そうなったら同程度の揚力を得るためには、より速度が必要になってしまうじゃないですか!」
「そのためにフラップみたいな高揚力装置があるんじゃない」
「確かにフラップをめーっ一杯使えば揚力荷重は下がるし、空力的に主翼に迎え角が付いたようにもなります。でも『震電』のプラップは高速での戦闘に合わせて高翼面荷重機にしてはシンプルに作られているんですよ。この事は試験前に説明しましたよね。それとも何ですか? 主翼前縁に低速時のみ働くスラットでも付ければいいんですか? それなら高速時に問題になる事はありませんけどねっ! その分主翼の構造は難しくなるし、故障もしやすくなりますけど」
「本庄さん、ちょっと落ち着いてよ」
かなり熱くなっていた本庄准尉を静めるため、翔子は努めて穏やかに宥める。准尉としては上司であった岩和田少佐が帰ってしまった今、航技研を代表しているのは自分と西准尉しかおらず、正論を述べるためなら信頼する先輩の翔子相手でも全力でぶつからないといけない。そう思い込んでしまったのだろう。でなければ普段冷静な彼女をここまで熱くさせる事はない。そのため翔子の宥め方では逆効果になるところだった。が続く言葉に不意を突かれ、思わず大人しくなってしまう。
「私は別に今更フラップを強化しろーとか言うつもりじゃないんだから」
「へっ!? それじゃあ翔子さんはどういう考えだったのですか?」
本庄准尉は翔子の考えが全く分からずに混乱し、かえって熱を奪われてしまった。おかげで頭は冷えてきたが、翔子の真意を理解しようと別の意味で熱が出そうになる。そんな本庄准尉に追い打ちをかけるように翔子は逆に質問した。
「それより本庄さん、『震電』って完成したらどういう所に配備されるの?」
「ええっ!? っとそれはもちろん大都市周辺がメインとなるでしょうね。開発目的が的の次期重爆『B-29』を迎撃するというものなのですから」
「だよね。敵の戦略爆撃から本土を守る。それがあの子の役割だもんね。だとしたらその基地はかなり整備されている、そして状況に応じて更に発展させる事も容易、でしょ?」
「まあそういう事になると思います。東京等の大都市を守るために多数の飛行場が整備されました。そしてそれらは役割の重要性から設備は充実していますし、また物流もしっかりしているために基地の強化も島嶼部等の最前線基地に比べればはるかにやりやすいと思います。ですが急ごしらえで建設された基地も多いので、小さく拡張性が低い所もあるんですよ」
本庄准尉は自分が知り得る限りの大都市圏にある飛行場の知識を引き出して、できるだけ丁寧に答えた。まだ翔子の考えが掴めなかったので再び苛つきはじめてしまい、それを隠そうと落ち着いた感じで語る必要があったのだ。そんな准尉の微妙な変化に気付いた様子もなく、翔子は普段では考えられないくらいのんびりこんとした口調で返す。
「全ての基地に配備する必要も余裕もないだろうしね。まあその大都市周辺に最低1つの基地が充分に整備できれば、その基地がカバーしている都市は守れる訳だ」
「翔子さん! さっきから基地基地って基地の事ばかり気にしてますけど、基地が何だって言うんです? 今は『震電』について議論しているんじゃないんですか? それも翔子さんが脚を短くするって話したところから話がややこしくなっているのですよっ!」
翔子のその満足げに語る姿に我慢しきれなくなった准尉は再び声を荒げた。
確かにこの「食事会」は『震電』の問題点を少しでも解決するべく開かれたものだ。ただあくまで私的な会議だから、いくらここで熱い討議がなされ、最善に近い結論が導かれたとしても、全ての意見が開発陣に聞き入れてもらえる訳ではない事は、この場にいる者なら皆分かっている。それでも話し合わずにいられなかったのは、関わっている機体の完成度を少しでも高めたいという意識の表れだ。にも関わらず翔子は皆が一番の問題だと考えている事から話をそらし、更に機体そのものからも論点を遠ざけた。他の者にはその意図が分からず、本庄准尉のように苛立つ者も出てくるのだ。苛立つと言う程ではないものの時任司令だって翔子の真意が掴めずモヤモヤが収まらないので、翔子に話のキモを話すよう促した。
「そんなにややこしい話じゃないんですけどね」
翔子は麦茶を一口すすり、遠回しの表現では自分の意見が理解してもらえなかった事に少し淋しさを覚える。しかし同時に機は熟したと語り口調を切り替え、持論展開をはじめる事にした。
「要するに『母艦に機体を合わせる』のではなく『機体に母艦を合わせる』という事ですよ」
「? 何だそれは」まだピンと来ない司令がすぐに聞き返す。
「えっと、これは開戦よりもっと前に海軍のお偉いさんが言った言葉で、発達著しい飛行機を持て余しそうになった時、空母の性能に合わせて艦上機の性能を抑えるのではなく、飛行機の高性能化に合わせて母艦の方を大型化しろといった言葉ですよ。つまり『震電』が飛び立てないと言うなら、飛び立てる滑走路にしてやればいいと言いたい訳です」
「何だ。滑走路を大型化して長大な物にし、離着陸しやすいようにしろという事か?」
まだ得心いかない司令は少し不満げに聞き返した。離着陸が上手くいかない事を滑走路のせいにする。これは普段の翔子からすれば考えられない物言いだ。飛行機が上手く飛んでいない時、飛行機に何らかの不具合が生じてしまったか、でなければ自分を含めた操縦士側に問題があると考えるのが彼女である。だから翔子が本気でそう思っているなら文句というか、適切な指導を行わなければならない。そのための言葉をいくつか考えていた。が翔子に、
「そんな単純な話じゃないですよ。第一滑走路が長くなったって滑走速度には限界があるし、機首、そして機体の持ち上げ自体にはほとんど寄与しませんよ」
とあっさり司令の言葉は否定された。
「空母の話を持ち出したのは、海軍の技術が利用できそうと考えてるからです」
「海軍の技術と言うとカタパルトや制動索の事か?」
海軍の技術と聞いた時任試験隊長が即座に聞き返してくる。海軍の離着陸(艦)に関して彼が知っている知識はそれくらいしかなかったから反応が早かったのだ。もちろん彼だってRATOと呼ばれるロケット式の補助推進装置の事くらいは知っている。ただそれはあくまで空中で緊急加速を行うための物という認識であり、小型空母から重量級の機体を発艦させるために広く用いられている事までは、彼の頭の中には無かったと言うだけで。
その言葉に翔子は少し微笑みながら切り返す。
「究極的にはそれができれば良いかも知れませんが、『震電』の形状的には難しいでしょうね。強度的な問題もそうだけど、制動フックを取り付ける場所がないし、下手をすれば制動索でプロペラを傷めてしまいます」
冷静かつやんわりと自分の意見を否定され、すっかり悄気てしまう時任隊長。その姿には同情の余地はあるが、もう少しだけ知識を引き出せた他の者達からすればフライング、お手つきという感想の方が勝ってしまい、敢えてフォローする気にはなれなかった。そんな中さくらだけが隊長を擁護するような言葉を翔子に放つ。
「それじゃあ残りはRATOを使うくらいしかないじゃない。でもアレはあくまで加速装置であって離陸促進装置じゃないよぉ。もちろん取り付け角度によっては機首上げの効果もあるだろうけど、下手をすれば逆効果になるよぉ。角度やタイミングによっては機首が上がりすぎて離陸に失敗しそうだし」
「RATOだったら海軍の技術なんて言わないよ。空軍だって緊急加速用に使ってるし、それにさくらだって言ったようにRATOは加速装置。滑走速度を高めるだけだから、充分な滑走距離がとれる陸上基地には不要だよ。それくらいだったら水上機用のカタパルトを改造してゼロ距離離陸をした方がよっぽど使えると思う。プロペラが当たらないような工夫が必要となりそうだけど」
親友の言葉にもNOと言う翔子。それだけでなく急に閃いたアイディアまで付け加えて。そこまで言われたらさくらだって言葉をなくす。そんなさくら達の姿を見た翔子は、にこやかな表情で続きを語ろうとする。そんな表情をしているからって「自分の考えの方がうえー♪」などと勝ち誇る程ヤな性格はしていない。皆を黙らせてしまった手前、敢えて明るい表情で皆の気分を盛り上げようと思ったからだ。故に語り出しの声も非常に明るいものだった。
「みんなはあんまり海軍との絡みがないから知らなくても当然なんだけど、私はこないだ海軍の手伝いで横須賀の追浜に行く機会があって、そこで面白い物を見た、と言うか体験したんだけど……さくら、これお昼前に話さなかったっけ?」
「えっと、確かにあの時海軍のお手伝いもしたとは言ってたと思うけど…カタパルトで射ち出されたりとかは聞いたと思うけど、その『面白い物』の話は出なかったよ。翔子、その面白い物って一体何? 私達試験隊には所属を越えて新しい技術や試験結果などの情報が流れ込んでくるんだけど、その面白い物に思い当たるフシはないなあ。そうだっ、航技研ならもっと情報が入ってくるんじゃない?」
「私達も知りませんよ。て言うか配属されて1週間は航技研に関する基本的な研修で、その後すぐに『試製震電』審査専属になったものですから、その他の事を知る余裕なんてありませんでしたよ」
翔子に急に質問されたさくらは必死に思い出そうとしたが、口にした事以外は記憶の底から出てはこなかった。そしてそのさくらから更に振られた航技研組の本庄准尉も知らないと答える。まあ航技研に入ってすぐに岩和田少佐の部下を押し付けられたのだから仕方ないだろう。
「だそうだ。だから立花、さっさと話せ。俺達も早くその『面白い物』という物を知りたい」
時任司令が両手をテーブルにつき、身を乗り出して翔子に迫った。試験隊長も腕を組み、ウンウンと頷きながら同意の旨を示している。
テーブルを囲む者の目が翔子に集中した。まるで紙芝居の続きを聞こうとする子供のように瞳を輝かせて。その圧に怯みかけたが翔子は『面白い物』の正体を明かしだした。
「えっとですね、これもカタパルト同様イギリス発祥の技術らしいのですけど、元々は空母の飛行甲板の艦首側に付けて発艦を促進する装置なんですけどね……」
「だからどういう装置なんだ」
せっかちな司令に話の腰を折られて少しムッとする翔子。それでも気を取り直して話を続ける。
「要は飛行甲板…私が経験したのは滑走路でしたけど、その端に傾斜を付けて、自然と機首が上を向くようにする装置です。その装置の上を通れば極端な話、上げ舵を取らなくても上昇していけるんです。機首が上向いた状態で飛び立つんですから当然ですよね。それだけじゃなく機首が上を向く事で主翼の迎え角が大きくなるから、自然と揚力も大きくなります。その分坂道を登る格好になるから速度が若干低下するんですが、坂道自体は短いですし、その前の滑走の勢いがありますから特に問題にはなりません。そしてっ、この装置最大の利点は離陸した瞬間、既に地上との距離、つまり高度がとれている事です。この装置、元々は空母の飛行甲板に付いていると言ったじゃないですか。空母の飛行甲板って海面からの高さがだいたい12mっていうのが理想らしいんですけど、それでも重量級の機体は一旦海面スレスレまで沈み込んでしまうそうなんです。しかしこの装置を使うとそれだけで2~3mの余裕が生まれるし、空に向かって放り出される感覚なので、気分的にもラクだそうですよ。もっとも地上の滑走路に付けても充分な滑走距離と速度が得られるから効果は薄いかも知れませんが、でも細かな上げ舵の角度とか気にしなくても済む分気はラクですし、何より気持ちよかったですっ!」
翔子はその装置について語っていくにつれ、次第に興奮していった。瞳は輝き鼻息も荒く、顔だけでなく全身が血色ばみ、持論の正しさとその装置を使ってみた時の感想を主張する。が熱が入りすぎていたようで、そこまで一気に語ると喉が渇いてしまい、慌てて麦茶を注いで飲み干した。
「ところでなあ立花。お前さんの主張は分かったが、その装置とやらの名前は一体何だ?いつまでも『その装置』ってんじゃあ、お互い話しにくいだろ」
翔子の話に聞き入り強い興味を抱いたが肝心の名称が出てこなかったため、何と呼んでいいか分からず思わず尋ねた時任試験隊長。それは誰しもが抱いた疑問だったが、彼がいち早くそれを口にしただけ。先程からの発言と合わせて考えると、どうやら彼は思ったよりせっかちな人間らしい。もっとも伯父である司令も同じような感じなので、血筋と言ってしまえばそれまでだけど。
そしてそう問われた翔子はというと、燃料補給とばかりにサンドウィッチに続き稲荷寿司を頬張っていたため、それを呑み込んでからでないと答えられなかった。
「もぐもぐ…んくっ、っと、本家のイギリスでは『スキージャンプ式甲板』って言われているみたいですよ。でも横空では『ジャンプ台式発艦促進装置』って呼んでました。あと日本語っぽく『傾斜式』とか『上反式』とかにしようかと話し合ってるみたいですが」
そう答えると食道の途中で引っかかっている感じの稲荷寿司を麦茶で胃袋まで流し込んだ。いくら小振りの湯飲みとは言え結構な杯数を飲んでいる。のでさくらが「トイレの方は大丈夫だろうか」と、話し合いには関係ない心配をする程だった。
「スキージャンプ式ってイメージはしやすいですけど、ちょっと怖い印象も受けますよね。飛行機でもっと高い所を飛んでいる私達が言うのも何ですけど、よくあんな高い所から飛べますよね」
西准尉がその名前から想起した感想を素直に口に出した。その言葉に翔子は同調して、
「だよねー。あんな処刑法の1つから発展したような危険なスポーツ、よくできると思うよ」
と明るく宣ったが、西准尉から冷静に、
「翔子さん、それ根も葉もない全くのデマです。ゴルフのように遊びの中から自然に生まれたみたいですよ」
とツッコまれると驚き、目を真ん丸にして「それマジ!?」と聞き返していた。西准尉だけでなく本庄准尉からも「その通り」と言われると恥ずかしくて堪らなくなる。そしてその恥ずかしさを吹き飛ばすように更に明るい声で、
「そうだったんだー。昔、誰かから聞いたまんま、ずーっとそう信じていたよ。あり得そうな話だったから、疑う事もしなかったし」
とバツの悪さを隠そうとする。が場に流れている空気からすると、それは上手くいかなかったようだ。
そんなこの「食事会」には必要ない沈黙を破ったのは時任司令であった。
「…で立花、その装置の名前と効果は分かったが、そのジャンプ台、『震電』にとって有効なのか? つまらん事でいつまでも黙ってないで説明してくれ」
その質問は翔子にとって救済にはなったが、同時に傷もえぐってくる。とは言え、そう言う事で翔子の立ち直りを早める効果はあった。この辺は部下の性格等をよく把握している司令の気遣いの表れである。それで翔子の恥ずかしさが無くなった訳ではないが、話の続きをできるくらいには回復できた。ただ司令の物言いが少し引っかかったから、まだ残っている恥ずかしさと合わせてちょっとだけ不機嫌な語り出しになってしまったが。
「そりゃあもちろんですよぉ。脚を短くカットして飛び立ちにくくなったあの子でも傾斜により迎え角が付きますから、長い滑走路で充分速度を稼いでおけば簡単に飛び立ってくれると思います。もっともまだ誰も試してないから無責任な事は言えませんけどね」
「なら現行の機体を追浜に運び込んでテストしてみたらどうだ? それで効果アリと認められたらそのままそのジャンプ台を空軍でも導入すればいいし、お前の主張通り『震電』の脚を短くできるかも知れん」
「う~ん、確かにそれが一番手っ取り早いですが、でもその前に右傾問題を少しでも軽くしておく必要があるでしょう。追浜の装置は空母に見立ててだいたい20m幅くらいしかなかったと思いますから、フラフラしてたら脇から落ちてしまうかも知れないです。せめて幅が50mくらいあれば多少ヨレても大丈夫でしょうが」
「やっぱり右傾問題の方が優先課題なんじゃないかいっ!」
時任司令は翔子の正直な説明にツッコんでいた。ご丁寧に身振りまで付けて。そして司令はテーブルに突っ伏す。
実は翔子が熱く語るのを聞いているにつれ『震電』の脚を短くするという提案に少し魅力を感じかけていた司令。
1週間前、本庄・西准尉や岩和田少佐と共に『試製震電』が成田基地にやってきて、初めてその姿を見た時に「先尾翼」「推進式プロペラ」というスタイルをしていたため、その脚の長さは仕方ないものと思い込んでいた。いや実際に仕方ない設計だろう。機体後部にあるプロペラが地面と干渉しないようにし、かつ主翼に一定の迎え角を付けようと思ったら脚、特に前脚は非常に長くしないといけない。その辺が通常スタイル、つまり「尾輪式」で「牽引式プロペラ」を持つ機体とは大きく異なる点である。だから脚が長いのは自然な事なのだと、飛行機という物を知っている者程当然と考えてしまうのだ。
しかし飛行機の申し子とも呼ばれる翔子くらいになってしまうと一般的な常識からは解放されてしまうのか、上手い具合に横道・逃げ道を見つけ出して、新たな到達点を見つけ出してしまう。その言葉に夢を見たくなってしまったのだ。
が翔子が最後に語った一言は盛り上がってきた気持ちを萎えさせ落胆させるのに充分だった。折角気持ちよく見ていた夢から叩き出され、つまらない現実を突き付けられたのだから。
司令は駄々でもこねるようにテーブルの上で上半身を揺らしている。それでもテーブル上の食べ物を落としたりこぼしたりしていないところを見ると、最低限の理性は保てているのだろう。
そんな姿を見た皆は驚き、言葉を無くしていた。その状態の司令に対し、何かできるとは思っていなかったから。唯一翔子だけが何とかしてくれるのではないか、他の者達は密かに期待した。何故なら司令をこのような状態にしたのは彼女の一言なのだから責任があると言えばあるのだし、再び司令のやる気が出るような言葉をかけられるのではないか、そう考えたからだ。
しかしその翔子も目が泳いだ状態になっており、とても他人に気を遣える感じではない。彼女だって司令の様子を見て、自分の一言がきっかけだと分かっているから。だから何とかしなければとあれこれ考えてはいるのだが、考えが一向にまとまらずに固まってしまっているのだった。
そんな状態がしばらく続いたと思ったら、司令は突然むくりと体を起こし、少し弱々しげに翔子に尋ねる。
「なあ……お前でも無理か?」
その言葉に翔子は我に返った。すると今まで霞がかかっていた頭と心がすうっと晴れ、考えが自然とまとまるようになる。
「私なら──多分問題なくできると思います。少なくとも今日飛んでみて、あらかた『震電』のクセは掴みましたから。あと数回離着陸を繰り返せば他の子と変わらないレベルで飛べるようになる自信はあります」
翔子は少し考えた素振りを見せた後、胸を張ってそう答えた。これは決して精神的なダメージを受けている司令を慮って言っているのではない。実際にその自信があるからこそそのように答えたのだ。少なくとも残り2日間『震電』に思い切り乗り込む事ができれば、今答えた以上の荒技だってできる気がする。それが翔子という人間だった。
その翔子の返答を聞いた司令は急に元気を取り戻し、大きな音を立てて立ち上がり、力強く言い放った。
「だったらまずはお前が手本を見せろ。海軍や横空には俺が話を付けてやる。少しでも早く『震電』を完成させる事ができれば、本土防衛はより確かなものになるからな!」
「私がですかっ!?」
復活即元気になりすぎた司令からびしっと指を突きつけられ、食堂中に響く大声で新たな仕事を命じられた翔子は、当然の事ながら拒否する気満々だった。
確かに自分ならできるとは言ったが、あくまで能力的にはという意味で、志願したつもりはさらさらない。それに今回成田基地に呼び出されたのは、今日を含めた3日間新型機『試製震電』の実戦的試験を行うためであって、余所の基地、それも海軍の基地に更に出向したり実戦機動以外の試験を行う事は、その命令書には含まれてない。つまり今言われた事は直接の上官である茂原基地の本堂司令は全く与り知らぬものであり、それを理由に拒否する事は充分可能だ。もっとも普段の時任司令でならばそこまで大仰に考えなくても理解してくれそうだが。
「申し訳ありませんが、それは拒否させていただきます。今回の命令書の内容から逸脱しますし、私ができるのだから熟練のテストパイロットなら充分にこなせますよ。だから私は成田基地で空戦機動試験に専念し……」
「駄目だ」
翔子の言葉を遮って、司令はドスの利いた声で自分の意志を通そうとする。翔子からしたら意外な事だった。
「これはお前が始めた事なんだ。今まで誰もあの機体の脚を短くしたり、それを補うため新たな技術を用いたりなんて言った事はねぇ。だがお前は皆からの強い反論にも臆する事なくそれを主張し続けている。であるならお前の主張を形にしたければ、お前自身で証明してみせなければならない。そもそもこの『震電』がこんな形になったのだって、ある技術大尉が750㎞/h出すためにはこの形状しかないと主張し、ほぼ同型のモーターグライダーまで作って上を説得したからこそ、それが実現した訳だ。ならお前だって自分自身でその有効性を証明してみせろ。たとえ最初の取っ掛かりだけだとしてもっ」
司令の言葉は荒っぽいが筋はキチンと通っている。ので翔子は真っ向から反論する事ができなかった。ので何とか逃げだそうと必死に言い訳を考える。
「でもやっぱり私が成田に出向してきたのは、今日も含めた3日間新型機の試験をみっちりこなすためですから、そちらを全うしなければ……」
「なぁに心配するな。残り2日、ウチでしっかり試験飛行をこなしてから直接横須賀に乗り込んでもらうつもりだったからな。向こうだって受け入れ準備はあるだろうし、何よりお前自身が言ってたじゃないか。後数回離着陸を繰り返したら、ってな。だから思う存分ここで訓練してから万全の状態でジャンプ台のテストを行ってもらう。それでいいじゃないか」
「でもぉ、命令書には3日と書いてあったのに、それを急に延長したら、茂原だって困ると思うんですよね…」
「それだって心配いらん。俺の頼みであれば本堂は大抵聞いてくれるからな。1日2日の予定延長くらいなら電話一本で用は足りる。それに今がいつ空襲を受けても不思議じゃない状況ならさっさと帰ってもらわんとまずいが、今は【海軍休暇】とやらで半休戦状態だ。それこそこの『震電』が目標としている超重爆でも出てこない限り関東が攻撃を受ける事もないだろう。以上、お前は何の憂いもなく『震電』の完成度を高める試験に没入できる訳だ」
「でもでも~~…」
完璧な理論武装をした時任司令に翔子はなおも食い下がろうとするも、司令のそれを覆すだけの適切な言葉がなく、ただもじもじうだうだと逃げるための口実を探していた。そんな時時任試験隊長が伯父にとっては援護射撃的、翔子にとってはいらん事を口にした。
「何だ立花、歯切れが悪いな。飛行機の事となれば一も二もなく乗り気なお前が。…さてはお前、茂原にいい男がいるから早く帰りたいんだな」
「「それって新野さんの事ですよねー」」
隊長の言葉に本庄・西両准尉が即座に反応する。流石にお年頃の女子、色恋沙汰には興味津々なのだろう。
「べっ、別に大地とはそういう間柄ではないしっ。ただちょっと飛行機の事とかで話が合うから、ちょくちょく話す機会があるだけで……」
などと顔を真っ赤にし全力で否定する翔子を余所に、勝手に盛り上がっていた。
「新野は茂原に異動する前の一時成田にいたから少しは覚えてはいるが……あの頃は仕事バカっつーかエラい堅物って印象なんだが、そんなあいつがなあ。まあある意味似た者同士で馬が合うってところか」
本当に細かい所まで目が行き届く時任司令。数年前に所属していた隊員の事まで把握し覚えているとは、流石、を通り越して恐ろしささえ覚える程だ。もっとも新野大地という存在のキャラクターが強かった事も表しており(いくら時任司令であっても組織の中に埋没してしまうような個性の薄い隊員の事までは流石に覚えていられない)、またそれ以上に強力なキャラクターである翔子とのセットで情報が伝わってくるため、その存在は更に深く刻み込まれてしまうのだった。
そして最後に親友であるはずのさくらまでがトドメを刺すような事を言い出した。
「あのぅ、2人の事は静かに見守っていこうと701では決まってましたから、皆さんもできるだけそうっとしておいて下さいね。本庄さんも西さんも忘れた訳じゃないでしょう?」
「そうでしたっ、すみません」
「つい時任隊長の言葉につられちゃいました」
「おいおい、結局俺が悪者か?」
さくらの言葉に両准尉と隊長は流れるように反応する。さくらの言葉は口調こそ穏やかだったが親友の事を思っての言葉だったため、妙な迫力というか重さがあった。ので素直に非を認めた方が良いと思ったのだろう。それを見たさくらはちょっと満足げだったが、肝心の翔子はというと、余計にダメージを受け、先程の司令のようにテーブルに突っ伏した。
「さくらまで……どうしてみんなそういう目で見るのよぉ…」
「それはねぇ、どうやって見てもそういう風にしか見えないからだよぉ。さっき言った言葉とは矛盾しちゃうけど、いい加減そろそろ2人とも認めちゃえばいいじゃない。そうしても誰も反対しないどころか応援してくれると思うよぉ。もちろん戦争が終わるまで翔子が空軍を辞めない限りは、だけどねぇ」
げんなりしている翔子にさくらはあっかるく答えた。本人達の気は知らないが、端から見たら100人が100人とも「良い仲なんだろうなあ」と思ってしまう言動しかしていない。それはたまにはケンカもするけれど、どう解釈しても「まんざらではない」感をお互いに出しまくっている。ので2人が普通に会話をしているのを見て「良い感じ」に映らない者がいたとしたら、よっぽどの変わり者か両者以上の恋愛下手のどちらかだろう。これが彼女達を知る者の共通見解だった。
しかし恋愛偏差値の極端に低い翔子にはさくらが言っている言葉に意味がさっぱり分からず、憮然として文句を言う。
「大地とは普通に、ま、内容は普通じゃないかも知れないけど、何の気兼ねもなく話してるだけだよ。普通お付き合いとかしてるなら人前でもイチャイチャベタベタしたり、人目を忍んで逢い引きとかするんじゃないの? 私達一切そんな事してないよ。なのに何でみんなそんな目で見るのかなあ~」
「恋愛の形って人それぞれ、十人十色だからね~」
まだ釈然とせずテーブルの上でゴロゴロしたがっている(できないのはもちろん料理が載っているから)翔子を生温かい目で見ながら、さくらはあまり感情のこもってない声で言った。さくらだって決して恋愛経験が豊富という訳ではないが(それどころか大人のお付き合いは彼女だってまだないし)、親友程そんなガチガチな恋愛テンプレしか思い浮かばない訳でもない。まあ翔子達のようにお互い惹かれ合っているのに素直になりきれず、一定の距離から踏み込めないというのも充分お約束なのだが。
「でもまあ翔子と大地君の話は今は関係ないからね~。いずれ時間外にでもゆっくりするとしてぇ、話を元に戻そお~」
「うむ。我々としても他人の恋愛話にうつつを抜かしている暇はないからな。立花、まだ横須賀に行ってくれる気にはならんか?」
親友のあまりに煮え切らない態度に、これ以上は煽っても無駄なようだし、何よりかわいそうにも思えてきたので、話を『震電』についての事に戻そうとする。そこに司令が同調して、海軍横須賀基地での追加試験の話を持ち出した。多少卑怯な気もするが、一番苦手なジャンルでイジられる事から逃れようと話に乗ってくるという目論見も込めて。すると案の定、翔子は消極的ながらもその件を了承する。
「はいはい、分かりましたよ。これ以上ヘンな話をしないでくれるのなら、どんな危険な試験だって喜んで引き受けます」
「そりゃ結構。それならば今の話を蒸し返させないよう俺が約束する。分かったな、みんな」
司令の言葉に一同激しくうなずいて了承の意を示す。司令に逆らう訳にはいかないし、これ以上翔子をイジめても誰も得はしなかったから。それを薄目で確認した翔子は、ようやくゆっくりと上体を起こす。
「何だか上手く誘導された気がしないでもないけど…でも約束した以上はキチンと試験してきますよ。それに鶴野大尉の実例まで出されちゃあ、引っ込む訳にはいかないですからね」
翔子はまだ完全に納得した訳ではなかったが、追浜飛行場での実証試験を受け入れた。 正直な所、今の『試製震電』のままでジャンプ台の試験をしてもあまり意味がない。脚を短くしてフラットな姿勢になった機体で楽に離陸するためのアイディアなのだから、脚の長い機体のままでは、普通の滑走路から飛び立つよりは容易であると確認できるくらいだろう。でも自分以外のパイロットがテストしてみて同様の感想が聞かれるのであれば、脚の短い『震電』を作ってもらいやすくなるだろうし、またジャンプ台の効果にも強い裏打ちがなされる。
なら日本の航空業界全体(主として空軍と海軍にだが)にとってプラスであり、それに関われるのはパイロットエンジニアにとって喜ばしい事であった。そう思えるようになると次第に高揚し、表情が明るくなる翔子だったりする。
「なんだ立花、すっかりご機嫌みたいじゃないか」
その翔子の変化に素速く気付いた司令が冷やかし半分に声をかける。
「泣いたり笑ったり、本当忙しい奴だな」
「別にいいじゃないですか。上官や同僚の責苦に耐え、ようやく前向きに考えられるようになったんですから。それに泣いてはいませんよ。ちょっとゴネたりはしたけど」
「随分人聞きが悪いな。俺はお前を理不尽に責めたりなんてしてないぞっ」
明るく、いや軽く芝居がかった感じで自分の言葉に反論してきた翔子に、司令は反論し返した。そこまで言われる程彼女を責める言葉は使ってないはずと思っていたから、それは少しは不機嫌になったりする。
が翔子はそんな様子の司令に向かい、ふざけた感じを上乗せして言い放った。
「冗談です♪ みんながヘンな事言うから少しだけ反撃してみましたっ。でもこれで脚についての私の主張は終わりです。では続いてみんなが知りたがっている右傾について話し合いましょー」
この翔子の言葉は司令にだけでなく、この場にいた皆に伝えたい事だった。細かなやりとりをしたり激しく脱線もしたから思ったより時間が経過している。ので話を強引にでも進めないと徹夜とまではいかないまでもかなり夜遅くまでこの「食事会」は続いてしまう。翌日の本格的な試験の事を考えれば、少しでも早く眠って休息を多く取っておきたい。 それに話が長引けばまた脱線するかも知れないし──他人の恋愛話なら少しは興味を持って聞けるが、対象が自分である事はこの上なく苦手だった。この『試製震電』について語る「食事会」に参加している6人の内4人が若い女性なものだから、少しでも隙があれば話をそっち方面に持って行きかねない。それを予防するためにも「食事会」を早く終わらせるべきと思ったのだ。
その気持ちを少しは察知してくれたのか、司令は頭を掻きながら一旦締める言葉を言った。
「それじゃあ結構時間も食っちまったみたいだから少し休憩するか。そうだな、10分ぐらい経ったら再開するから、資料が必要な者がいたら早く行って取ってこい。少しなら待つが、あまり遅いと始めちまうからな」
そして自ら率先して席を立つ。それに続いて女性達も立ち上がった。つまりは司令なりに配慮した言葉だったのである。
「伯父さ…いや司令も気が利くねえ。あんな図体していながら」
その場に1人残った試験隊長がボソッとつぶやく。自分もある程度は気が利く方だと思っているが、伯父である司令にはかなわない。そう思いながら太巻きを口にし、まだ長く続きそうな「食事会」に備えていた。
次話に続く──
今回の章タイトルはあるゲームのセリフから使わせてもらいました(もちろん無断ですが)。
最初は「『カモシカの脚』ってほめ言葉じゃないからな」的なものにするつもりだったのですが、インパクト重視で現行のものにいたしました。もし『カモシカの脚』の意味が分からなかったら調べてみてください。
しかしこの話もようやくここまで来ました(正直ここまで長くなるとは思ってませんでした)。後1・2章で完結できると思いますので、皆様お付き合いお願いします。




