3話 冤罪 ②
「フェリシア! 貴様……!」
荒々しく扉が叩き開けられ、青筋を立てて怒りを隠そうともしない王が自室へと踏み込んできた。
フェリシアは椅子に腰かけ、静かに紅茶を嗜んでいるところだった。
背筋をすっと伸ばし、カップを傾けるその姿はどこまでも優雅で、誰もが思わず見惚れてしまうほど美しい。
だが愚かな王には、その佇まいがただ冷たいだけの、心のない女にしか見えなかった。
「妹が毒を盛られて苦しんでいるというのに、呑気に紅茶など飲んでいるとは……! どこまで冷血な女なのだお前は!」
「……アンジェリカが、毒を?」
青天の霹靂とも言える言葉に、フェリシアは一瞬だけ瞳を揺らした。
何が起きているのか分からず戸惑いを覚えたものの、長年の虐待と厳しい教育によって叩き込まれた鉄の自制心が、それを一切表情に出させなかった。
微動だにせず冷徹な笑みすら浮かべて見せるフェリシアの態度に、王の怒りはさらに爆発する。
「とぼけるな! お前が贈った茶葉から毒が検出されたのだ! 自分の地位を脅かすアンジェリカと、俺の愛しい子供を害しようとしたのだろう!」
王の怒りはもう抑えることができない。
「……わたくしがアンジェリカに贈ったのは、彼女の身体を気遣った無害なハーブティーでございます。毒など盛る理由がございません」
眉根を寄せフェリシアは王を見た。
「言い逃れは見苦しいぞ! 証拠ならすぐに洗い出してやる! 動かぬ証拠を見つけて、必ずやお前を暗く冷たい地下牢へぶち込んでやるからな!」
王は吐き捨てるように怒鳴り散らすと、フェリシアの反論を聞く耳も持たず、荒々しい足音を立てて去っていった。
残された部屋で、フェリシアは冷めかけた紅茶を見つめながら、静かに息を吐いた。
(……なるほど。そういうことね、アンジェリカ)
フェリシアをハメて正妃の座から引きずり下ろし、完全に失脚させるための罠。
自分がどれほど身の潔白を主張しようとも、王も、そして父であるスタートレッド公爵も、最初からアンジェリカの味方なのだ。
✴︎ ✴︎ ✴︎
一方、王宮の別邸では——。
主治医の手当てによって容態が落ち着いたアンジェリカが、ベッドの上で弱々しく体を起こしていた。
その傍らで心配そうに手を握る王に向かって、アンジェリカは涙ぐみながら可憐な声で語りかける。
「陛下……どうかお姉様を責めないで差し上げてくださいませ。お姉様は……お姉様は本当はとてもお優しいお方なのです。きっと何かの手違いでございますわ……わたくし、お姉様を信じております……」
儚げな姿に王はフェリシアへの怒りがさらに増す。
「アンジェリカ……! お前はどこまで健気で優しいのだ。自分を殺そうとした姉をかばうなど……」
慈愛に満ちた表情で姉を思いやる妹の姿に、王は感極まり、彼女を優しく抱きしめた。
——だが。
王が「必ずや犯人を罰してやるからな」と部屋を出ていき、侍女たちも下がらせて誰もいなくなった室内で。
ベッドの上のアンジェリカは、先ほどまでの儚げな表情を跡形もなく消し去り、クスリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ふふっ……お気の毒な、お姉様。いくら優秀でも、陛下に愛されていないお姉様に勝ち目なんてないのよ」
自分の体に少し毒を忍ばせるくらいの痛手で、あの邪魔な王妃である姉を完全に排除できるのだから安いものだ。
アンジェリカは暗い優越感に浸りながら、冷ややかな瞳で少し離れたベビーベッドに眠る我が子を見つめた。
「いい子ね?あなたが、わたくしをもっと高みへ連れて行ってくれるのね。わたくしはこの国の唯一無二の正妃として、陛下にも国民にも愛され続けるの。ふふ……もうすぐあの邪魔者は、一番惨めな姿を晒して排除されるわ……あはははは!」




