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この恋は終わりにします、嫌われ王妃は幸せになりたい  作者: 花


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15話 父娘③ フェリシア

「どうしたのかしら……?」


 お母様が屋敷を去ってから、すぐにでも乗り込んでくるだろうと思っていたアンジェリカ親子が、なぜか一向に姿を現さない。


 お父様はといえば、まるでわたしを避けるかのように終日執務室へと閉じこもったままだ。


 以前までのお父様はわたしに冷たい怒号を浴びせていたけれど、最近はすっかり無関心になった。……けれど、その無関心のおかげか、それともお祖父様の手配で新しく入ってきた使用人たちのおかげか、屋敷の使用人たちのわたしに対する態度は、以前のように丁寧なものへと戻っていた。


 メグも他の使用人から理不尽な仕事を押し付けられることもなくなり、専属メイドとしていつもわたしの傍に居てくれている。


 わたしの部屋で髪をセットしてくれているメグに、鏡越しに尋ねてみる。


「メグ、今のところ嫌がらせとかは受けていない? 大丈夫?」


「ご心配には及びませんよ、お嬢様! わたしはとても強いですから、ちょっとした嫌がらせなんて簡単に跳ね除けて見せます!」


 えへんと胸を叩いて誇らしげに胸を張るメグの姿に、わたしは思わず笑みをこぼし、ホッと胸をなでおろした。


 すると、何かを思い出したようにメグが言った。


「そういえば……最近新しく入った使用人さんたちがとっても優秀みたいなんです。古くからいて旦那様に媚びていた使用人たちが、なぜだか急におとなしくなったんですよ」


 どこかスカッとした顔でクスクスと笑い出したメグに、「どうしたの?」と問いかける。


「あはは、実はですね、この前あのいじわるな使用人たちが旦那様に怒鳴られて、真っ青な顔をして部屋から飛び出してきたんです! 奥様(お母様)に対してきちんと仕事をしていなかったことや、怠慢が今頃になってバレたらしくて。……本当にいい気味です!」


「え……お父様が、お母様のことで叱ったの……?」


 思わず聞き返してしまった。


 お母様を毒で弱らせ、冷酷に追い出したはずのお父様が……陰でお母様を不当に扱っていた使用人たちを叱責した?


 ——やはり、おかしい。


 一度目の人生の記憶とは、明らかに何かが違っている。

 お父様に対してぬぐいきれない不信感と強い違和感を抱きながらも、わたしは慎重に行動を起こすことにした。


 お祖父様がわたしの安全を守るため、そして公爵家の動向を探るために屋敷へ忍び込ませてくれた新しい使用人たち——その実体は、お祖父様の配下である優秀な隠密や密偵たちだった。


 わたしは彼らと度々密かに連絡を取り合い、屋敷の現状や、引きこもっているお父様の部屋の様子、そして未だ動きを見せないアンジェリカ親子についての情報交換を重ねていった。


(一度目の人生通りにはさせない……。お父様に何が起きているのか、そしてあの二人が何を企んでいるのか、今度こそすべてを解き明かしてみせるわ)




 ✴︎ ✴︎ ✴︎



 お母様がいなくなって寂しいはずなのに、なぜか穏やかな日々が過ぎていく。


 たぶん、誰もわたしに嫌がらせをしてこないから。

 まだ屋敷を追い出される気配もない。


 お母様からの手紙も二、三日おきに届いていた。


『元気にしていますか?』

『早くフェリシアに会いたいわ』

『嫌な思いはしていませんか?』

『少しずつ寒くなり始めたから、体に気をつけてね』


 届く手紙は、どれもわたしを心配し愛してくれる内容ばかり。

 お父様のことを尋ねてくる内容はひとつもない。


 お母様もきっと、この屋敷に潜ませているお祖父様の密偵たちから現状を聞いているのだろう。


 ……そんなある日のこと。


 またしても、お父様に異変が起きた。


「フェリシア! 執務室へ来い!」


 普段なら呼出しの手紙や使用人を寄越すはずのお父様が、自らわたしの部屋までやってきて、叩きつけるような怒号を浴びせてきたのだ。


 ちょうど家庭教師の先生と外国語の勉強をしていたわたしは、静かに本をデスクに置き、深く息を吐いた。


「……はい」


 わたしが返事をすると、お父様はバンッ! と音を立てて扉を叩きつけるように閉め、そのまま去っていった。


 わたしは先生に向き直ると、落ち着いた声でお願いをした。


「申し訳ありません、先生。今日の授業はここまでとさせていただけますか?」


 心配そうにわたしを見つめる先生だったが、当主である公爵のあからさまな態度に口を出せるはずもなく、「フェリシア様……」と困惑した様子で辞儀をし、部屋を辞していった。


 一人になったわたしは、息を整えて重い足取りで執務室へと向かう。


 執務室のドアを開けると、案の定、お父様は隠そうともしない激しい苛立ちを全身から撒き散らしていた。


 ——それは、お母様が毒で寝込んでいたあの時期と、全く同じ異様な空気だった。

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