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この恋は終わりにします、嫌われ王妃は幸せになりたい  作者: 花


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14話 父娘② フェリシア

「離縁したいというのなら、一人で出ていくがいい」


 お父様は、まだ体調の安定しないお母様を冷ややかな目で見下ろすと、振り返りもせず部屋を去っていった。


 今回は隠れることなく、お母様の側に寄り添っていたわたしのことなど、見向きもしなかった。


 まるで、娘のことなど最初からどうでもいいかのように。

 それなのに、お母様を引き留めるための道具として「フェリシアはお前に引き取らせない」と言い放ったのだ。


 お母様がわたしを置いて一人で出ていけるはずがないと、お父様は高をくくっているのだろう。

 お母様はただ固く口を結び、悔しそうにわたしの手を握りしめていた。


「お母様……お願い……」


「大丈夫よ、あなたを一人にさせたりしないわ。ずっと一緒だと約束したでしょう?」


 ぎゅっと握られた、お母様の手の温もり。

 生きていてくれる。それだけでいい。

 もうこれ以上、何も求めるつもりなんてなかった。一度目の人生のときのような悲痛な絶望は、お母様が生きているだけで消え去ってくれるのだから。


 わたしは、静かに首を横に振った。


「お母様……わたしを置いて、お祖父様のところへ帰ってください。まだお体も完全ではありません……それに、お母様の心はとても疲れています」


「ダメよ! あの人があなたにどんな酷いことをするか分からないわ! 私がいれば、あなたを見張って守ってあげられるのよ!」


「わたしは……一人でも大丈夫です。だから、お祖父様のところへ帰ってください。……その代わり、野菜業者さんから届くお手紙以外は、絶対に信じないでほしいのです」


 そう、あの継母からの偽りの手紙が、離縁した後にお母様へ届くことだけは絶対に阻止しなければならない。


 お父様のことを書かない代わりに、今度はわたしの不幸をでっち上げて脅すかもしれない。離れた場所から見守るしかないお母様の心を傷つけ、精神を病ませて死に追いやる——あの卑劣な罠を、二度と繰り返させてなるものか。


 それに、お母様がこんなに早くこの屋敷を出てしまえば、あの二人もすぐに乗り込んでくるだろう。

 この屋敷で我が物顔で振る舞い、わたしはまた別邸に追いやられて苛烈な令嬢教育を押し付けられる。


 一度目は、それでも愛されたいと必死で努力した。

 けれど今回は、二十二歳まで生きた前世の記憶がある。

 必死に勉強などしなくても、作法も語学もすべて覚えているのだ。


 幼い頃に父や継母、アンジェリカからどんな仕打ちを受けたか。

 そして……あの王から、どんな冷たい言葉を投げつけられたかも。


(……わたくしは、そんな彼を……ずっと愛していたのに)


 昔、迷子になっていた子供の殿下を助けたことがあった。もちろんその時は、相手が王太子殿下だとは知らずに助けたのだ。


 お母様は気づいていたのかもしれない。迷うことなくすぐに「護衛が探しているはずだ」と察し、共に街の中を歩いて探してくださった。

 よく思い出せば、あの時の公爵家の護衛たちは、異様なほど周囲に神経を尖らせていた気がする。


 わたくしはただ、同年代の男の子と仲良くなれたことが嬉しくて、周りなど見ていなかった。


『また、会いに来るからな! フェリシア!』


 彼を見つけた護衛たちは、青ざめた顔から一転して安堵の表情を浮かべていた。彼が去り際に見せた、あの眩しい笑顔。


 あれは、お母様が領地へ療養に向かう一年前——わたくしが九歳のときのことだ。

 今はまだ八歳。


(今回は……二度と彼と関わることはないはずだわ。……そうとなれば、彼がわたくしとアンジェリカを『間違える』こともないわね)


 前世では、あの初恋の思い出が……なぜかすべて「アンジェリカとの思い出」へと書き換えられていた。


 王宮のお茶会で殿下のお姿を見かけたとき、「あの時の男の子だ」とどれほど胸を躍らせただろう。けれど大勢の貴族の前でそんな個人的な話ができるはずもなく、挨拶しかできなかった。

 そして殿下の方も……まるでわたくしのことなど最初から覚えていないかのように、一度としてわたくしに笑顔を見せることも興味を見せることもなかった。


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


「もし心配なら、お祖父様が王都に持っている屋敷へいつでも逃げ込めるように準備をしておいてほしいの。それと……この屋敷の使用人として、お祖父様の信頼できる人を何人か送り込んでほしいの」


 わたしは、お母様を何度も説得し続けた。自分はここに残っても絶対に大丈夫なのだと。


 その必死の訴えに、お母様はようやく涙を呑んで離縁を受け入れ、公爵家を去る決意をしてくれた。


 数日後。


 荷物をまとめたお母様が、馬車に乗って屋敷を去っていく。

 わたしの部屋の窓から、遠ざかっていく馬車の後ろ姿を静かにそっと見送った。


(お母様……絶対に、幸せになってね……)


 その時、ふと1階のテラス近くに佇むお父様の姿が視界に入った。


 お父様は、去りゆく馬車を……まるで身を削られるような、酷く傷ついた顔で見つめていた。


(え……? お父様……?)


 フェリシアの胸に、強い違和感が走る。


 よく思い出してみれば——ほんの数ヶ月前まで、両親は誰もが羨むほど仲の良い夫婦だったはずだ。お父様はお母様をとても大切にし、愛おしそうに見つめていた。


 それなのに……なぜお父様は、突然浮気などしたのだろう?

 アンジェリカはお父様の娘?

 でも、お父様によく似ていたわ。


 なぜあそこまで冷酷に、お母様を毒で弱らせようとしたのだろう?


 ただ、離縁して追い出せばいいだけなのに。


 一度目の人生では、継母とアンジェリカの突然の登場と、自分が放置されたショックで、そんなことを考える余裕すらなかった。


 けれど記憶を取り戻した今、あまりにも早い展開に感情が追いつかない中で、お父様のあの不自然な「傷ついた表情」が頭から離れない。


 お父様はその後、重い足取りで書斎へと戻ると、扉を固く閉ざしたまま、何時間経っても二度と外へ出てくることはなかった。

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