07.出会いは突然に
晴れた空の下、畑ではデュランとスケルトンたちが農作業を行っている。デュランはリディアのように、死霊術は使えない。しかし何体かのスケルトンを、使役できるようにしてもらっているのだ。デュランがふと顔を上げると、少し離れたところでリディアとシオンが歩いていた。
「――よぉ、リディア。シオンとお出掛けかい?」
「ええ。デュランもお疲れ様」
「デュランさん、お疲れ様です」
シオンも、表情こそ乏しいがしっかり挨拶をする。傍から見れば育ちの良い少年だが、それにしては剣術が強すぎる。ただ……デュランは素直すぎるシオンの剣筋が、少しばかり気になっていた。
「作業はひと段落したからさ。剣の稽古でもつけてやろうか?」
「あら、いいわね。これから……何日かお使いに行ってもらうんだけど、30分くらいなら大丈夫よ」
「本当ですか? それではデュランさん、よろしくお願いします!」
デュランは農具を置いて、シオンの元に歩いていく。リディアはどこからともなく、木の棒を出してふたりに渡した。
「ただの稽古だからね。今回は、棒でもいいでしょ?」
「ああ。これから出掛けるなら、今回は軽く済ませるか」
「はい!」
デュランとシオンは互いに構えて向かい合い、その横で、リディアは腕を組みながら立っている。特に合図はないまま、シオンが攻撃を仕掛けていく。
「――たぁッ!!」
「おっと、踏み込みが単純だぜ? もっとフェイントを掛けろよ」
「はぁッ!!」
「フェイントは、単体だと隙になるだけだぞ? ほら、他の動きに混ぜ込めよ!」
デュランは死角に回り込み、左手でシオンの肩を押して体勢を崩す。シオンは転倒しないようにバランスを取ってから、再度デュランに向かっていく。その合間に、ふとデュランがリディアを見ると――手で、何かの合図をしている。どうやらもっと、強くいっても良いようだ。
「あとで小言を――言わんでくれよッ!!」
デュランの攻撃はさらに激しくなり、シオンは何とか剣で捌いていく。そんな中、デュランはシオンの腹部がガラ空きであることに気が付いた。先日、初めて戦ったときも隙だらけだったが――
……いや。隙なんてものは、そこまで簡単に修正することはできない。それなら、今の内に痛い目を見せておいてやるか……、デュランはそう考えた。
「おら! また腹が隙だらけ――」
デュランは木の棒で思い切り叩き付けた。しかし、何か手応えがおかしい。そんな疑問を持った瞬間、シオンはデュランの横に回り込み、強烈な打撃を叩き込み返した。
「――ぐぉッ!? や、やるじゃねぇか……!!」
「デュランさんも、相変わらずお強いです!」
ただ、そうは言っても――やはり、おかしい。デュランはついつい、リディアの方を見てしまう。
「あら、もう気が付いたの? 隙を突かれたら、やられちゃうからね。私の力で、シオンの防御力を上げたのよ」
「はぁ!? どうやって!?」
「錬金術の秘術よ。詳しくは内緒♪」
「っていうか、剣術で解決しろよ!!」
デュランは素直にツッコんだ。剣術というのは技術であり、それを以ってダメージを与え、ダメージを抑えるのだ。それを無視して、錬金術で解決するだなんて……。
「もちろん、剣術でもカバーする必要はあるわ。でも、今はそんな悠長なことを言っていられないのよ」
「はぁ……。まぁ、命が優先だもんな。今回は、そういうことにしておいてやるよ。……ほら、シオン。こっちに来い」
「はい!」
その後、デュランは手取り足取り、シオンに指導をしていった。リディアからすれば雑味の多い剣筋だったが、実戦では泥臭い戦いも普通にあり得る。だからこそ、リディアの綺麗な剣術よりも、デュランの剣術の方が、シオンには好ましいと思っていたのだ。
「――あまり汚いものは見せたくないけど、命が繋がる汚さは……ある意味、美しいのよね」
リディアはそんな言葉を口にしながら、ふたりの姿を見守っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方、デュランは台車を引きながら、森に向かった。農作業も終わり、次は森で採れる果物の運搬にやって来たのだ。
「よぅ、ヘルミナ。持っていく果物は集まってるか?」
「はーい。そこにあるやつと……あと、もう少しだけです!」
「それじゃ、俺は少し休んでいようかな……。農作業に加えて、シオンの稽古もやってきたから……少し疲れたよ」
デュランは近くの岩に腰を下ろして、ヘルミナに語り掛けた。そんなヘルミナは、どこからともなく果物を受け取っている。
「……うん? 収穫、誰か手伝っているのか?」
「あたしのお友達の、フェルネちゃんと一緒に作業中です!」
「フェルネ……? 俺の知らないやつだな」
「ああ……。デュランさんがリディアさんに土下座したとき、フェルネちゃんだけはいませんでしたからね」
「……嫌な思い出なんだよ。あんまり触れてくれるな……」
ヘルミナの言葉に、デュランは頭を抱えた。そんな彼の後ろから、不意に小さな声が聞こえてくる。
「は、はじめまして……。わたし、ドリアードのフェルネっていいます……」
デュランが慌てて振り返ると、そこにはフェルネの姿があった。全身から感じられる自然の雰囲気に、彼女がドリアードだということにも納得してしまう。
「ああ、はじめまして。俺は猫獣人のデュランだ。主に農作業を任されている。お前は果物担当か?」
「は、はい。大体、そんな感じです……」
「果物の運搬は、今後も俺がやらされるだろうから……。会う機会も多くなるだろうし、これからもよろしくな」
「よろしくお願いします……! それではわたし、残りの作業を続けますね……!」
そう言うと、フェルネはいつの間にか消えてしまい……気が付けば、再びヘルミナの方へ果物が投げられ始めていた。姿は見えないが、果物を収穫しているところなのだろう。しばらくするとその作業も終わり、3人は台車の前に集まった。
「おぉ……たくさん採れたな。これだけあれば、しばらくは持つだろう」
「フェルネちゃんのおかげなんですよ。今は、実のなる場所をどんどん増やしてくれているんです!」
「へぇ、そんなこともできるのか。フェルネは凄いんだなぁ」
「い、いえ……。それほどでも……」
デュランの言葉に、フェルネは顔を赤くしながら照れていた。そんな彼女を見るのはヘルミナも初めてで、少しだけ戸惑ってしまう。
「フェルネちゃん、大丈夫? もしかして、体調が悪い?」
「いえ、そんなことは……」
「あ、俺が急に来たから緊張しちまったかな?」
「そそそ、そんなことはっ!」
「それなら病気か? ドリアードには……農薬や栄養剤は効くのか?」
「効くわけないじゃないですか! デュランさん、何を言ってるんですか!?」
ヘルミナからのツッコミに、デュランは困った笑顔を向ける。
「そ、そうだよな? フェルネ、変なことを言ってすまん」
「いえ……。うふふっ、デュラン様は面白い方ですね……」
「そうかなぁ? ガサツなだけじゃない?」
「何だと!?」
デュランはヘルミナの後ろにまわり、両手を握って、拳の関節をヘルミナのこめかみにグリグリと押し込んだ。ヘルミナは逃げ場もなく、そのままギブアップをしてしまう。
「――というわけで、俺はもう戻るぞ。フェルネも、果物をありがとうな」
こめかみを押さえるヘルミナと、それを心配するフェルネを残して、デュランは台車を引いて去っていった。痛みがようやく治まってきた頃、ヘルミナは恨み節を口にする。
「うぅ……。今度リディアさんにお願いして、痛い目に遭わせてやるんだから……」
その言葉に、フェルネは反応しなかった。自分がこんな目に遭っているのに、何も言ってくれないとは――ヘルミナは思わず、フェルネを見上げた。
「……デュラン様……。素敵な……お方……」
「え……?」
フェルネはデュランが消えていった先を眺め続け、ヘルミナはフェルネを見上げ続けた。この展開は、もしかして――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……翌日、デュランが畑に行くと、見慣れない樹を見つけた。今までにない場所に、1本の樹が生えている。
「ああん? 何でこんなところに、急に樹が……。リディアの仕業か?」
しばらく辺りを見ていると、樹の後ろからフェルネの声が聞こえてきた。
「……デュラン様、おはようございます……」
「おう、フェルネ。おはよう。お前、ここまで来られたんだな」
「わたしは、樹がある場所ならどこでも……。だから、ヘルミナちゃんと主様に頼んで、ここに樹を植えてもらったんです……」
「ああ、なるほど。フェルネ用の樹だったんだな」
デュランの声を聞きながら、フェルネは胸をドキドキさせる。
「は、はい……! デュラン様も、この樹は自由にお使いください……。その、荷物を置いたり、ゆっくり休んだり……」
「ふむ、それはいいな。お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ。……さて、それじゃ俺は仕事を始めるかな」
「頑張ってください……!」
「おーぅ。フェルネも気にせず、森に戻って大丈夫だからな!」
デュランはスケルトンと一緒に、農作業を開始した。フェルネは……そのまましばらく、デュランの働く姿を嬉しそうに見つめていた。




