表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

05.友達召喚

 昼過ぎ、リディアたちは食事を持ってドワーフたちのいる場所を訪れた。今は急ピッチで彼らの家が建てられており、日に日に完成に近付いていく。そんな様子を見ているのは、とても気持ちが良いものだった。


「みなさん、お疲れ様です。ひと休みしませんか?」

「お、リディアの嬢ちゃん! いつもすまねぇなぁ」

「ありがとうございます、リディア姐さん!」


 いつの間にか、ザザ以外のドワーフからは『姐さん』と呼ばれるようになっていた。リディアは最初こそ嫌だと言っていたが、今は諦めの境地に入っている。


「シオン、準備をお願いね」

「はい、承知しました。ヘルミナさん、手伝いをお願いします」

「ほいほいー」


 シオンとヘルミナは慣れた手付きで準備を進めた。ドワーフたちが作業を切り上げると、すぐに食事が始まった。


「ジジさん、進捗はどうですか?」

「はい、予定よりも少し早く進んでいますよ。ワシら、早く鍛冶をやりたいもんで」

「なるほど……。家が完成したら、私の持っている分の鉱石はお渡ししますね」

「ありがとうございます! ワシらは仕事が速いですからね。是非、いろいろな鉱石を持ってきてくださいよ!」


 ジジの言葉に、リディアは頼もしくもあり、心配にもなってしまった。この土地は基本的には平坦で、その外周は全て森で囲われている。そのため、鉱石を定期的に手に入れるには、森の外に出て行かなければいけないのだ。


「……期待してますね。今は先に、家と鍛冶場を作らないと」

「がっはっはっ! わかってますよ、お任せくださいな」

「ところでリディアの嬢ちゃん。儂たちが増えて、食う量も増えただろう? 食糧の方は大丈夫なのか?」

「ええ。貯えも少しはありますし、あとは今、畑を広げていますから」


 リディアの言葉に、ザザは少しだけ眉をひそめる。


「ふぅむ。今から育てていて、間に合うのかい?」

「リディア様には錬金術がありますから。畑さえ完成すれば、あとは問題ありません」

「ふふっ、そういうことです。特製の肥料や農薬を作る必要がありますが、そんなに難しいものではありませんし。ただ――」

「うん? 何か問題でもあるのか?」

「やっぱり、人手なんですよね。ドワーフの皆さんには建築と鍛冶に集中してもらいたいので、そうすると――」


 ……他には、リディアかシオンか、ヘルミナしかいない。

 リディアにはやるべきことがあり、シオンには手伝うことがある。そうとなれば、消去法ではヘルミナだけ……ということになる。


「あ、あたしは畑仕事用の筋肉が無いので……」

「そんなもの、やっていればすぐに付くわよ?」

「今の時点で、動きやすい肉付きになっているので……」

「畑仕事をやめれば、使わなくなった筋肉は落ちるわよ?」

「余計な筋肉が付くと、あたしは森の巡回ができなくなるので……」

「そこまで極端なことにはならないと思うけど……つまり、畑仕事はやりたくないわけね?」


 リディアの言葉に、ヘルミナはしばらく間を置いてから……静かに首を縦に振った。人それぞれ、好きな仕事もあれば嫌いな仕事もある。ヘルミナにとって、畑仕事というのは後者なのだろう。


「……そんなわけで、しばらくは私とシオンでやりましょう」

「はい、承知しました」

「がっはっはっ、シオンは素直で良い子だなぁ?」


 ザザがそう言うと、ヘルミナは居心地が悪くなってしまった。全員がいろいろとやる中、自分は森の巡回しかできない――しかし、畑仕事はやりたくない。そんな葛藤が、彼女の中で渦巻いているのだ。


「あ、あたしは、あたしにしか出来ないことをやります!!」

「あら、素敵ね。自分で考えて何かをやり遂げる人って、私は好きよ?」

「どうぞどうぞ、超絶に期待しておいてください! それではあたしはこれでッ!!」


 そう言うと、ヘルミナは手元のパンを3つ掴んで、その場から離れていった。


「……なぁ、リディアの嬢ちゃん。ヘルミナ、大丈夫なのかい?」

「ムダ飯喰らいは養えませんが、考えて動ける人なら問題ありません。結果がどうあれ、まずは動いてくれないと」

「がっはっはっ。いちいち指示を出さないといけないのも、出す側は大変だからな。特にこんな場所じゃあ、な」

「ええ。ひとりが2役も3役もこなさなければいけませんからね」


 リディアとザザの話を聞いて、ジジも頷いていた。しかし、シオンは不安な顔を浮かべ始める。


「……あの、リディア様。僕ももっと、自分で考えて動くべきですか?」

「あら、シオンはもう動いてくれているわよ? それにあなたには、とても大切なお願いを聞いてもらうんだから。そんなに不安に思わないで? ……って、ごめんね。私の言い方も、少し悪かったわ」

「いえ、そんなことはありません!」


 シオンの言葉に、リディアは微笑み返した。そんなふたりを見て、まわりのドワーフたちも優しい空気を感じた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ヘルミナは、パンを食べながら森に向かっていた。最近ではもう、この森が自分の居場所だと感じてしまっている。リディアの丸太小屋に寝泊まりはしているものの、日中を安心して過ごせるのは、ここが一択になっているのだ。


「はぁ……。それにしても、ドワーフが増えたからなぁ……」


 リディアの教育のおかげで、ヘルミナはドワーフ嫌いが治っていた。そもそも自分がドワーフに何かをされたことはなく、この感情は……同じエルフから教わっていたものなのだ。その教えが、リディアによって上書きされた――といえば良いのだろうか。ただ、それにしても……ドワーフが多すぎる。


「うーん、うーん……。誰か、あたしの集落から連れてこようかな……。ああ、でも戻りたくないしなぁ……」


 ヘルミナは森に入り、樹に登り、枝から枝に渡っていく。地面を見下ろし、樹々を見渡していく。いくらリディアとシオンが強いとはいえ、それよりも強い者が現れれば、こんな場所はあっさりと潰されてしまう。しかし自分が巡回を行うことで、それを避けることができるかもしれない――ヘルミナにはそんな自負があった。いつの間にか、この場所が思った以上に好きになっていたのだ。


「リディアさんのご飯は美味しいし……。でも、あれだなぁ。最近、果物を食べてないなぁ……」


 ヘルミナが今までに訪れた森では、少なからず何かしらの果物が実っていた。しかしこの森では一度も見掛けたことがなく、そもそも生えているところも見たことがなかった。


「……果物があれば、そのまま食べるもよし、ジャムにして食べるもよし……」


 ヘルミナは樹の枝に座ると、知恵を絞るように身体を後ろへ倒した。足だけを枝に掛け、髪の毛を下にゆらゆらとさせながら、自然と一体化して考えを巡らせる――


「……あ、そうだ。昔知り合った、フェルネちゃんを呼ぼう!」


 ヘルミナは足を伸ばして枝を離し、そのまま一回転して地面に下りた。できるだけ太い樹を探してから、そこに手を当て、静かに呪文を詠唱していく。周囲の空気が軽く揺れたあと、樹の後ろからひとりの女性が現れた。


「久し振り、フェルネちゃん! 元気にしてた?」


 フェルネは若葉色の長い髪と優しそうな瞳をしており、身に着けた服も同様だった。彼女は樹木の精霊であり、自然の守護者として、あちこちの森を移動することができるのだ。


「はわわ……。ヘルミナちゃん、ですか? お久し振りです……」

「うん! あたしたちが出会った森とは遠いけど、一瞬で来れるなんて凄いね!」

「いえいえ……。それで、急にどうしたんですか? それに、ここは――」

「あたし、ここに引っ越そうと思うの。だからフェルネちゃんも、一緒に引っ越さない?」

「えぇ……。ここは、どんな場所なんですか……?」

「今ね、新しい土地で街だか村を作り始めてるの。あたしを含めて、住んでるのは……11人なんだけど!」

「えぇ……」


 フェルネの静かな驚きを前に、ヘルミナの勧誘は続いていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ヘルミナがフェルネを説き伏せたあと、リディアとシオンは森に呼ばれた。フェルネから、移住に当たっての条件を提示されたのだ。


「はじめまして、フェルネさん。私はこの場所の主、リディア。こっちはシオンよ」

「フェルネさん、はじめまして。お会いできて嬉しいです」

「はわ……。すごい、ヘルミナちゃんよりしっかりしてる……」

「何ですって!?」


 ヘルミナのツッコミを手で制して、リディアは話を続ける。


「えっと、あなたは樹木の精霊……いわゆるドリアードよね。条件というのは、本体の樹の移動かしら?」

「はわ……。すごい、ドリアードのことを分かってくれてる……。そ、その通りです……! わたしの本体を、この森に移さないといけなくて……」

「でも、森から森への移動は……フェルネさん自身しかできないのよね? 私たち、遠くの森から本体の樹を運んでくるなんて、できないわよ?」

「あ……それは大丈夫です。この苗を、この森で育てて頂ければ……」


 そう言うと、フェルネはリディアに1本の苗を手渡した。


「……植えればいいの? それなら、フェルネさんでもできるんじゃないかしら」

「その土地に主がいるのであれば、その主にやってもらった方が……成長が早いんです。土地と契約を結ぶ、というようなイメージで……」

「なるほど、これもひとつの儀式なのね。それじゃ……少し移動しましょう。落ち着いた、静かな場所があるから」


 リディアを先頭に、森の奥まったところに場所を移す。エルフやドリアードはともかく、森に慣れていない者にとっては行きづらい場所だ。


「……この辺りでいいかしら。ここなら外敵が来ることも少ないでしょう」


 そう言って、リディアはぽっかりと空いたスペースに苗を植えた。するとその苗は突然伸び出し――枝を伸ばし、葉を茂らせ、一気に立派な樹へと育っていった。


「わぁ……。すごい、一気に育ちました! 主様は、素晴らしい主様なんですね!」

「はい、リディア様は素晴らしいお方です!」


 フェルネの言葉に、シオンが即座に返事をした。あまりの早さに、当のリディアも困惑してしまう。


「あはは……、そうなのかしら? ……あら、何か実がなっているわね」

「はい、これもドリアードの力でして……。お望みであれば、森のあちこちで果物を作れますが……」

「凄いわね。それじゃ、お願いできる?」

「は、はい……!」


 リディアとフェルネが話す中、そこにヘルミナが割って入る。


「どうですか、リディアさん! あたしも役に立つでしょう!?」

「そんなことを気にしていたの? ふふっ、頑張っている限り、あなたはもうここの住人よ?」

「えへへ、やったぁー!!」


 喜ぶヘルミナを横に、フェルネが不安そうに聞いてくる。


「あ、あの……。ヘルミナちゃんって、もしかしてここの住人ではなかったのですか……?」

「ちょ……ちが、違うよ!? 今のは、ちゃんと認められたって意味で……!!」

「そ、それはつまり、まだ住人ではなかった……、ということですよね……?」

「いや、そうじゃなくて……。えーん、リディアさん助けて!!」


 ヘルミナの救いを求める視線に、リディアは溜息をついた。


「まぁ、そんなことはいいじゃない。ヘルミナもフェルネさんも、ここの立派な住人よ」

「フォロー、してくれないんですか!?」

「それより、主様。わたしのことは、気軽にフェルネ……とお呼びください!」

「わかったわ、フェルネ。これからもよろしくね」

「あのぉー!? あたしのこと、無視しないでくれますかぁー!?」


 ヘルミナの嘆きの横で、リディアとフェルネは握手を交わした。シオンの目には、その光景がどこか神々しく映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ