04.人が増えたら
3週間後、ザザが他のドワーフを連れて戻ってきた。リディアとシオンは、丸太小屋の前で彼らと顔を合わせ、初めての挨拶を交わしていく。
「ジジです」
「ズズです」
「ゼゼです」
短い名乗りの連続に、リディアは思わず言葉を返す。
「……ちなみに、ゾゾさんもいらっしゃるの?」
「おっ、よく分かったな! ……って、普通はそう思うよな」
ザザがおかしそうに、豪快な声で笑った。ジジ、ズズ、ゼゼも同様に笑う。
「あいつは自由なヤツだからな。今はどこかを旅してると思うぞ?」
「ザザさんと同じようなものですね?」
「いや……うーん、どうかな……。そうなのかな……」
ザザは思わず、他の兄弟に目を移した。
「ザザ兄さんは、純粋に世界を見て回っているんです。ゾゾのやつは、自分の好きなものを探しに、という感じでして」
「ジジ兄さん、それだとザザ兄さんも同じに聞こえないか?」
「いやいや、ズズ兄さん。ザザ兄さんとゾゾは全然違うぞ?」
目の前の4人のドワーフを前に、リディアは少しずつ理解していった。ザザ、ジジ、ズズ、ゼゼ、ゾゾ……の順で、年齢順に並んでいるのだろう。初めて会ったのは豪快なザザではあるが、そういえば他の3人は印象が違うように見える。顔つきは似ているが、そもそも髪の色がザザよりも赤黒いのだ。
「……そうそう。儂とこいつらは、腹違いの兄弟なんだ。儂よりも育ちが良いだろう?」
「え、ええ。物腰柔らか、って感じですね」
「その分、鍛冶が得意なんだ。儂はあまり学んでこなかったから、何かあればこいつらに聞くといい」
「はい。みなさん、よろしくお願いしますね」
リディアの言葉に、3人は気持ち良く頷いた。
「ワシは武器の製造が得意です」
「ワシは防具の製造が得意です」
「ワシは道具の製造が得意です」
「――とまぁ、得意分野が違うんだ。生活鍛冶や建築はひと通り覚えているから、気軽に相談してくれな」
「わかりました。ところで……、後ろの方々は?」
ザザたち4人の後ろには、他のドワーフが5人立っている。今までのところ、それには誰も言及していなかった。
「ああ、こいつらはジジたちの弟分のドワーフなんだ。3人だけじゃ、人手が足りないだろう? だから、酒をエサに連れてきたんだよ」
「確かに……。結構な量、お酒を持っていきましたからね……」
その後、弟分の5人も順番に挨拶をしていった。専門分野はジジたちほど持っていないが、全般的に何でもこなすようだ。
「ちなみに、ザザさんは旅を続けるんですよね?」
「ああ。ただ、兄弟がここに暮らすからな。ちょくちょく戻ってくることにすらぁ」
ザザの兄弟が3人、その弟分が5人。つまりドワーフが8人、この場所に移住してくることになる。
「リディア様、賑やかになりますね」
「そうね。……っていうか、まずは家を建てないと。鍛冶場は、そのあとでいいでしょう?」
「おう、そうだな。家も鍛冶場も、こいつらに作らせればいいから――まずはその材料と、家を建てる場所が欲しいな」
「そうですね……。家と鍛冶場は近い方が良いだろうし、水場も近い方が良いですよね? そうすると、川から水を引ける……向こうの方かしら」
リディアが考えながらその場所を指差すと、ドワーフたちも頷いた。
「そうだなぁ……。いずれは生活用水も引かにゃアカンだろうし、水源が近い方がいいな。あとは……この場所を村なり街なりにするなら、計画的に進めなければダメだろう」
「そういうのに詳しい方は、いらっしゃいます?」
リディアの言葉に、全員が首を横に振った。1軒の家を単純に建てるのと、複数の家を計画的に建てるのとでは、使う知識は別物なのだ。リディアは少し考えてから、言葉を続ける。
「……仕方ありませんね。全体的な計画は、またいずれということで」
「ああ、それがいいだろうな。それじゃ、建築はできるところから進めておくよ」
「わかりました。ところでザザさん、しばらくこの場所に滞在なさいます?」
「ああ。こいつらの家ができるまでは、付き合うことにするよ」
「ザザ兄さん、よろしくな」
ジジの言葉に、ズズとゼゼも同じく声を掛ける。他の弟分5人も同様だ。
「ではみなさん、今日はお疲れでしょう。丸太小屋の中は手狭なので、屋外で食事会にしましょう」
「お、リディアの嬢ちゃん、気が利くな! ……そういえば、あのエルフ――ヘルミナはどうしたんだ?」
「今は森の巡回に行ってますよ。……ああ、ちょうど帰ってきましたね」
リディアが遠くの人影を見つけて手を振ると、向こうも手を振ってきた。そしてそのまま近付いてくる――……が、途中から猛ダッシュで走ってきた。
「……あん? やたらと急いで戻ってくるな?」
「リディア様。ヘルミナさん、矢を抜いてませんか?」
「あら、本当ね。……もしかして?」
ヘルミナはそのまま矢を手に取り、弓につがえる。それを見たリディアは、シオンに視線を送った。シオンはヘルミナの元に向かい、右手で彼女の首を押さえて、1回転してから地面に組み伏せた。
「ちょっと……! シオン君、何をするの!?」
「それはこちらの台詞です、ヘルミナさん。リディア様のお客様に、危害を加えるつもりですか?」
「え? いやいや、あたしはみんなが外に出てるから、急いで駆け寄っていただけで……」
「それなら、何で矢をつがえていたんですか?」
シオンの指摘に、ヘルミナは顔を青くする。
「……あれ? いやいや、これは身体が勝手に……」
そんなことを言い始めるヘルミナの元に、リディアが歩いてくる。
「……ふぅ。心と身体は別物なのね。意思に反してあんな行動をするなんて……」
「か、駆け寄ったのは友好の証ですよ!?」
「でも、恐怖を与える行動ではダメなの。これはもう、再教育するしかないわね」
「そうですね。ヘルミナさん、まっとうな性格になってください」
「そんな、シオン君まで!? ちょっと、ザザさん! 何とか言ってください!」
「何とか」
「今はそんなボケ、披露しないでいいんですよッ!?」
そんな賑やかな会話をしたあと、リディアはドワーフたちに向き直って言った。
「申し訳ありません、この子はドワーフが苦手のようで。私が責任を持って教育しておきますので、今回はお許しください」
彼女の言葉に、ドワーフたちは頷いた。いわゆる父祖の代からの因縁があるのだ。その辺りは承知しているのだろう。
「ヘルミナさんも……ドワーフのみなさんのように、大人になってください」
「ぐぬぅ……シオン君に言われると無駄に傷つく……。いや、ザザさんだけなら大丈夫だったんですよ!? でも9人もいると、身体がつい……!!」
「ええ、わかるわよ。大変よね、苦しいわよね」
「そ、そうなんですよ! さすがリディアさん、あたしを分かってくれるのはあなただけ……!!」
「だからもう、今後はこうならないように――次は最後まで、しっかりと教育してあげるからね?」
「……ひぃん」
話が終わると、リディアは両手をぱんっと1回鳴らして、注目を集めた。
「それでは食事会と参りましょう。ヘルミナは罰よ。食事抜きか、逆さ吊りかを選びなさい」
「いやいや……。リディアの嬢ちゃん、そこまでしなくても……」
「うちの教育方針なので、お気にせず」
「ああん……。えぇっと……食事抜きは嫌なので、逆さ吊りでお願いします……」
その後、食事会が始まったが――逆さ吊りになったヘルミナは、当然ながら……ろくに食事をとることができなかった。話が違うと悔し涙を流す彼女を救ったのは、ドワーフたちからの再度の許しだった。
「……ああッ! ドワーフって優しい……ッ!!」
「はぁ……。少し食べたら、お替わりの準備を手伝うのよ?」
「もちろんですッ! ヘルミナ、良い子に生まれ変わりましたッ!!」
「……はぁ」
リディアの溜息をよそに、食事会は続いていった。
問題児はいるものの、これでこの場所の人口も11人。住人の関係を構築しつつ、さらに人を集めていかなければ――リディアはそんな思いを胸に、ヘルミナの首根っこを掴んでキッチンに向かうのだった。




