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22.懐かしい顔、怖い顔

 ジジの助力もあり、シオンの剣には氷属性が宿った。普通に振るえば刃に冷気が伴うだけだが、使い方次第では特殊な技が使えるようになるという。シオンは早速レンザンの元へ向かい、教えを受けていた。そんな彼らを、リディアは少し離れた場所から見守っている。


「――うん? また、何か来たな」


 ふと、レンザンがそんなことを言った。先日の天使種族の件もあり、リディアはついつい身構えてしまう。


「また、敵でしょうか」

「ふむ……。おそらく、敵ではなかろうな。もし敵にまわったら……厄介な者ではありそうだ」


 そう言って、レンザンはシオンとの稽古を再開した。リディアの心中は穏やかではなかったが、レンザンがそう言うのであれば、ひとりで慌てても仕方がない。できるだけ気配を察知しようとしたが、リディアには何も感じなかった。


 その後、時間は過ぎていき――2時間ほどの稽古が終わる頃、野太い声が聞こえてきた。


「おーい!」

「……あ。ザザさんじゃないですか!」

「リディアの嬢ちゃん、久し振りだな。レンザンの旦那もシオンも、元気なようで何よりだ」


 ザザはこの場の全員と挨拶を交わした。彼が戻ってくるのは1年ぶりのことで、リディアもずっと心配していたのだ。


「この前、ゾゾさんも移住してきたんですよ。あとで、ぜひ会ってくださいね」

「ああ、ようやく来たんだな。迷惑は掛けていないか?」

「大丈夫ですよ。この前は、素敵な発明品を頂きましたし」

「それは何よりだ。それで、嬢ちゃん。念願の人材を見つけてきたぞ!」

「え? 本当ですか!?」


 ザザが外の世界を旅するに当たって、リディアはこの街への移住者を募っていた。それと同時に、転移魔法の使い手を特に探していたのだ。


 元々は鉱山の街ベルデとの往復を考えていたのだが、今では近場に鉱山が見つかり、そちらを主に使用している。ただ、今後オルトゥスから離れた場所を行き来するには、やはりそういった特殊な力が必要なのだ。


「今は森の外で待ってもらっているんだ。呼んじまってもいいか?」

「せっかく来て頂いたのに、森の外だなんて……。早く呼んでください!」

「承知したぜ!」


 ザザは胸元から笛を出すと、それを力強く吹いた。空気が抜けるようなその音は、遥か彼方へ消えていく。


「……え? 今の、合図ですか?」

「ああ。まぁ、5分くらいで着くだろう」


 ザザの言葉の通り、しばらくすると宙から巨大なものが降りてきた。大きな翼と尾を持つ、四足歩行の……5メートルはあろうかというドラゴン。翼を広げれば、さらに大きく見える。リディアも直接見るのは初めてだった。


「――ほう。火竜か」

「ふん、貴様は……火トカゲか」


 レンザンの言葉に、ドラゴンはすぐに反応した。最初の挨拶としては不穏なものだ。


「初めまして。私はこの場所――オルトゥスの主、リディアと申します」

「吾輩はファイアドラゴンのヴェルガである。今後、よしなにな」

「はい、お願いします。……それで、ザザさん? ヴェルガさんとはどういう経緯で?」


 聞きたいことは山ほどあるが、まずは出会いを聞いてみる。


「ああ。北の山脈の方で、道に迷ってしまってな。それで、深い霧に覆われた場所をずっと歩き続けて、偶然に出会ったんだよ」

「人里離れた場所で……って感じですね。北というと、天使種族の里があったと思いますが――」

「それよりも、もっと北だ。吾輩の巣は、あいつらでも近寄らなかったからな」

「それはそれは、遠いところから……。ちなみに、ここまで来て頂けた理由をお伺いしても?」


 ドラゴンは稀少であり、生物の格としては高位に君臨する。そのため、オルトゥスまで来た理由は当然のように気になる。


「ザザがな、酒を持っていたのだ。吾輩、それをとても気に入ってな!」

「……ただの酔っ払いか」

「何だと……!?」


 レンザンの言葉に、ヴェルガが苛立った。これは恐らく――エルフとドワーフのように、種族間での問題があるのだろう。


「レンザンさん!?」

「おっと、すまんな。しばらく黙っておくとしよう」

「この場からいなくなっても良いのだがな……ッ!」


 しかしその言葉は受け流し、レンザンは近くの地面に腰を下ろした。


「えぇっと……それで、お酒、でしたっけ?」

「うむ。あの甘さに、あのコク……。ザザと別れて、それっきり飲めぬのは寂しかったからな。だから、この街に来ることにしたのだ」

「あー……。転移魔法を持っているから勧誘した、のではなくて、お酒で話が進んじゃいましたか……」

「そうなんだよ……。世の中、わからないものだよなぁ」


 ザザはお茶目な笑顔を見せた。しかし理由はともかく、実際に連れてきてもらえたのはありがたい。


「オルトゥスの人口は、ようやく1000人を超えたところなんです。ぜひ、ヴェルガさんも手伝って頂けませんか?」

「良かろう! 但し、酒とツマミは用意するのだぞ!」

「それがあれば、無制限に手伝って頂けますか?」

「……善処はする」


 一気にトーンダウンするヴェルガ。よくよく考えれば当然のことで、やるべき仕事が何も伝わっていないのだ。


「私も、話を急ぎ過ぎてしまいましたね。しばらくはこの街に滞在して、少しずつ馴染んでください」

「おう、そうしよう。それでは今日は、吾輩の歓迎会だな。酒を大量に用意するといい」

「そうは言っても、私がひとりで造っていますからね……。ほどほどのところで、お願いしますよ?」

「それも然り。突然にすまないな!」

「あと、歓迎会は明日に行いましょう。ヴェルガさんの身体は大きいから――ここの住人にちゃんとお披露目しないと、驚いてしまいますから」

「うむうむ、そうであろう!!」

「ですので、今日のところはお姿を隠しておいてもらえますか? ちなみに、人の姿になるということは……?」

「はっはっはっ! 吾輩はこの姿が誇りなのだ。そんな魔法、覚えておらぬ!」

「あ――……そうなんですね?」


 ドラゴンともなれば、変化の魔法は覚えているもの……と、リディアは考えていた。しかしそれができないとなると、さて今晩はどうしたものか。


「そうは言っても、既にここまで飛んできたからな。そろそろ、噂にはなっているんじゃないか?」

「……確かに。ザザさんも、ドラゴンを連れてきた――って、最初に言ってくれれば良かったのに……」

「すまない……。少しくらい、格好を付けたかったんだ……」

「まぁ、過ぎてしまったものは仕方がなかろう! 吾輩は……そうだな、今日はザザの家に泊まろう。そこまでの道中で、街の連中に挨拶をしてくれるわ!」

「はぁ……。ヴェルガさんって、案外コミュニケーションが上手そうですね……」


 そう言うリディアに、ザザがそっと耳打ちをする。


「ヴェルガの旦那は、ずっとひとりだったんだよ。だから、どこか人がたくさんいる場所に行きたかったそうでな……」

「あら、可愛いところがあるんですね。それなら大切にしてあげましょう♪」

「お嬢ちゃん……。旦那のことを、キングみたいな感じだと思ってないか?」


 確かに――とリディアは思ったが、人外の姿をしていれば、それはある種の宿命だ。逆に言えば、マスコットの立場を得て、すんなりと受け入れられるかもしれない。


「ただ……立派な身体、すぎるんですよね……」

「おう? 吾輩の魅力が早速伝わっているのか?」


 その言葉に、一番微妙な顔をしたのはレンザンだった。リディアは肩透かしを食らった感じになってしまい、すぐに言葉を続けることができなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 リディアの家の、入り口の前。そこの地面が突然光り始め、その一瞬後、多くの人影がそこに現れた。短い距離ではあるが、ヴェルガが転移魔法を使ったのだ。


「へぇ……。これが転移魔法なんですね」

「ふわっとした浮遊感があって、一瞬で移動……。ヴェルガさん、凄いです!」


 リディアとシオンが感心する中、ヴェルガはとても上機嫌だった。それを見て、リディアはついつい笑ってしまう。


「さて、それではお酒を持ってきますね。とりあえず、あるだけ持ってきましょう」

「お嬢ちゃん、申し訳ないなぁ」

「いえいえ! ザザさんもたくさん飲んでくださいね。ヴェルガさんを連れてきたこと、感謝していますので。……あとは、ゾゾさんの歓迎会もやっちゃってください」

「ああ、そうさせてもらうよ」


 大量の酒を渡すと、ザザたちは転移魔法で消えていった。転移する直前、ドワーフの家の方角に光が見えた。転移元と転移先は、一時的に両方が光るのだろう――と、リディアはそんなことを考えていた。


「……はぁ。何とも能天気な火竜がいたものよ」

「ふふっ、私は嫌いではないですよ? レンザンさんも……ヴェルガさん本人のことは、知らないんですよね?」

「そうだな……。我らは、エルフとドワーフのようなものなんだが――向こうが何も考えていないとなれば、張り合う気にもなれんわい」

「張り合わないで、仲良くしましょう?」

「ははっ、分かった分かった。仲違いの姿なんぞ、子供に見せるものではないからな」


 そう言うと、レンザンはすぐ側のシオンの頭を撫でた。シオンは珍しく、文句を言いたそうな顔をしていた。

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