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21.失意と可能性

 翌日、戦いで亡くなったナロウの葬儀が行われた。森の一角を墓地にして、遺体を土に埋葬する。その前で、エルフたちは一族に伝わる祈りを捧げていた。


「……死んだら、ああするのですか?」

「ええ。シオンは初めてだったわね」


 思い返せば、オルトゥスで誰かが死んだのはこれが初めてだ。集まる人々には長命種も多く、移住してきたのも若者が多かった。幸いなことに、ここで生まれた子供も死産になったことはない。


「僕が今まで殺してきた人間は、どうなのでしょう」

「気にしないでいいわ。あいつらは、別物だから」

「……僕が死んだら、リディア様はああしてくれますか?」

「考えたくはないわね。でも……もちろん、見送るわよ」


 この場に集まっているのは、エルフと古参の移住者が多かった。ドワーフもそれなりの人数、集まってくれている。


「……それじゃ、そろそろ戻りましょうか」

「はい」


 リディアはシオンの手をそっと握り、彼女たちの家に歩き始めた。シオンもこの3年で身長が伸び、身体もしっかりしてきた。そんな時間を感じながら、リディアはいろいろな考えを巡らせていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 家に着き、食事をとったあと――リディアは庭仕事をしていた。死霊術でスケルトンを呼び出し、草むしりをする。そのスケルトンを見ながら、さすがにナロウは蘇らせたくないな……と考えていた。そんな中、一緒に草むしりをしていたシオンが、庭に入ってきた人影に反応する。


「あ、レンザン先生」

「やぁ、シオン。……草むしりかい。スケルトンは――やはり、慣れぬものだな」

「あら、可愛い子たちですわよ? ……この子たちは、元々この地に眠っていたんです」

「見知らぬ骸は、完全に他人だからな。使うことに躊躇はなかろう」

「いざとなれば、私は全てを使いますよ?」


 リディアの言葉に、レンザンは少しだけ笑った。


「今日はな、昨日の礼に来たんだ。おかげで、右腕の調子も以前より良いんだよ」

「え? そうなんですか?」

「ああ。我の右腕は……昔、見せただろう? 古傷があって、上手く動かせなかったんだ」

「その割に、お強かったですけど……」

「まぁ、そこそこはな。今はもう、昔のように動かせるようになったぞ」

「それは何とも、不幸中の幸いですね……」


 レンザンは懐から、美しい青色の宝石を取り出した。それをそっとリディアに渡す。


「そんなわけで、これは礼だ。シオンの武器を作っているんだろう? そいつに使ってやると良い」

「……これは、氷の魔石ですか?」

「今後は少しでも、戦力があった方が良いからな。お嬢ちゃんの判断で、他のことに使っても構わないぞ?」


 リディアはシオンを見た。彼の髪は薄紫色であり……何か属性をイメージするなら、氷や水が自然と浮かぶ。


「そうですね。こんな貴重なものを、ありがとうございます」

「何の何の。……さて、それでは我はエルフたちのところに行くかな。訓練をしたいと言って、聞かんのだよ」


 そう言うと、レンザンは去っていった。リディアの手元では、氷の魔石がひとつ……静かに煌めいていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日、リディアの家にジジとゾゾがやって来た。


「リディア姐さん、こんにちは。お邪魔しますよ」

「ヘイヘイ! リディアちゃん、元気ぃ~?」

「ジジさん、こんにちは。ゾゾさんは……相変わらず、ですね……」

「ウェ~イ!」


 ゾゾはドワーフの兄弟の中で、一番最後にオルトゥスに移住してきた人物だ。他の兄弟よりも肌の色が黒く、断トツでおかしなノリを出している。


「まったく、南方の変な文化に影響されおって……」

「ふふっ。もう、何かを作ってくださっているんですよね?」

「もっちのロンロン! これがワッチィの新発明――蚊取り閃光!!」

「……は?」

「蚊に刺されるのは嫌だろう? 蚊が近付くと、こいつが光を放つんだ。それで撃退するって寸法よォ!!」


 試しに外に出て、しばらく待つ。蚊が近くまで飛んでくると、そのまま――眩い閃光が周囲を照らした。しかし、蚊はそのままどこかに飛んでいく。


「……ありゃ? 作ってるときは、上手くいったんだけどなぁ?」

「はぁ……。こんなの、ずっと外に置いてたら光りっ放しじゃねぇか……。しかも殺せてないって、どんなオチだよ……」

「確かに、エネルギーが無駄に使われるだけですね……。これって、魔導具の一種なんですよね?」

「もちろんだ! ただ、エネルギーは魔石の粉でもいけるから、エコなこと半端ないぜぇ?」

「まぁ、粉で良いのであれば、安くは済むんですけど――」


 ……ただ、しっかり殺せないのであれば、使いどころがない。それこそ、蚊なんてそこら中にいるのだし……。


「ちなみに、他の虫には反応するんですか?」

「ああ、対象にするものを入れるスペースがあってな……。蚊を殺したいなら、そこに蚊を入れれば良いんだ。でもよぉ、ひとつにつき1種類しか登録はできないんだな、これが!」

「つまり、蚊なら蚊にしか反応しない。ハエならハエにしか反応しない……ということですね?」

「おうとも!」


 ゾゾは特に悪びれもせず、自信たっぷりに言い放った。ジジは呆れ顔で見ていたが、リディアは――もしかして、ヒルの魔物に転用できないか……と考え始めていた。


「少し使いどころがありそうなので、これは譲って頂けますか?」

「お、リディアちゃんはお目が高いね! ワッチィの兄どもとは全然違うッ!!」

「あはは……」

「まぁ、そんな兄からはこれだ。シオンの剣が完成したぞ」

「わぁ……。素晴らしいですね!」


 シオンは剣を受け取ると、ジジに感謝を伝えた。受け取った剣は、短剣よりも少し長く、長剣ほどではない……そんな感じだった。


「良かったわね、シオン」

「はい! ……この剣に、レンザン先生からもらったものを組み合わせるのですか?」


 シオンがリディアに聞くと、ジジがそこに割って入る。


「うん? このあと、何かするんですか?」

「レンザンさんから氷の魔石をもらったんです。だから、この剣に使ってはどうかと言われまして」

「うはぁー、それだったら先に言ってもらいたかったですね! ただまぁ、柄の方を細工すれば終わりますからね、ワシの方でやっちまいますよ」

「ありがとうございます。すぐにできますか?」

「ええ、もちろんです。それじゃ、シオン。鍛冶場まで付き合ってくれるか?」

「シオン、行ってきなさい」

「はい!」


 シオンはジジと一緒に、鍛冶場に向かった。リディアは一息ついてから……ゾゾが残っていることにようやく気付く。


「……ゾゾさんは、一緒に行かなくても良いんですか?」

「ああ、リディアちゃんともう少し話したくてさ! ワッチィの魔導具のこと、理解してくれたしィ!」

「あはは……。ものは使いようですので、まわりを気にせず、いろいろなものを作ってください」

「嬉しいねぇ! というわけで、何か珍しい素材をもらえないかな!?」


 魔導具というものは、金属以外にも様々なものを使用する。だからこそ、素材次第では無限の可能性を秘めているのだ。


「そうですねぇ……。最近は少し余裕があったので、ブラガたちからいろいろ買っていたのですが――」

「全部くれんかなぁ?」

「さすがに、それはダメですよ!」


 他のドワーフとは違い、ゾゾはぐいぐいと話を続けていく。いろいろな個性が集まるオルトゥスではあったが、ゾゾはかなり異質な存在――……それが不安でもあり、頼もしくもあり。リディアは程々に貴重で、自分で使わなそうなものをゾゾに渡すことにした。

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