↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/30

23.西の森の結界

 リディアはゾゾの作った蚊取り閃光を眺めながら、工房で考え事をしていた。以前からたまに耳に入ってくる、ヒルの魔物。リディアは実際に見たことは無いが、ある程度の推測はできた。オルトゥスにとっては単純に害悪であり、リディアにとっても同じこと。そのため、魔物の死体を確保すれば、蚊取り閃光で危険を察知できると考えているのだが――


 ……しかし先日目撃された魔物は、レンザンによって焼き殺されてしまった。その判断は正しかったと思うが、次の機会を考えると悩ましい部分もあった。そもそも、その機会が訪れるということは、誰かが襲われるということだ。しかし、そうならないと魔物の死体は手に入らない。


「……新しい結界は、張れないし……」


 リディアは魔法の中でも、結界魔法を得意としていた。全ての往来を禁止する結界は既に扱えるが、特定の何かだけを対象にする結界は難しい。オルトゥスはようやく街として機能し始めたのだから、今はこのままにしなければいけない。


 ――人間の国に通じる、西の森……以外は。


「散歩ついでに、様子を見てこようかしら」


 リディアは気分転換を兼ねて、森に向かうことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 西の森に着くと、ドリアードのひとりがいた。3年前にフェルネが他の土地から呼んだひとりで、今ではすっかりこの土地に馴染んでいる。


「こんにちは。調子はどう?」

「リディア様、ご機嫌麗しゅう。この辺りは誰も来ないので、とても平和で素敵ですわ」

「それは良いことね。でも、誰もいない場所は子供が好きだから。見つけたら、遊びに来ないように注意してね?」

「わかっておりますわ!」


 そのまま森の中に入っていくと、徐々に果物が見えなくなっていった。そして森の出口まで……50メートルほどのところで、リディアは足を止めた。ここには彼女が張った結界があり、人間の国へ進めないようになっているのだ。


「……うん、問題ないわね。ここさえ塞いでおけば、西との往来はできないから――」


 リディアはそれだけ確認すると、来た道を引き返していった。



「ぼよんっ、ぼよんっ」

「ふははは! やるではないか、スライム!!」


 広場に戻ると、キングとヴェルガがいた。辺りには子供もおり、一緒になって遊んでいるようだ。


「ヴェルガさん、人気者ですね?」


 身体が大きく、大人は近寄りがたいが――子供にとっては問題ない。ヴェルガもできるだけ頭を下げて、威圧感を出さないように注意をしている。


「吾輩に掛かればこんなものよ。この地の子らを蹂躙してくれるわッ!!」

「ちょっと意味が違うと思いますが、仲が良いことは素敵ですね」


 その言葉に、キングもぼよんぼよんと反応する。子供たちも一緒になって、その動きを真似する。


「今日は、ヴェルガさんの歓迎会を行いますので。……ただ、食べ物はお腹いっぱいご用意できないんですよね……」


 何といっても、ヴェルガの身体は巨大だ。その胃袋を満たす量の食べ物は、どうしても用意することはできない。


「安心するのだ。元々、吾輩は小食だからな」

「あら、それは意外」

「……吾輩の巣の周りは、餌場があまり無くてな。それに、空気中の魔力を食せば問題ないのだ」

「へぇ、それは便利ですね……」

「代わりに、酒だ。酒をたくさん用意するのだぞ? 昨日の分は、全てドワーフどもと飲んでしまったからな!」

「あの量を……ですか? はぁ、少しランクの下がるものを、大量に造っておきます」

「いや、吾輩の歓迎会ぞ? 昨日の美味い酒を――」

「無理を言わないでください♪」


 リディアはピシャリとその場を締め、彼女の家に戻っていった。キングはヴェルガの足元に寄り添い、そっと静かに慰めていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 リディアは工房に向かい、大量の酒を造った。シオンとデュランに搬出を手伝ってもらい、夕方には歓迎会の準備が整った。多くのテーブルが並び、その上には料理が乗せられている。椅子は用意しておらず、立食パーティ……というより、食べ放題の露店が並んでいるような状態だ。噂を聞きつけた住人たちも、徐々に広場に集まってきている。


「……こう見ると、壮観ね」

「オルトゥスができて以来、祭りなんてのはやってないだろう?」


 いつの間にか横にいたデュランが、そんなことを言った。リディアはその言葉を噛みしめてから、しみじみと言葉を続ける。


「そうね……。定期的に、お祭りもするようにしようか?」

「普通なら、収穫祭をやると思うんだけどな」

「デュランが頑張ってくれたから、収穫は毎日だったものね」

「リディアの農薬とか、栄養剤があったればこそ……なんだけどな?」


 デュランはおかしそうに笑った。自分のことを棚に上げて――……それはデュランが、ずっと言いたい言葉でもあった。


「リディア様の挨拶は、無いんですか?」


 ふと、シオンがそんなことを言ってきた。確かに挨拶が無ければ、集まった人も何をして良いのか分からない。リディアは広場の噴水の縁、少し高いところに上がって、全員の注目を集めた。本日の主役であるヴェルガは、のっしのっしとリディアの横に移動する。


「――みなさん。今日はお集まり頂き、ありがとうございます。今回は……こちらのファイアドラゴン、ヴェルガさんの歓迎会になります。本来であれば、どなたが移住してきても歓迎会は行いたいのですが――」


 そこまで言うと、リディアはヴェルガの方を見た。


「……ヴェルガさんは、強面でしょう? だから今回は特別に、懇親会の意味での開催となりました」


 住人たちから笑いが零れる。ただ、ヴェルガだけは微妙な顔をしていた。


「まぁ……、困ったことは吾輩に任せておくがいい。しかし面倒事は、火トカゲのレンザンに持っていくのだぞ?」


 ヴェルガも笑いを取ったが、住人たちの中から凄まじい圧を感じた。恐らくは、その辺りにレンザンがいるのだろう。


「まぁ、適材適所ですね。それではみなさん、食事とお酒を楽しんでください。子供のみんなは、ジュースをたくさん飲んでね」

「はーいっ!!」

「わーい、ジュースだぁ~っ!!」


 リディアが噴水の縁から下りると、顔をキラキラさせたシオンが彼女を迎えた。ちなみにヘルミナは、少し離れたところで早速食べまくっている。さすがに人数が多いので、誰がどこに――というのは把握しきれない。しかし見知った顔は、どこかしらにはいるだろう。


「まぁ……ベロニカは、こういうのは苦手そうだけど」


 全員が全員、祭りが好きなわけではない。あとで何か差し入れでもしようかな……と、リディアは思った。人口が1000人を超えた今、全ての人を満足させるのは難しい。それならば、きめ細かなフォローをしていけば良いだけだ。


 キングはいつも通りぼよんぼよんと揺れており、その横ではシャロンが綺麗な歌声を披露している。ドワーフたちは賑やかに酒を囲み、エルフたちは楽しそうに食事を囲んでいる。いつの間にか、獣人たちも――猫、犬、羊、牛……と、様々な種族がこの地に集まって来ている。レンザンはそんな彼らの中心におり、良い話し相手になっている。アルマは珍しく、デュランと話をしている。


 人数はまだ、街としては多くはない。ただ、それにしては様々な人たちが集まってきたものだ。


「――この場所は、守っていかないと」


 リディアは暗くなっていく空を見上げながら、ひとりで……そんなことを、決心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。