表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

11.魔法の糸から紡ぐ縁

「――うおっ!?」


 デュランがリディアの丸太小屋を訪ねると、扉は開いており、乳白色の何かがそこに詰まっていた。触れてみるとひんやりとしており、農作業で疲れた身体に染み入っていく。


「おぉい、リディア!? 大丈夫かっ!?」


 何度か大きく声を掛けると、その乳白色の何かは奥へ引っ込んでいった。デュランは不思議に思いながら、そのまま奥へ進んでいく。


「あら、デュラン。驚かせてしまったようね」

「ああ……。今のは一体……って、スライムぅう!?」


 居間にいるリディアの横で、大きなスライムがぼよんぼよんとリズムを取っている。デュランはいろいろなスライムを見たことはあったが、それにしてもここまで巨大なものは初めてだ。


「この子はね、浄化スライムの王種よ。浄化キングスライムって言えば良いのかしら」

「へぇ……? それは高く売れそうだな……」

「ぼよぼよーっ!!」

「うお!? こ、攻撃するなよ!? もしかして、言葉が分かるのか!?」


 デュランに圧し掛かっていく浄化スライムを見て、リディアは楽しそうに笑う。


「ええ、可愛いでしょう? キングって呼ぶと喜ぶから、そう呼んであげてね」

「は、はぁ……。よし、よろしくな……キング」

「ぼよん、ぼよんっ」

「……よ、喜んでるのか……?」

「とってもね♪ それじゃキング、少し向こうに行ってもらえる?」

「ぼよんぼよんっ」


 キングはリズムを刻みながら、外に出て行った。デュランはそれを、信じられないような顔で見送る。


「えっと……キングは、どこから来たんだ?」

「私の錬金術で作ったのよ。普通の浄化スライムを作ったつもりだったんだけど……何だか、王種になってしまって。運が良かったわね」

「……ああ、そうか。ドワーフの家で悪臭が減ったのは、キングのおかげだったのか」

「効果てきめんでしょう? キングは普通の浄化スライムを増やせるから、どれだけ家が増えても安心よ」

「なるほどなぁ……」


 デュランが頷いていると、リディアは椅子に座るように促した。彼女はお茶とお菓子を用意して、そのまま話を続ける。


「それで、今日は何か用?」

「ああ、ちょっと相談があってな。俺って今、農作業とか果物の運搬をしているだろう?」

「ええ、助かっているわ。いつもありがとうね」

「おう。それでなんだが……力仕事が多いからさ。どうしても服がダメになっちまうんだ。さっきも腕のところが破けちまってさ」


 デュランが指で示したところを見てみると、確かに大きく破けている。ただ、綺麗な糸で簡単に縫われているようだった。


「確かに、食糧と住居は進めてきたけど……。服の方は、何も進めていなかったわね。ちなみに、誰に直してもらったの?」

「ちょうど破いたときに、フェルネがいてさ。大慌てで糸を準備してきて、すぐに縫ってくれたんだ」

「あら、フェルネもなかなかやるじゃない」

「ああ、器用なもんだよな」

「……そういう意味ではなかったんだけど、確かに器用なものね」


 デュランは首をかしげるが、リディアは綺麗な糸に見入っている。


「少しだけ、魔力を感じるわね。この糸、どこで手に入れたのかしら」

「さぁ……。いつもあそこの樹にいるから、聞いてみれば良いんじゃないか?」

「ふふっ、ずっといるわけでもないんだけどね。それじゃ、あとで聞いてみるわ。服の方も、どうにかしないとね」

「普通なら交易でどうにかしそうなところだが、この場所はどこから見ても辺境だからな……」

「そうなのよね。……ところで、この場所はオルトゥスって名付けたの。名前が浸透するまで、積極的に使ってね」

「オルトゥス……か。うん、良い名前じゃないか」


 デュランの言葉に、リディアは笑顔で頷いた。


「それで――……まぁ、交易ね。これはしばらく無理だろうから、自分たちで何とかしていかないと」

「俺には伝手が無いからな。その辺りはリディアに任せるぞ」

「承知したわ。早く快適な場所にしないとね。せっかく、デュランも住んでくれるようになったんだし」

「お、俺は……同胞を待つのに、ちょうどいい場所だったから……」


 デュランは照れながら言うが、すぐに真面目な表情に切り替わる。


「……そういえば、シオンは西に向かったんだろう? この前頼んでおいたこと、伝えてくれたか?」

「ええ。猫獣人語で、東に逃げるように――あなたの名前入りで、メッセージを残すように指示をしたわ。私には文字に見えなかったけど……あれで伝わるものなのね」

「ある意味、暗号でもあるからな。他の連中には分からなくても、猫獣人にはすぐに分かるのさ」

「便利なものね。――……生き別れになった妹さん、ここまで逃げてくれると良いわね」

「ああ……。俺も向こうでは、危険な目にばかり遭ったからな……」


 リディアはその言葉を噛みしめるように頷きながら、静かにお茶に口を付けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 デュランがドワーフの家に帰ったあと、リディアはフェルネを探すことにした。畑の近くの樹には当然のようにいなかったので、散歩を兼ねながら森に向かう。森に着いてから何回か声を掛けると、フェルネはひょっこりと樹の後ろから現れた。


「主様、お呼びでしょうか……?」

「こんにちは、フェルネ。さっきデュランがうちに来て、服の相談を受けたの。そのとき、あなたが使ったっていう糸を見たんだけど……あれはどうやって手に入れたの?」

「ああ……。あれは、わたしのお友達にもらったものなんです……」

「ふーん? お友達っていうのは、やっぱりドリアードなの?」

「あ、いえ……。主様は、アラクネってご存じですか……?」

「えぇっと、下半身が蜘蛛の種族よね?」


 上半身は人型の女性で、下半身は虫の蜘蛛型。8本の足が特徴的な……人間の国では魔物として扱われていた種族だ。


「はい……! わたし、趣味で刺繍をしておりまして、糸を分けてもらっているんです……」

「あら、素敵な趣味ね。私も昔はやっていたんだけど、最近はご無沙汰だわ」

「それなら、今度一緒にやってみませんか……!?」

「ありがとう。今はオルトゥスの開拓があるから、それが落ち着いてからね。楽しみにしているわよ」

「はい……っ!」


 リディアの言葉に、フェルネは嬉しそうに返事をした。話を聞いていくと、同じ趣味の仲間を増やしたかったそうだ。ヘルミナにも勧めたらしいのだが、まるで興味を示さなかったらしい。


「それで、オルトゥスにも服を作れる人材が欲しいのよ。そのお友達ができるのは、糸の製作だけ?」

「あ……。糸も布も服飾も、全部できるんです……。アシスタントの妖精も5人雇っていて……」

「……本格的ね。むしろ逆に、こんなところに来てくれるかしら……」

「さぁ、どうでしょう……。わたしの引っ越し祝いに、この森に向かっているそうなんです……。もしよろしければ、お会いしますか……?」

「それじゃ、お願いできる? 最大限、私の方でも努力するわ。……何か欲しがるものはあるかしら」

「欲しがるもの、ですか……。そうですね、それなら――」


 フェルネはリディアに、友達の趣味趣向を伝えていった。リディアは最初は真面目に、そのうちどこか呆れながら……それをしっかり記憶に留めていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 フェルネからの連絡は予想外に早く、翌日の夕方にリディアは呼び出された。急いで行ってみると、フェルネの横には立派な足を8本も生やしたアラクネがいる。そしてその周りを、小さな妖精が5人飛んでいた。


「――あ、主様。こちらです……!」

「お待たせしました。私がこの場所の主、リディアです」

「はじめまして、人間さん。アタシはベロニカ。まわりの子は、アタシのアシスタントよ」


 ベロニカが紹介をすると、それぞれがリディアに挨拶をした。リディアもしっかりと、彼らに挨拶をする。


「フェルネから聞いたんですけど、彼女の服もあなたが作っているんですって?」

「ええ。アタシは基本的に、オーダーメイドで服を作っているの。だから、お客さんには直接会う必要があるんだけど――」


 そこまで言うと、ベロニカは溜息をついた。


「……人間さんは、アタシの足をどう思う?」

「足、ですか? えぇっと……立派な足、ですね?」


 リディアがきょとんとしながら答えると、ベロニカは少しだけ笑った。


「アタシの足、立派すぎるのよ。だから、怖がる人とか……気味悪がる人が多くてさ」

「確かに、慣れていないと……そうかもしれませんね」

「ベロニカちゃん……。主様は、その辺りは鈍感――度量が広いと思うよ……?」

「ちょっと、フェルネ?」

「はわわ、すいません……」


 リディアとフェルネのやり取りに、ベロニカは口元を緩ませた。


「まぁ、アナタみたいな人も当然いるんだけどさ。アタシも最近嫌なことがあって、気分転換をしたくて――それで、フェルネの引っ越し祝いついでに来たわけよ」

「それならお試しで、しばらくここに滞在してみませんか? 工房も用意しますので」

「うーん……。人間さんのことは気に入ったけど、まだ人口が少ないんでしょう? 下働きみたいなのは嫌なのよ。アタシ、あくまでも服を作りたいわけだし」

「なるほど……。確かに私も錬金術師ですけど、毎日簡単なものを作り続けるのは嫌ですね……」

「あら、アナタは錬金術師なの? ……もしかして、アタシの足を変える薬とか……作れる?」


 ベロニカの言葉に、リディアは少し考えた。


「8本の足を、2本の足にする……ということですか? うーん、そういうのは聞いたことがありませんね……」

「すらりと伸びた2本の足……。アタシ、それを手に入れて、そういう服を着てみたいの……! ダメでもいいから、何か探してくれないかなぁ……?」

「今はそんなに時間が取れなくて……。それに調べるといっても、雲を掴むような話ですし――」


 しばらく問答するも、なかなか話の溝は埋まらない。そうこうしていると、デュランが静かに現れた。


「すまん、リディア。フェルネからここに来るように言われたんだが――おっと、こちらの方は初めてだな。話しているところスマン、俺はデュランだ」

「……ッ!! あらぁ、アタシはベロニカ。よろしくねぇ……♪」


 デュランを前にすると、ベロニカの声は少し甘みを帯びてきた。誘い込まれるような何かに、デュランは警戒を始めてしまう。


「デュランは、この場所――オルトゥスで、農作業や収穫まわりの仕事をしているんです。今回も、彼の服が破れたのが声を掛けたきっかけで……」

「スラっと伸びた足……。黒髪に、可愛い猫耳……、それに尻尾。反面、それを否定するような精悍な顔つき……。……イイ!! とってもイイわ!!」

「ど、どうも……? それで、リディア。俺には何の用だ?」

「ベロニカさんは、糸や布の生産と、服飾の仕事をしているの。あなたの服、作ってもらわない?」


 リディアの言葉に、ベロニカは大きく首を頷かせる。


「創作意欲が湧いてくるわ……ッ!! 作らせてくれたら、しばらくここで仕事をしてあげるッ!!」

「本当に? よろしくね、ベロニカさん!」

「ああ、もう。アタシのことは呼び捨てでいいわよ! 敬語もいらないから!」

「それなら私も、呼び捨てにしてもらおうかしら。ベロニカ、それでいい?」

「もちろんよ。しばらく世話になるわね、リディア♪」


 ……こうして、リディアとベロニカの間で話が決まった。

 フェルネはそれを嬉しそうに見ていたが、デュランは――ただひたすら、完全に置いてけぼりにされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ