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第十七話「結末。ヒロインと主人公の約束」

◆side~美澄炎華~◆


 大歓声の中、私の前に更新された優勝候補筆頭が姿を現す。

 赤髪褐色肌の大男、私と同じ炎魔術の使い手だ。

 けどその傾向は大きく異なる。

 私が純粋な火力放出型の炎魔術師なら、あの大男はいわばいつぞやの『悪鬼』と同じ肉弾戦闘タイプ。

 正直あのときの討伐戦で見ていることしかできなかった身としては、今回また同じような魔術師に負けることはしたくない。


 私は……あのばかだけどかっこよくて、実は凄い強い雄二の隣に立つために、この試合負けるわけにはいかないの。


 『悪鬼』討伐作戦を思い出す……。

 あのときの私はまだ位階指定Cで、それでも自分は十分優れていると思っていた。

 だってこの若さで位階指定Cなら、才能も将来性も十分以上に認められているようなもの。

 けどそれは、上を見ない現状に満足する小娘がただ調子に乗っていただけだった。


 冒険者という職業に就くことを決めた時点で、私たちはいつだって命掛けで上を目指し続けなければならない。

 でなければ本当に命をかける場面になって、弱い私たちは運よく守られて生きられるか、運足りずそのまま死ぬことになるか……自分で自分の生死すら決められなず最後を迎えた冒険者を私はこの目で見た。


 始めは『悪鬼』討伐作戦で。

 二度目は災厄侵攻(スタンピード)で現れた六腕悪魔の災厄種で。


 守られるだけなのは、見ているだけなのは途方もない無力感だった。

 魔術という暴力を矛に盾にと仕事をする冒険者が、なんだその紙切れはといわんばかりに格上の暴力によって蹂躙されていく。

 かと思えばそれまで蹂躙する側だった暴力が、最期は『魔人』という理不尽なまでの暴力によって潰される。


 畏敬の念に堪えなかった。

 あれほど圧倒的な暴力を持つ彼が、この世の秩序のためにその力を使っている。

 『魔人』だけじゃない。

 『千鎖』も。

 『風神』も。

 『女王クイーン』も。

 彼ら彼女らはその暴力を、秩序の剣としているのだ。


 ただ強くなるだけじゃダメ。

 私は彼らのように秩序の味方でありたい。


 だから──。


「見ていて雄二……。私は力を間違えない。私はもうあなたに守られるだけの存在じゃない。あなたたちと共に前に立って、秩序の味方であれると証明するから」


 試合開始の音が鳴る。

 この大男は遥か格上だ。

 それでも。

 私はもう戦うことをやめたりしないと、あの日誓った言葉を胸に、今できる全力をぶつけにいく。


「【太陽真核(プロメテウス・コア)】──!!」


 私はこの試合で、また負けるわけにはいかないのよッ──!



 ◆



 試合は終わった。

 僕らは四人で揃ってカフェにいる。

 そう、今朝僕が姫に声を掛けられたあのカフェだ。


「「「…………」」」


 店員が僕たちの前に軽食が置いてくれる。

 だが三人とも手を出さない。

 揃って黙って、まるでお通夜のような有様だ。

 僕は一人小腹満たしに置かれた軽食をつまんだ。


 まぁ美澄さんは最大火力を出し切った上で敗れたのだから落ち込むのはまだわかる。

 そう、美澄さんは赤髪褐色肌の大男との試合で、完膚なきまでの完敗に終わった。

 全力の最大火力を叩き込み、傷一つ与えられず拳一発で試合終了。

 ただならぬ覚悟で挑んでいたのか、美澄さんは帰ってくるなり「ごめん」と一言謝ってなにも言わなくなった。

 美澄さんの事情も背景も知らない僕にはなにに対しての謝罪なのかもわからないが。

 だけどこれだけは言えるぞ。


 姫、雄二。

 お前らまで釣られて落ち込むようなところじゃないだろここは。

 姫とか僕と同じで美澄さんの事情も背景も知らない側だろうに、なに雄二と一緒になって下向いてるんだ?

 雄二も雄二で恋人が予想以上に落ち込んでいるならそこはむしろ勇気を出して励ますところだろう。

 チラチラ美澄さんの様子を窺っているくらいならさっさと突撃しろマヌケ。


 僕は内心ででっかい溜息を一つ吐くと、軽食を飲み込んでなんの遠慮もなく雄二の足を思いっきり踏んだ。


「いっっっ⁉」

「お、どうした雄二なにか言いたいことでもありそうだな遠慮せず早く話せよ」


 これ見逃さずと早口で捲し立てる僕に信じられないものでも見るような目を向けてくる雄二。

 だが、僕が無言で早くいけと顎で美澄さんを示せば覚悟を決めるように唾を飲み込んだ。


「炎華」


 意を決した雄二の呼びかけ。


「やっぱ弱いな」


 僕本気でこいつと友達にならなくてよかったと思った。

 どうするんだよこの空気。

 だが亀裂が走ったようなこのテーブルで彼の言葉はまだ続いた。


「俺も弱いんだ。すごく弱い。しかも一人じゃ戦えない情けない男で、正直あの大男に立ち向かう炎華がすごく眩しかったよ」


 その言葉は真剣だった。

 嘘偽り、励ましのための言葉などでなく、ただ自分の本心を語っている男の顔だった。


 視線だけ上げた美澄さんが雄二の顔を窺う。


「……あんたは強いじゃない。位階指定だって、その歳でもうAなんだから、私じゃ……私じゃあんたの隣に立てない……」


 この時点で僕と姫は貝になっている。

 流石の姫もこの空気でなにかを突っ込む気にはならないらしく、もう雄二の位階指定とかこの先の話とか、無言で全部受け入れる所存だろう。


「馬鹿いうなよっ! 俺が強いだって? 炎華には俺が一人で位階指定Aの実力者に認められる器に見えるのか⁉」

「実際認められているじゃない! 『風神』にだって『女王クイーン』にだって……きっと『魔人』にだって! あんたはここぞという時、認められるための強さを示してきたわ! 私は、私はただ……負けただけよ」


 こちらの様子を窺う店員さんにペコペコ頭を下げる。

 声量下げろと言いたいところだが、店員さんも構わないと優しさを見せてくれたのでここは甘えるとしよう。


「俺一人の力じゃないだろ!! 俺はいつだって、炎華みたいな誰かのために強くなれる人たちの力を借りて戦ってきたんだ! そんな俺が、なんで炎華みたいな素敵な女の子を侮れる!? 俺を見ろ炎華! 俺は炎華をとっくの昔に認めているぞ! クラスで最初に見たあの頃から、ずっと……!!」

「雄二……?」


 コーヒーおいしい。


「俺の隣にいてくれないか、炎華? 俺もまだまだ弱いから、君に隣に立っていてほしいんだ。だって俺はいつになったって、一人じゃずっと弱いんだ。君が必要なんだ、炎華」

「雄二……」


 軽食もおいしい。


「共に強くなろう、炎華。俺も、自分じゃ決して届かない高みの存在を……執行者っていう圧倒的強者を知ってなおさ、彼らに……いや〝彼〟に届きたいって思ったんだ。彼は強すぎて、とても孤独に見えたから、俺も強くなって隣で戦いたいって、思ったんだ」

「雄二、それって……」


 ……おや?

 もしかして僕の話をしてますか?


「俺さ、思うんだよ。彼が、彼ら執行者が秩序を願う者なら、俺たちだってまた秩序を願う者じゃないのか? ならいつまでも甘えてないで、俺たちももっと強くならなくちゃいけないって」


 …………。


「俺は一人じゃ戦えない、強くなれない。だからもう一度言わせてくれ炎華。俺と一緒に強くなろう! みんなで!」

「……もう、ほんとばかね。わかってるの? 〝彼〟に届くくらい強くなるって意味。きっと一生かかっても届くかどうかわからないわ。……それでも私と、一緒に強くなってくれるの?」

「当たり前だろ。俺だって炎華に認めてほしくて、いつだって本気なんだ」


 ……おっと。

 考え事をしてたらなにやら前が眩しい。

 いや展開的な話じゃなくて、本当に物理的に眩しいから。

 いったいなんだと顔を上げれば、なんか雄二と美澄さんの胸の辺りから光り輝く鎖が伸びていた。


「……これはまさか、文献にあった……【運命の鎖】なのか?」


 横からなにか訳知り顔な姫が言葉を漏らすんだが。

 あれ、これ展開についていけてないの僕だけか?

 大人しくコーヒー飲んでます。


「炎華……」

「雄二……」

「「一緒に強くなろう」」


 眩い輝きが視界を染める。

 なにやらとても重要そうな場面。

 でも僕はこの後の展開が気になって仕方ない。

 お前らもうこれ実は僕寝てたとかで誤魔化しつくレベルじゃないぞ。

 眩しすぎて気付くなってほうが無理だっての。


 お前らにこの言葉を送りたい。

 貝だってな、生きてるんだよ。

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