第十六話「魔術闘技大会 自由戦『本気』」
会場に木霊する勝利の咆哮。
無名の魔術師が位階指定Aの優勝候補筆頭を蹂躙したことで観客席も大きくざわついた。
いったい彼は何者なんだ? と。
更にいえばあの大男の実力を知って、まだ他に自由戦の優勝者が思い浮かぶ者も少なかった。
位階指定Aの優勝候補筆頭だった者を圧倒する力を見せつけられたのだから無理もない……のだが。
「傾向としては私と同じ炎魔術なのかしら? 放出じゃなくて自身の強化に力を向けている? あの雷撃を受けて無傷でいたのはどういう絡繰り……? 最初動かなかったのは舐めプ? それとも魔術行使に時間がかかるタイプか……それなら……」
雄二の隣に座る美澄さんは、どうやらまだまだ立ち向かう気満々でいるらしい。
結構なことだ。
そういう気概は命懸けの冒険者にはとても大事な要素だと僕も思う。
雄二もブツブツと思考の海に沈む美澄さんの様子を楽しそうに眺めている。
真剣な表情で思考を纏める美澄さんの邪魔をしないとばかりに、僕たち三人は黙って彼女の呟きに耳を傾けていた。
ブツブツ、ブツブツ、と続く呟き。
けれど長いようであっという間な時間で彼女はそれをやめた。
「ようするにあの大男が動かないうちに熱線で倒せれば私の勝ち、そうじゃなければ負けってことよね。実力差は明白だけど、まだワンチャンあるかも」
それは潔ささえ感じる前を見た表情、前を見た言葉。
美澄さんはあの赤髪褐色肌の大男に勝つことを諦めず、今持つ最高火力で立ち向かわんというらしい。
奇しくも次あの赤髪褐色肌の大男と対戦することとなるのは美澄さんだ。
彼の実力が知れた今、ある種トップバッターのような重圧がかかる対戦だと思うのだがそれでも彼女に後退という意思はまるで存在していなかった。
雄二が静かに口を開く。
「頑張って。応援してる」
先程までの騒がしさは鳴りを潜め、真摯に真剣に、それでいて優しく雄二は声をかけた。
美澄さんはそんな雄二の顔を見ると、にっと笑う。
「当然! しっかり見ていなさいよ! 一発ぎゃふんと言わせてやるんだから!」
その言葉は果たして対戦相手に向かってのものなのか、それとも見つめ合う雄二に向けたものなのか、真実のところなんて僕は知らない。
でもそれでいいと思う。
僕が彼らの絆を理解しようなどとそれこそ烏滸がましいことなのだ。
その後試合に備え席を立った美澄さんは雄二とハイタッチする。
もはや言葉はいらないと表情で語り合う二人を見守っていると、美澄さんはそのまま僕と姫のところへも来て手を差し出した。
「ん!」
ハイタッチしろ、ということなのだろう。
なにも僕とする必要はないんじゃないかと思いつつ、これから試合の彼女の闘志を落としたくもないので無言で手を合わせる。
「いぇーい!」
「ヤァー!」
なお横の姫は元気全開で両手を使いハイタッチしていた。
声援を送るかと思えばよくわからない言語、でも女子二人はそれで普通に通じているようだ。
「それじゃ行ってくる!」
手を挙げる美澄さんを三人で見送る。
すると周囲の観客たちも口々に声援を送り始めた。
「応援してるぜ嬢ちゃん!」
「まだ一発ドカンと気持ちいいのを見せてくれ!」
「頑張ってねー!」
思いがけずかけられた声援に、美澄さんはポカンとした後笑顔でサムズアップして去っていった。
……ここで観客たちがどちらの勝利を予想しているかなんて考えるだけ野暮なんだろうな。
「勝てるといいな」
自分でも思いがけず、つい口から出ていた言葉に横の姫と雄二も驚いた顔をする。
だが数瞬後には二人揃って豪快に肩を組んできた。
狭い、暑苦しい。
「絶対に勝てるさ!」
「炎華ちゃんは凄いやつだからな!」
言ったが直後、二人同時に脇よりなにかを取り出す。
それは何枚もの団扇だった。
「……本気か?」
今度は口に出して二人に問う。
でも二人は最高にキラキラと輝いた顔で断言するんだ。
「「本気!!」」
そりゃそうか、とふっと笑う。
横からちょこちょこ頬を突いてくる二人を押しのけて、僕も側に置いてあったそれを両手に構えた。
『炎華★最強!』




