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第十五話「魔術闘技大会 自由戦『灼熱の戦士』」

 勘違い駄肉男が去っていき、興奮も冷め周囲が落ち着いてきた頃。

 横で雄二と美澄さんが手を握りあっていた。


「ありがと雄二、庇ってくれて」

「はは……大したこともできなかったし、解決してくれたのは京助だけどね……」

「もうっ、それでも私は嬉しかったの! 確かに追い払ってくれたのは水鏡くんだけど、彼終始顔を少し向けるだけで絶対関心なかったわよ!? ねー水鏡くん?」

「……雄二がいたからな。彼の頑張りを見守っていた」

「京助……流石のボクでもそれが適当な言い訳だとはわかるぞ……」


 先程までの空気を払うかのように四人で言葉を交わす。

 美澄さんは雄二の肩に頭を乗せながら甘えるように吐息を漏らした。


「……でもだめね。私は雄二に守られる女じゃなくて、隣に立てる仲間になりたいのに。魔術もアレンジして、方向性も見えてきて……あと少しだって思ってたんだけどなぁ」

「炎華……」


 それは美澄さんの本音の発露か。

 さっきも魔術アレンジで六腕悪魔の災厄種を参考にしているという話、雄二にも話していないと言っていた。

 それは雄二の隣に立つために、一つ彼を大きく驚かせて認めてもらいたいという想いがあったのかもしれない。

 現状美澄さんの位階指定はBで雄二がAか。

 実力ではなく友人もしくは恋人としてならもう隣に立っているだろうが、美澄さんがいっているのはそういう物理的な距離の話じゃないんだろうな。


 対等でありたいという彼女の想いか。


「炎華……俺は──」


 雄二がなにかを美澄さんに言おうとすると同時、しかし大きな歓声が会場を包み込む。

 その声で身を寄せ合っていた二人も自然と試合会場に視線が向いた。


「……大物か?」

「あぁ京助。今年の自由戦で優勝候補筆頭、位階指定Aの冒険者の試合が始まるぞ」


 姫の解説を聞いて眼下の一ブロックに目を向けると、そこでは観客席に向かって手を振る男が対戦相手を待っていた。

 どうやら彼が位階指定Aの冒険者らしい。

 黄色い声援を受けて爽やかに微笑む様子は随分とファンサービス旺盛だ。

 それと同時に、この対戦で自分が負けることなど微塵も考えていない自信が雰囲気から漏れ出ている。


「流石に優勝候補だ、これは対戦相手も戦意喪失で棄権したかな?」


 未だに現れない対戦相手に、姫のみならず観客たちも棄権を予想する。

 それは彼が相手では仕方のないことだと、もう試合終了の空気が会場に流れていると──。


 ザッ、ザッ……


 やけに響くその足音が、試合会場に繋がる通路から聞こえてきた。

 緩慢していた空気が次第に張り詰めていく。


 その足音は自信に溢れていた。

 その足音は勝利を疑っていなかった。

 その足音は……ただならぬ威圧を放っていた。


 通路から足音の主が姿を現す。

 その姿を見た瞬間、横の姫があっと声を漏らした。


 赤髪褐色肌の大男……。

 老婆と共にいた魔術師だ。


「試合、始めようぜ」


 赤銅色の鎧に身を包んだ赤髪褐色肌の大男は、登場と同時に試合開始を求める。

 その立ち姿には緊張の欠片も存在しない。

 対戦相手の位階指定Aの冒険者もそんな彼に気圧されているのか、腰を落として本気の目をしていた。


「どちらが勝つと思う?」


 隣の姫が視線を外すことなく聞いてくる。

 それに対し雄二は即答する。


「あの大男だね。あれは底知れない実力者だ」


 続いて美澄さん。


「ただの直感なんだけど、位階指定A如きじゃ勝てない気がする」


 流れで求められたので僕も。


「……あの二人なら大男が勝つんじゃないか?」


 それを聞いた姫は一つ頷くと、自分の予想も述べた。


「格が違うな」


 普通に考えれば無名の魔術師と位階指定Aの冒険者、勝者など語り合うまでもない。

 だがあの赤髪褐色肌の大男はその普通を覆すだけの力を持っていると四人共が判断した。

 それだけの威圧を、迫力を、纏っているのだ。


 試合開始のブザーが響き渡る。


 途端、優勝候補筆頭が雷撃の猛攻をかます。

 展開が早い。

 魔術行使から雷撃の着弾までが圧倒的だった。

 しかも雷撃を放ち続けながら自身は雷を纏い高速移動のためか電線のような領域を張り巡らせている。


 閃く稲光。

 会場を支配する雷撃の轟音。

 まるであの試合会場だけが天災にでも見舞われているのではないかというほどの怒涛の攻撃だった。


 あれだけ雷撃をかましてもまるで油断していないのか、優勝候補筆頭は張り巡らせた電線の上を高速で移動し始める。

 四方八方、雷撃を操作して上下からも降り注ぐ隙間のない攻撃。

 全方位から放たれ続ける雷撃は試合開始から寸分違わず一点だけを穿ち、赤髪褐色肌の大男もそこから動いでいないことは見ていた全員が知っていた。


 だというのに何故なのか。


 溢れ出る威圧が。

 迫力が。

 消えない。


「……チッ!!」


 舌打ちをした優勝候補筆頭はその場で大きく跳びあがる。

 頭上から会場を見下ろすように舞い上がった優勝候補筆頭は、一度雷撃の猛攻をやめ天高くから溜めの姿勢に入る。

 ピシャリと稲光が。

 ゴロゴロが雷鳴が。

 溜めに入った優勝候補筆頭の手の中から主張し始めた。


 それを待つように。


 猛攻の晴れた一点から赤髪褐色肌の大男が姿を現す。

 身体からむせるような蒸気を撒き散らし、その熱気のためか空間が歪んで見えた。


 その身体にただ一つの傷もなし。


 豪快にそして楽しそうに笑う赤髪褐色肌の大男は、天から落ちる雷を今か今かと待っていた。

 僕はこの時点で既視感を覚える。

 あの佇まい、あの表情、前も見たことがある。


 同じなのだ、以前始末した『悪鬼』という犯罪者と。


 戦いを楽しんでいる。

 あれはそういう男の顔だった。


「ォォォォ落ちろぉぉぉッ!!」


 優勝候補筆頭が吠える。

 溜めに溜めた雷の一撃を、ただ待ち続ける赤髪褐色肌の大男へと落とした。

 眩い閃光が一瞬のもとに直撃する。

 持続的に落ち続ける稲妻は、赤髪褐色肌の大男をその熱で焼き尽くす──はずだった。


 触れると同時か触れたと同時か、赤髪褐色肌の大男はその身体から発する蒸気を燃え盛る炎へと変えたのだ。


 試合会場が大きく陥没する。

 落ちる稲妻が引き裂かれる。

 それは下から瞬きの間に上空まで跳躍していた燃える赤髪褐色肌の大男によって。


 刹那、優勝候補筆頭と赤髪褐色肌の大男の視線はゼロ距離で交わっていたと思う。


「楽しかったぜ」


 なにか一言、恐らくはそう呟いた。

 優勝候補筆頭は清々しい笑みで返していたから、そう間違ってもいないはずだ。


 時間にして数分もない攻防。

 燃える拳が、甲高い空気を引き裂く音と共に優勝候補筆頭の腹へと炸裂し、触れると同時に彼の身体は消滅する。

 まるで豆腐でも殴ったかのようにあっけなく、優勝候補筆頭はその身体を散らし敗北したのだ。


 試合終了のブザーが鳴る。

 勝者は言うまでもなく赤髪褐色肌の大男。

 無名の魔術師は勝利の咆哮をあげる。


 この日、初めて世界は後に『灼熱の戦士』と呼ばれる男の力を観測したのだ。

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