第十三話「魔術闘技大会 自由戦『美澄炎華』」
『熱線の魔女』……もとい常識人枠だったんだね美少女……もといもとい、美澄さんの初戦が終わって彼女は一旦観客席のほうへと戻って来た。
【霊装】を解いても投げられる声援に彼女は笑顔で手を振りながら僕たちの後ろまでくると立ち止まる。
「なにか言うことは?」
「初戦突破おめでとう!」
「なにか言うことは?」
「凄い戦いだったぞ!」
「なにか言うことは?」
「……すまないとは思ってる」
繰り返される言葉に、背後から圧を感じた僕は思わず謝罪した。
後ろを振り向いているわけじゃないけど、絶対美澄さんはニコニコ笑ってると思う。
なおそれは口元の話で目の部分はやっぱり見てみないとわからない。
現在の僕は左右を喧し二人組によって挟まれている状態で、あまり大きな動きをできないから振り返ることもできないのだけど、きっと僕は現状の最適解を導き出せていると思う。
美澄さんの視線は左右に座る姫と雄二の手元に向いている気がしたんだ。
『炎華★最強』
かけるいくつか。
いったいなにがあるんだと雄二のそこを見れば彼は団扇で顔を扇いでいた。
こいつ正気か?
おかしなことに僕の手元にも若干の視線を感じるが、絶対に振り返ることだけはしないし、間違ってもこの団扇で顔を扇いだりもしない。
それは生命の本能による警告か。
貝だって生きている、つまりはそういうことなのかもしれないと悟った。
後ろからふふっと楽しくなさそうな声が聞こえる。
「水鏡くんはいいのよ? 私と同じ被害者じゃない」
あ、今笑いながら後ろで美澄さんが首を傾げた音がした。
実際音なんて聞こえてないはずなのに、今絶対コテンッて笑顔で首を傾けたな。
僕は貝になった。
「炎華ちゃんマジで凄い戦いだったよ! 俺も思わず声援を張り切っちゃったさ!」
「…………」
コテンッ
「熱い戦いだったぞ炎華ちゃん! やはり炎華★最強に偽りなしだったな!」
「…………」
コテンッ
左右で二人が発言するたびに、コテンッコテンッと左右に首が傾けられる音が後ろから聞こえる。
姫、雄二……左右の君たちは僕と違って振り向けているんだから美澄さんの表情でなにか察することはできないのか?
罪を自覚しない者にはいかなる罰も罰にはならないと、つまりはそういうことなのか?
美澄さんは後ろで腕を組んだ。
見てないけど絶対に組んだ。
「ふ~ん……? まさかこの三人の中で常識人枠が水鏡くんだったとは思わなかったわ? 次の試合までまだ時間あるし、ちょっとオハナシしましょうか?」
「あぁ!」
「うむ!」
いい笑顔だ二人とも。
次の美澄さんの試合で同じ被害を僕が被らないためにも、ここでしっかりと美澄さんのオハナシを聞いてほしい。
雄二の隣に笑顔で座った美澄さんは、そこから凍えるようなオハナシを聞かせ始めた。
その様は流石はクラスで氷の美少女と言われるだけのことはあったと……それだけは供述しておこう。
オハナシが完了し。
観客席で四人揃って続く試合を観戦していた。
見ながらも話題は眼前の試合ではなく、美澄さんの魔術についてである。
僕が魔術師でないということでわかりやすい解説を三人がしてくれているのだ。
なお若干一名自称一般人の男が解説側に回っているが、ヲタクらしいところは見ているので気にならないという体でみんなの話を聞く。
「炎華ちゃんが見せた炎魔術は適性魔術としてはありふれたものなんだけど、かといって使い勝手が悪いかと言われたらそれは断じて違う。まず一番に火力面がわかりやすく強力だからね」
「実際この自由戦でも炎魔術の使い手は多く見られるぞ。だが注目して欲しいのはその魔術の形状だ。同じ形状のものを使う者も多いが、総じてそれらは炎華ちゃんが見せたような強さを感じないだろう? これが魔術をアレンジしているかしていないかの差なんだ」
「基礎的な魔術だけじゃアレンジを加えた魔術には敵わないわ。もちろん力量の問題はあるけど、炎魔術の真価は自分だけの特色をアレンジで生み出してから始まると言ってもまるで過言じゃないの」
代わる代わる順番を回すように話してくれる三人。
そのどれもが淀みなく、やはり魔術に関しては三人共がその道のプロなのだと理解させられる。
その話の中で僕は一つ気になったことを美澄さんに聞いてみた。
「美澄さんの炎魔術のアレンジは、もしかして六腕悪魔の災厄種を参考にしているのか?」
「……あら。よくわかったわね?」
正解を頂いた。
六腕悪魔の災厄種、言わずと知れたこの前起きた災厄侵攻の討伐対象だ。
今巷ではあのときの動画が拡散され尽くしているからその姿を見た者は多いだろう。
美澄さんのアレンジ炎魔術……【太陽真核】だったか、あれから放たれる熱線を見てもしやと思ったのだ。
皆戦いの終わりに興奮して気付いていない観客も多かったが、美澄さんが熱線を放った後も、あの【太陽真核】は残っていた。
それはつまりあの魔術は熱線を一度放って終わりではないということ。
更にいえば美澄さんは最初構築段階とはいえ【太陽真核】を複数展開しようとしていたことからも、彼女の戦法が固定砲台による熱線の乱射であるとわかる。
それは実際に六腕悪魔の災厄種の光線を喰らい続けた僕だからこそ、彼女のやりたいことも見えてきた。
僕も後であの動画を見てみたが、確かにあれは浪漫に溢れている。
あの火力をあの間隔で乱射するとかもう現代兵器が鼻くそに思えるレベルだった。
一点超火力特化。
それが彼女の、美澄さんの炎魔術のテーマなのだろう。
といっても。
「正直まだまだ不完全な私の魔術を見て悟られるのは恥ずかしいわね。ばか雄二にさえ言っていないのに、実は水鏡くんってあの動画何回も見てたりする? 因みに私は穴が開くほど見てるわ。毎朝あれを見ないと始まらないってくらいに」
そうだ、美澄さんの【太陽真核】はまだ六腕悪魔の災厄種のそれに届いていない。
完璧に模倣するまでいかなくとも、せめて攻撃としてもう少し完成度を上げたいところだ。
先程の試合で美澄さんが放った熱線、あれが六腕悪魔の災厄種同様六つの砲台から乱射されたとて、その全てを避けることは僕なら容易い。
熱線の速度が見てから反応できるレベルでしかないのだ。
これが六腕悪魔の災厄種であれば先を読んで避けるという話になるが、少なくとも現状の彼女の熱線ではまだ回避できる者もいるだろう。
彼女の今後の課題は速度=火力=速度=……という無限の追求になると思う。
……まぁ、本当の高みを目指すのならという話だし、現状でも冒険者としてはかなり上澄みなのかもしれないけど。
僕は彼女は冒険者だろうと自分の執行者脳を追い払う。
代わりに当たり障りのない言葉を返しておいた。
「僕があの動画を見たのは一回だけだ。もっとも似ていると思っても、美澄さんの熱線はレーザーみたいに照射時間が長いから、少しコンセプトは変えてるのかもしれないけど」
「……照射時間?」
僕の言葉に疑問を抱いたのか、美澄さんは身を乗り出してこちらを覗き込む。
なにかまずいことを言ってしまっただろうか。
六腕悪魔の災厄種のあれは光線のくせして細長い砲撃を爆速で繰り出しているようなものだった。
対して美澄さんの熱線は固定砲台から焼き続けるレーザーを当て続けるという、同じ一点集中でも多方面から殴り続けるのかスーパーキック一発で相手を吹き飛ばすのかくらいの差はあると思う。
どちらがいいとかではなくコンセプトの違いだと思うのだが……と、それを僕なりの言葉で伝えてみると。
「……なるほど、光線の印象が強すぎて熱線に走っちゃったけど、あれは最終奥義じゃなくて通常攻撃連打みたいなものなのね。レベルを上げて物理で殴る……私が目指すべきはそこ……?」
なにやらブツブツ呟き始めた美澄さん。
よくわからないが彼女の思考を刺激してしまったようだ。
これは彼女が戻ってくるまで長いかもしれないな……と姫と雄二も微笑んでいるのを見ていると、その声は重い足音と共に背後より近づいてきた。
「──ブィッヒヒヒ。君が『熱線の魔女』だね? 朕の傘下に入らないか?」




