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第十二話「魔術闘技大会 自由戦『熱線の魔女』」

 大きな歓声の中、眼下の試合会場のそこかしこで魔術が飛び交う。

 炎の槍が放たれたかと思えばそれは冷気の噴射によって掻き消され、かと思えば別の場所で肉を殴り合う打撃音が生々しく響き渡る。


 いくつかのブロックに分けられた魔術師同士の対戦。

 それが今、観客席に座る僕らの前で行われていることだった。


「やっぱり魔術大祭で出場を決めるだけあってみんなレベル高いなぁ! あそことあそこの戦いなんか、冒険者でいったら位階指定Cはあるんじゃないか?」


 横に座る雄二が興奮した様子でいくつかの試合を見ながら指をさす。

 そこを見ればちょうど今相手の胴体が千切れ跳ぶところで、戦いを見る間もなく試合の終わりが告げられていた。


 わぉ大変グロテスクな場面を目撃してしまったぞ……なんてことはなく、この魔術闘技大会で使用される試合会場は元々学園の生徒が模擬戦を行うための場所であり、そこには迷宮遺物による安全装置が組み込まれている。

 その安全装置によって身体は魔力の粒子で構成されたアバターのようなものとなり、アバターが破壊された段階で試合の勝者が決まるという仕組みだ。

 無論、アバターが破壊されたところで本体にダメージはない。


 安心安全な殺し合いができるなんてとんでもない迷宮遺物があるものだと最初聞いたときはびっくりした。

 あまり多く出土されるものでもないらしく管理は国がしているとのことだが、以前僕が世界最強の執行者『アルテミス』と模擬戦したときには出てこなかったんだが?

 あれは国が公式に認めた模擬戦であったはずなのに、執行者対執行者の殺し合いで出してこないとか普通に考えて頭おかしいだろう。

 相性の問題で戦いにならなかったからよかったものの、もし接戦にでもなっていたらどちらか死んでいてもおかしくないぞ。

 あんな迷宮遺物があるのならちゃんと出せと言いたい。


 今日初めて知った迷宮遺物の存在に僕が悶々としていると、横から伸びてきた手が無遠慮に肩をバンバン叩く。

 誰あろう、姫である。


「京助! 見ろ京助! あそこ、炎華ちゃんが対戦を始めるぞ!」

「うおおおおお炎華ちゃん頑張れぇぇぇ!」


 左右がうるさい。

 今更だが今観客席にいるのは僕と姫、それと雄二だ。

 何故か僕を挟み込むように左右を陣取った二人は、試合会場に現れた【霊装】姿の美澄さんを見て声援を送る。

 巫女服のような彼女の【霊装】はそのルックスもあって観客席でも注目されているようで、彼女の勝利を願う僕としてはここで雄二より手渡された『炎華★最強』の団扇を振ったほうがいいのだろうか。

 周りで同じようなことをしている観客はいないが、雄二はいい笑顔でたくさん作ってよかったと言っていたし、軽くでも振っておくことにしよう。


 パタパタと試合会場で始まりを待つ美澄さんに見えるよう『炎華★最強』の団扇を振る。


 ……なんだろう、僕のほうが恥ずかしくなってくるな。


 ここで振るのをやめるのは簡単だ。

 だが一つ大きな問題がある。

 それは左右に陣取る二人が、両手に『炎華★最強』の団扇を三つづつ持って大分デカい声で応援していることだ。

 よかったな美澄さん、君にはこんなにも素敵な友人たちがついている。

 できれば僕はこの左右に挟まれた位置から脱出したいのだが、最後列の座席とはいえ観客は多い、難しそうだ。


 僕は無心で『炎華★最強』を振り続けた。


 チラと試合会場の美澄さんが僕たちを見ていた気がするが、すぐに視線が逸れたしそれ以降絶対に顔を向けないことからも気のせいだと思う。

 こんな広い会場で的確に僕ら三人を見つけるのは大分難しいだろうし、致し方のないことだ。


「応援は届いているだろうか?」

「もっと声を張り上げよう、姫さん、京助!」


 そっ……と振り続ける団扇を顔の前に移動させて、僕は貝になる。

 隙間から覗くように美澄さんの試合会場を見ていると、対戦相手の準備もできたのか試合開始の合図が鳴った。


 まず動いたのは美澄さん。

 火の粉を大量に周囲に撒き散らし、安易な接近を抑止するように陣地を構築する。

 美澄さん本人はその場から動くつもりはないらしく、火の粉を撒き散らしながらもなにかを唱え、頭上にいくつかの球体を構築させようとしていた。


 だが対する対戦相手もそれを黙って見てはいない。

 試合会場の地面を隆起させた対戦相手の男はそれをそのまま自分の身体へと貼り付けるように装着していく。

 土の鎧か。

 完成も美澄さんの頭上の球体より早く、あっという間に土人間になった男は地響きを起こしながら突進していく。

 美澄さんが接近抑止にと展開していた火の粉も土の鎧の前には大した意味を成さず、土人間は鈍足なれど着実に距離を詰めていた。


 美澄さんの頭上の球体はまだ完成していない。

 複数展開しているのもそうだが、もとより構築に時間がかかる魔術なのだろうか?

 このままでは土人間が美澄さんの下へと辿り着くほうが早い……それは美澄さん本人が一番よくわかっていたのだろう。


 彼女は大きく手を振り上げると、頭上の球体を一つへと集束させていく。

 そのまま流れるように、周囲に展開されていた火の粉までもが球体へと吸い込まれていった。


 なるほど、火の粉も複数の球体も、一つの使い道だけを想定した魔術ではなかったということか。

 複数が一つに合体した球体は赤く赤く赤熱し、吸い込まれる火の粉はそのマグマのような球体を更に赤く染めていく。


 まるで薪をくべるように熱量を増す球体に、対戦相手の土男も警戒したのかその場で脚を止め、防御態勢に入った。

 地面の隆起した土が土男を更に包み込み、前には何層もの壁を構築する。

 前にしか壁を造らないのは何故かと思ったが、隣の雄二が熱い表情で「ああいう構築時間のかかる魔術は細かな制御が難しいまた炎魔術の特徴として集束させればさせるほど面ではなく一点に集中した攻撃となるのだァッ!」という説明に勝手に納得した。


 片や火力を高めんと赤熱し続ける球体をこれでもかと強化し。

 片や防御を高めんと隆起する土で壁を鎧をと自身の周りを強化する。


 この、攻めの姿勢と守りの姿勢は、試合の勝者は攻めて砕くか守って粘り勝つかのわかりやすい構図へと見方を変える。

 魔術の技巧を魅せるのではなく、魔術の浪漫を魅せるこの感じ、正直嫌いじゃなかった。


 観客も含めて今か今かとその時を待つ。

 決着は一瞬だろう。

 美澄さんがあの火力の砲台を解き放ったとき、どちらが勝つかがはっきりとする。


 ごくりと息を呑む観客が静かに見守る中、左右だけがとんでもなく騒がしい中……そのときは来た。


「喰らいなさい……【太陽真核(プロメテウス・コア)】ッ!」

「オオオオオオッッ!!」


 両者の咆哮が木霊する。

 赤熱した球体から放たれた熱線がすべて焼き尽くさんと甲高い音を立て。

 それを絶対に受けきってみせると土男が気合いの咆哮を叫ぶ。


 会場の視線を奪う矛と盾が優劣を決めんと接触──その瞬間。


 熱線は、いとも容易く土男の守りを突き破った。


 接触した瞬間こそ土男の原型は風穴が空く程度だったものの、ものの数秒後にはそれすらも黒焦げにし焼き尽くす。

 壁も、鎧も、本人も、そのすべてを美澄さんの放った熱線が消滅……いや焼滅させたのだ。


「う……うおおおおおおおおっ!! 炎華ちゃああああんっ!」

「やったぞ京助! 炎華ちゃんが勝ったぁ!」

「あぁ……わかった、わかったから揺らさないで……」


 あまりの結末に、会場の観客たちも興奮して歓声を上げている。

 確かに凄まじい熱線だった。

 決して土男の守りが薄かったなどと、そんなことはないだろうにそう思わせてしまうほどの大火力。


 雄二が言っていたことを思い出す。


『──魔術闘技大会ではびっくりすると思うよ。彼女は今、成長期だからね』


 彼は不敵な笑みでそう言った。

 横で言った本人が現在見せるテンションは置いておくとして、実際確かに驚いた。

 防御など火の粉が気持ち接近を抑制する程度のものがあっただけで、美澄さんはその魔術の力を火力に極振りしたのだ。

 だがだからと言って誰でも簡単にこんな真似ができるわけではないだろう。

 魔術アレンジ……彼女もまたその道で頭角を現し始めたということか。


 第一試合が終わり、両者の健闘を観客たちは讃える。

 まだ自由戦始まって間もない初戦とは思えない白熱ぶりだったが、いい戦いに早いも遅いもない。


 観客に興奮を与えた美澄さんはこう呼ばれていた。


 『熱線の魔女』、と。


「うおおおおお炎華ちゃんすげぇぇぇぇっ! 『熱線の魔女』だぁぁぁぁ! 炎華★最強! 炎華★最強!」


 ところで横で友達じゃない雄二がすごく騒いで団扇をブンブンと振っていたが、僕は友達じゃないし彼のことなど知らないので、そっ……と団扇を顔の前に置いて貝になっていた。


 ……早く常識人枠だったんだね美少女帰って来ないかな。

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なんか呼び名が増えたな
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