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第十一話「迷宮遺物【ガチャ】」

 女子トークで盛り上がる姫と美澄さんを視界の端に、僕はクラスメイトの『千鎖』こと雄二と暇を潰していた。


「……へぇ、雄二の目的は魔術闘技大会なのか。出場するなら応援するぞ」

「な、ななななに言ってるんだよ京助? 俺は一般人だぞ? 普通に観戦だよ観戦。あとはまぁ、炎華が出場する予定だからその応援かな」

「彼女は出るのか。クラスでも有名だったが、位階指定Bになったんだっけか」

「あ、京助もそっちの話に興味ある? なら魔術闘技大会ではびっくりすると思うよ。彼女は今、成長期だからね」


 ニヤリと不敵に笑う雄二は、すぐそこで女子トークに花を咲かせる美澄さんへと視線を送る。

 その視線に彼女も気付いたのか雄二のほうを見ると、彼の顔を見てなにかを呟いた。

 僕の大して学習もしていない素人読唇術が正しければ「キモ……」と言っていたように思うが、所詮は素人読唇術だ、真相は闇の中だろう。


 僕らが二人を見ていたことを知った姫と美澄さんは女子トークをやめて近寄って来る。


「すまない二人とも。待たせてしまったな」

「そうね、そろそろ移動する? あ、でも姫ちゃんは迷宮遺物【ガチャ】に用があるんだっけ?」


 当たり前のようにもう手まで繋いでいる二人は、これもまた当たり前のようにこの先も共に行動するつもりに見える。

 それぞれの予定を聞いてみると、姫はここで【ガチャ】に挑戦、美澄さんは魔術闘技大会自由戦に出場すること以外特に決まっていないとか。

 美澄さんの出場登録は既に済ませているそうなので、姫が……というか姫に頼まれた僕が【ガチャ】を一回起動するだけの時間は十分あるらしい。


「え? 姫さんって学園序列最上位の人なの?」


 【ガチャ】の起動権の話で、今まで知らなかった雄二が驚いた顔をする。

 僕も普通に姫の完璧主義には流石と驚嘆していたつもりだが、興奮した様子で話す雄二によるとそんな一言で終えられる実績ではないらしい。


 曰く、学園とは精鋭も精鋭の最精鋭たちの集まりで、学園序列最上位は冒険者でいう位階指定B以上は確定、序列三位以内ともなれば位階指定Aはあるだろうとのこと。


 姫にその歳で位階指定Aなんてとんでもないことじゃないかと興奮する雄二だが、お前も同じ位階指定Aだろうと言いたくなる。

 これは唐突に遠回しな自慢が始まったのかと訳知り顔な美澄さんと同様冷ややかな目で雄二を見ていた僕だが、見ているうちにこいつは素でただ興奮しているだけだなと気付いた。

 どういう経緯でその歳で冒険者の活動をしているのか知らないが、雄二も雄二で冒険者である前に冒険者ヲタクであるらしい。


「……っと、ごめん。興奮し過ぎた」


 早口で歴代の位階指定Aの冒険者がいったい何歳でその領域に辿り着いたかという話をしだしたところで、美澄さんによる話が長いチョップが雄二に炸裂。

 雄二は頭を摩りながら申し訳なさそうに頭を下げた。


「うむ。そういうわけで京助! さっそく頼むぞ!」

「……本当にやるんだな」


 その後警備の人に権利保持者であることを証明した姫は、僕たちを連れて規制線の内側へと入っていく。

 こういうときにも姫の持つ学園の腕輪型端末は確認が早くていけない。

 時間がかかるようならなあなあでなかったことにできたかもしれないのに。


 僕らが規制線の内側に入り、職員の人が迷宮遺物【ガチャ】の起動が見られますよと報せて周ったことで気付けば周囲は見学人で溢れかえっていた。

 大衆の視線に晒されることは執行者の任務で過去にもあったし僕は気にならなかったが、美澄さんは少し恥ずかしそうに身じろぎし、雄二は俺だけルックスで浮いてる……とそっと僕の後ろに姿を隠した。

 浮いてると言えば四人の中で唯一魔術師じゃない僕ではないのかと思ったが、今回【ガチャ】を起動するのはその僕なんだよな。

 幸い起動に魔力が必須ということはないらしく、必要な部分は姫が代わりにやってくれた。

 助かるよ、執行者に魔力はないからな。

 いやむしろ助からないところなのかこれは。


 因みに大衆の視線を受けた姫は女の子たちに投げキッスまでしていた。

 最強かこいつ?


「よし! 準備完了だ京助!」

「ほら雄二、あんたも水鏡くんから離れる! 邪魔になるでしょ!」

「学園序列一位の美少女にクラス一の美少女、孤高と名高い学校一のイケメン……とそこに混じる一般通行人の俺……うっ、お腹がっ……!」


 準備完了を知らせる姫の声に、美澄さんが僕から雄二を引きはがしてくれる。

 そのときなにやら雄二がぼそぼそ呟いていた気がするが、普通に最後のお腹がというところ以外聞き取れなかった。

 姫はへぇみたいな顔で首傾げてるから聞こえたのかもしれないが、まぁ別にそこまで興味もない。


 迷宮遺物【ガチャ】の前に立つ。

 こうして近くで見ると圧巻のデカさだ。

 高さだけで僕の身長の倍はあるんじゃないだろうか?

 横幅なんて三倍では足りないかもしれない。

 よくこんなものをダンジョンから持ち帰れたものだと感心しながら、僕は横の姫に最終確認をした。


「いいんだな? 姫」

「うむ。ボクはただ、京助との親睦を深めたいだけだからな。正直【ガチャ】の結果など期待するだけ気疲れすると起動した者は皆言っていることだ」

「……そうか」


 気を使わせてしまったか、と思ったが、姫の視線の先になにがあるかがわかってそんな思考は消えてなくなる。

 姫は、これから起動する【ガチャ】のことなんてまるで見ていなかった。

 本当に、ただ楽しそうに、僕のことをじっと見ていたのだ。


 魔術師でもないのに。

 仲間でもないのに。

 なにが彼女をそこまで楽しませるのだろう?


 【ガチャ】を起動するための石板に手を当てる。

 始めからエメラルドの眩い光が辺りを包み込む中、横目で姫が美澄さんと雄二と並んで笑っている姿が見えた。


 楽しそうだ。


 稲妻のような光が天へと落ちる。

 それは跳ねるように再び【ガチャ】の頂点へと落ちてくると、吸収されるように一点へと集束していく。

 ただじっ……とそれを眺めていた僕は、エメラルドの光が稲妻を伴い僕の前へと降りてくるのを確認し、そっ……とそれを受け止めた。


 途端、風が吹き荒れ、光が帯のように解放される。

 暴風に煽られる髪を鬱陶しく思いながら、徐々に光の中から現れるそれに目を凝らした。


 輝く宝石、神秘的な装飾、研ぎ澄まされた鋭利な刃。

 刃は見えたと同時に剣の装飾に見劣りしない鞘の出現によって収めれる。


 それはまるで物語のラスボス戦で勇者が掲げる剣のような。


 だが実際に持つにはどうなのだろうと僕は思わざるを得ない豪奢な一振りの剣が。


 派手な演出を終え停止した【ガチャ】の前で、僕の手に握られていた。


「「「おおおおおおっ!」」」


 見学人に混じって、三人の歓声も聞こえてくる。

 視線を向ければ三人揃ってぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 本当に楽しそうだ。

 果たしてこれがどういう排出結果なのかも知識のない僕にはわからないけど、姫たちからすると満足のいく結果だったらしい。


 しかし演出は派手でもうこれだけで一つのショーになるなとは思ったが、この無駄にキラキラしてて宝石や彫刻が凄まじい剣は果たして実戦で使えるのか?


 よくわからないがとりあえず渡すべき相手に渡そうと姫へと歩み寄り横向きに剣を差し出した。

 僕の行動に飛び跳ねるのをやめ改めて剣を観察した姫は、若干戸惑った顔で僕を見る。

 まぁそりゃあ……一言でいえば無駄に神秘的オーラを放つだけの荷物だしな。

 わかってはいても、こうなる結果も含めて姫にはこれを受け取ってほしい。


「すまない……荷物が増えた」


 謝罪はする。

 だがそれでも渡すべきは渡すべきだと手を引くつもりのない僕に、姫はなにを思ったのか表情を引き締めると【霊装】を風で翻し、急に僕の前へと跪いた。

 こんなときに王子さまキャラ復活か?


 厳かに両手で僕から剣を受け取った姫は、静かに顔を上げると綺麗なその顔で僕を見つめてくる。

 やけに周囲が静かだな。


「このボクが、必ずや我が君の期待に応えてみせるとこの剣に約束しよう」


 と思ったら姫の台詞の瞬間、大歓声が辺りを包み込んだ。

 僕の期待の正体は僕にもよくわからないが、みんなこういう物語のワンシーンのような光景はきっと好きなんだろう。


 僕は適当に頷いた。


「……さっきのあれって最上級演出じゃん」

「過去数例しか確認されてないんでしょ?」

「あっ、あっ、あの二人、絵になり過ぎて動悸がヤバい……」

「これって魔術大祭の公式イベントですか? 事前告知なしでやるとは粋なことを」

「はわ〜ふつくしい……」


 立ち上がった姫が王子さまの微笑みから一転、にこっと嬉しそうに微笑んだのを見て僕も無理やり口元を笑わせてみる。

 多分凄くぎこちないだろうし、推しのユキトイキの力がないとまともに微笑むことすらできないとは情けない話だと視線も逸らしてしまう。

 それでも姫は終始嬉しそうに笑顔を見せてくれるのだった。


「……あんたもあれくらい頑張んなさいよ雄二」

「無理言わないでよ炎華……。あの世界に入るには生まれ変わる必要が出てくる。あっ、でも【霊装】状態ならワンチャン……?」

「……ばかね。見た目の話じゃないっての……」

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