第十話「友達エンカウント」
「あれ……水鏡くん?」
姫の懇願で二人揃って【ガチャ】の展示場所まで戻ったが矢先。
なぜかそこにはクラスメイトの実は凄いんだぞ少年がいて、隣にはヒロイン枠かも美少女が彼と手が触れ合おうかという距離で並んでいた。
声に振り向いた僕の視線の先に気付いたヒロイン枠だったんだね美少女は、急いで彼から手を離すと少し頬を染めながら髪の毛を弄る。
そのままなんとか出てもいない話を逸らそうと視線を泳がせた彼女は、僕の隣の姫と目が合いそのままスッと横の僕との間で視線を往復させた。
彼女はなにかに気付いたように眼を見開く。
「……あら! 学校一のミステリーボーイにもガールフレンドがいたのね。それも随分と可愛い子。ちょっと意外だけど人間らしいところもあったみたいで安心したわ、水鏡くん」
話題逸らし云々ではなく本心で言われたようなその言葉に、思わず僕と姫は顔を見合わせる。
学校一のミステリーボーイという通称は始めて聞いたが、もしかしなくても今の僕と姫は外から見ると恋人かなにかと間違われる状態だろうか?
思えばこれまで回った屋台でもカップル引きとかそういうことを言われていた気がする。
あまりにも自分と縁がない単語過ぎてまるで頭に入っていなかったが、確かに目の前のこの二人は僕たちと同じような状況で、僕は勝手にやっとこいつら結ばれたんだなと解釈していたものだ。
またいつもの如く僕の知らないところで物語が進行したのだろうと疑問にも思わなかったが……なるほど、それを思えば今僕らが誤解されても仕方がないことか。
もう一度姫と顔を合わせて頷き合った僕らは、簡潔かつわかりやすく事実を伝えることにした。
「彼女とは今日出会ったばかりだ」
「京助はボクの仲間なんだ」
若干姫と僕の間で伝え方が変わってしまったが、まぁ姫の主張はともかくとして僕の言葉はちゃんと伝えたので構わないだろう。
「……今目線だけで意思を確認し合ってたよね? あれは間違いなく付き合ってると俺の勘が囁いてる……」
「……確認し合ったわりには食い違ってる気もするけど、まぁお祭りで男女二人のこの状況で恋人じゃないは無理があるわよね……」
僕らの主張を聞いて目の前のクラスメイト二人は顔を寄せて囁き合っている。
だが、もとよりこちらに仲睦まじい様子の二人の時間を邪魔する気など毛頭ない。
まさかお祭りを男女二人で楽しんでいて、これで恋人じゃないなんて話は流石に無理があるだろうしな。
僕は彼らと交流があるわけではないが、ちゃんとクラスメイトとして二人の恋路は応援しているし、微笑ましいとも思っている。
全然この顔は思うように微笑んではくれないが。
そんな二人の囁き時間で隣の姫がクイクイと僕の袖を引っ張って来た。
「京助、あのカップルとは知り合いか?」
「あぁ……クラスメイトだ」
姫の当然の疑問に僕も彼らを名前で紹介しようと思ったんだが……彼らの名前を知らなかった。
というか今更だが姫の名前も知らないな。
いや最初から祭りの中だけの関係であろうし、姫呼びで困らなかったから聞いていないだけなのだが。
……ん?
いや、確かエスコートの始めに姫から名前を聞かれて教えたときに、僕も社交辞令で聞き返したような……あのときなんて返されたのだったか。
少なくとも名前は教えてもらってないような気がする。
少し頭を捻って思い返していると、囁き時間が終わったのかクラスメイトの二人が前に出て姫に自己紹介をしていた。
「はじめまして、水鏡くんのクラスメイトの千鎖雄二です」
「同じくクラスメイトの美澄炎華よ。まさかこのミステリーボーイを捕まえる女がいるなんて驚いたわ。是非お話を聞きたいのだけど、私とお友達になってくださらない?」
「おぉ、千鎖殿と炎華ちゃんだな。もちろんだとも、是非このボクに二人のエスコートもさせて貰えないだろうか? あぁ、ボクのことは姫と呼んでくれ。京助がそう呼んでくれて気に入ってしまったんだ」
「あら素敵! ミステリーボーイも意外とやるのね? 一緒に魔術大祭を回りましょ!」
おぉ……出会ったばかりの女子二人がもう既に仲良くなっている。
なんなら女子二人だけで盛り上がって、野郎の僕と実は凄いんだぞ少年……千鎖雄二か、こっちは取り残された感じで視線が合っている現在。
「水鏡くん……京助って呼んでいい?」
「……あぁ、千鎖と呼べばいいか?」
「あ、あーいや、それよりも雄二って呼んでほしいかな? 知ってるかわからないけど、同名の有名人がいるからさ」
「……わかった」
成り行きで会話しているが、冒険者の『千鎖』と一般人の千鎖雄二ってお前隠す気あるのか?
いや実際クラスメイトの大半は疑念すら抱いていないようだったし、現状上手くいっているのだからこれでいいのかもしれないが。
しかし雄二か……まさかこの僕がクラスメイトを名前で呼ぶ日が来るなんてな。
今まで関りを絶つように一人で推しの配信を視聴していたが、この機会に彼と友達に……なんて思考は冗談であっても抱かない。
彼は冒険者で血に濡れたことだってあるかもしれないけど、それでも執行者の、それも僕なんかと関わるのは間違っても幸運なことじゃないからだ。
執行者が皆が皆僕みたいな生き方をしているわけではない、それでも、僕にとってこれはケジメの一つだと思っている。
「どうかしたか? 京助」
「ん……あぁ、いや。女子の話は長いなと思ってな」
「はは、こういうとき男は入っていきづらいよね。僕も今まで周りに男の友達がいなかったから、こういうときはいっつも一人で空を眺めてたよ。だからまさか魔術大祭で京助と友達になれるなんて、こんな幸運考えてもなかったなぁ」
僕の前で雄二が笑う。
僕のことを友達だと言って。
僕との邂逅を幸運だと言って。
それが間違いだとも、気付かずに。




