第九話「確信。姫の提案」
老婆と大男と別れた後、僕は姫と共に彼女のおすすめらしい魔術闘技大会自由戦の観戦に向かうことにした。
もちろんのこと僕が参加するわけもないのは当然として、学園序列一位らしい姫は参加しないのか? と聞けばそっちはそっちで学園生序列上位陣による魔術闘技大会本戦が祭りの締めに用意されているから、自由戦には出てはいけないんだと。
「本戦、姫が出るなら応援しに行くよ」
「おぉ、我が君に見られているとあっては無様な姿は晒せないね。この序列一位のボクに任せてくれまたへ!」
僕の応援に自信ありげな台詞を言いながら大げさな素振りでキラキラを撒き散らす姫。
だが朝からこの魔術大祭を共に行動しているからなのか、なんとなくその姿の中に引っかかりを覚えた。
「姫、勝算は?」
「……むぅ」
躊躇いなく聞いてみた僕に姫は少し口を尖らせる。
だが僕とて姫の完璧主義は理解しつつあるつもりだ。
学園序列一位というその実績もそうだし、順当にいって姫が優勝しそうなものだと思うのだが、姫には自信云々ではなく分析という現実的な面で勝利を確信できていないところがあるように見えた。
姫は王子さまのようなふるまいを引っ込めて、素の状態でもじもじとこちらを窺ってくる。
なにか言いにくいことだったかと話を逸らそうと口を開きかけ──
「金がないんだ」
──とても現実的な答えを先に姫から言われた。
しかしお金?
生きるに必要なのはわかるが魔術闘技大会なる戦いの場でマネーパワーがものを言うのか?
てっきり魔術の実力をぶつけ合い競い合い、というこの祭りに相応しいイベントだと思ったのだけど。
「お金がないと本戦で勝てないのか? そもそも姫は貧乏ではないだろう?」
「確かにボクもボクの家も貧乏ではない。だが! 学園の中には魔術の名家を自称する金持ちたちがうじゃうじゃいるのだ! 奴らは圧倒的マネーパワーで魔術効率なんかに関わる迷宮遺物を実家から支給されているから、純粋な魔術の実力の底上げになっているのだ。まぁ、大半はそれでもボクの足元にも及ばないし、使えるものを使うのは間違いじゃないからいいんだけど……」
そこまで言って姫はなにか対抗心を燃やすように、口からがるると威嚇の音を漏らし瞳に炎を灯らせた。
どうでもいいけどダンジョン発生からの最長五十年の歴史で名家って自称していいものなのか?
「あいつ……あの金髪縦ロールだけは許せないんだ! ペアや班分けの実習があると必ずボクのところに飛び込んでくるし、その上でボクが辛勝すると『わたくしは迷宮遺物の力で底上げしているだけですもの、あなたにはまったく敵いませんわ』とかこれ見よがしに迷宮遺物を前面に押し出してアピールしてくるんだ! 影で誰にもバレないように凄く努力してるのボクは知ってるんだぞ! それなのにあの金髪縦ロールはさぁ! だいたい──」
姫の猛烈トークにうんうんと軽く頷きながら内容を整理しているんだが、それって普通に姫にライバル心を燃やすお嬢さん? が姫のことを好きすぎるという話では?
それに最初に許せないと言うからなにかと思えば、姫も姫でそのお嬢さんに努力をもっと誇れとかそういう意味合いでの許せないなんじゃないかと聞いていて思った。
薔薇色の青春だな。
ちょっと自分が近づきすぎちゃいけないとそっと距離を開けたが、当たり前のように姫が速攻で距離を詰めてくる。
こいつエスコート精神高過ぎだろう。
完璧過ぎるというのも考え物だな。
今なお相思相愛トークを捲し立てる姫に、僕は結局その金髪縦ロールなるお嬢さんが本戦優勝へ向けてのライバルなのかと問うた。
それはもう普段出さないような声の強さで以って姫のトークを押し切った。
「む……まぁ、簡潔にいえばそうなるな。あいつも今回の魔術大祭でどうしても勝ちたいから、迷宮遺物でもなんでも使ってボクの隣に立つんだと意気込んでいたよ。だから魔術の地力はともかく、大会で優勝できるかどうかというのは五分五分というところなんだ」
五分五分、ね。
ただの憶測でしかないけれど、その金髪縦ロールのお嬢さんが勝ちたい理由は、もう達成されているんじゃないかと思う。
わざわざ言うのは野暮だから言わないけど。
「つまり姫のさっきの金がないというのは、迷宮遺物を手に入れる資金がないということなんだな。高いものなあれ」
「……なんだろう。京助が言っている様子から本当に高いと思っていなさそうなんだけど?」
「高いは高いだろう。少なくとも意味もなく買うものじゃない」
「それはそうなんだけどね。あーあ、ボクにガチャ運があったらなぁ」
……ガチャ?
なぜそこでガチャの話になるのか。
さっきのクソガキもそうだが、まさか姫もガチャの沼に嵌まっているのか?
僕が姫のガチャ発言に彼女を観察するように眺めていると、それに気付いた姫が「あぁ」と思い出したように口を開いた。
「京助にはまだ話せてなかったね。ほらさっき見た学園所有の迷宮遺物【ガチャ】だけど、あれってダンジョン内のアイテムがランダムで排出されるものなんだ。攻略済みの階層から取れるようなものから未開拓領域の未知の迷宮遺物まで、ダンジョン内にあるならなんでも出る可能性があるからね。結構凄いものなんだよ」
なんだ、あの【ガチャ】とかいう迷宮遺物は娯楽系のものだとばかり思っていたが、割と冗談抜きで冒険者涎の品じゃないか?
それで姫もガチャ運云々の話になるわけか。
姫がガチャ沼に嵌まってないのは安心したが、しかしそんな凄い迷宮遺物が無制限で起動できるというのは少し考えづらいな。
迷宮遺物に詳しくなくとも、流石にそこまでの代物があるならもっと話に聞こえそうなものだが。
「その【ガチャ】には制約とかそういうものはないのか? あまりにも破格の力だと思うんだが」
「当然あるとも。だがボクはその制約を無視できる……ううん、むしろ制約にあやかっているというのかな。迷宮遺物【ガチャ】は月に三回だけ起動することができるんだ。だから学園序列一位から三位までの学園生が毎月【ガチャ】に挑戦することができる。まぁ、学園の意欲向上のシステムの一つだよ」
なるほどよくできたシステムだ。
実際なにが排出されるかわからないが、ずっと序列三位以内をキープしておけばいつかもしかしたら凄いものが手に入るかもしれない……そう思わせればそりゃあの学園に入学する者たちなら躍起になるはずだ。
本気で冒険者を目指す彼らにとって、迷宮遺物【ガチャ】はそれだけの価値がある。
「姫はまだ学園の一年生だろう? それで序列一位というのは凄いな。【ガチャ】の仕様からして、学年別というわけでもないんだろう?」
「うむ! ボクは入学して最初の序列決定戦からずっとトップに輝き続ける女だからな! 今月の【ガチャ】の起動権も持ってるしまだ使ってないんだけど、いかんせん毎回ゴミしか出ないから……ん? 仲間とは、京助とはつまりそういうことか……?」
おいなんか今最後のほう不穏なこと呟いてなかったか?
仲間への認識を間違えるなよ姫。
そもそも僕はまだ姫の仲間になったなんて言ってない。
「京助!」
「……なに」
「ボクの代わりに【ガチャ】を回してくれ!」
やっぱりこいつ、王子様キャラ取り繕ってるときより素の状態のほうが面倒くさい。
それを確信した瞬間だった。




