第七話「秩序を乱す者 ~後編~」
「な、なんだお前!? なに勝手に俺に触ってんだよ、俺が誰だかわかってんのか!? 俺はな──」
「あーうるせぇうるせぇ。折角の楽しい祭りが台無しだぜ? 楽しむつもりで来てるなら勿体ねぇって」
騒ぐ少年の肩に手を置いた赤髪褐色肌の大男は、その体格に似あう豪快な笑みを浮かべて少年を窘める。
その周囲では雇われの護衛だろう魔術師たちが腰を落として警戒しているが、雇い主が見知らぬ大男に肩を掴まれていても決して飛び込むような素振りは見せない。
それは直感か。
周囲を囲む十人の護衛全員が、その顔で「戦いたくない」と語っていた。
「あの御仁は相当強いぞ、京助」
「……あぁ。そうみたいだな」
隣の姫も深く観察するように赤髪褐色肌の大男を見ている。
僕からしてもあの大男と周囲の者たちで圧倒的に力の差があることくらいはわかる。
それは執行者に回ってくる執行任務の始末対象と、あの大男は同格かそれ以上……つまるところいつだかの『悪鬼』クラスは最低でもあると見ていい。
いつも自分が始末する対象と同格以上の実力者だから、そういう意味ではかなりわかりやすかった。
周囲を囲む魔術師たちは理解しているのだ。
戦闘になったら生き残れないし、雇い主だって守れないと。
だから彼らは警戒はしつつも穏便に済むよう手は出していなかった……のだが、不運なことにそれがわからない愚か者が場をかき乱すように声を荒げる。
誰あろう、少年と同レベルの執事である。
「おい貴様! 汚らしい身分の者が誰に意見してると思ってる? お前終わったぞ。おい護衛! なにしてる、さっさとこいつを拘束しろ!」
唾を吐くような剣幕で捲し立てる執事はきっと、自分が仕える家の権力を疑っていないのだろう。
確かにそれは平穏に生きたい一般人からしたら有効かもしれない、いつだって理不尽な権力には後を考えて委縮してしまう者が多い。
だがああいう……時折いる権力を力の一つと思ってないような者達は、単純明快にこう考える。
殴り合ったらどっちが強いんだ?
間違いなくあの大男はそういうタイプだ。
そしてその単純明快な答えを確実に自らの勝利で収めるために、相当な実力を身に着けている。
……あの人反社の人じゃないだろうな?
僕が止めようかと思ったところを代わりに出てくれたし、できれば始末したくないんだが。
中にはやりたい放題やって指名手配される者もいるが……あの人の顔に見覚えはない、ヨシ、大丈夫か。
執事の男に動けと言われた護衛たちは、どうするか話し合うように顔を見合わせる。
そのうちの一人がチラと今も豪快に笑う大男に目を向けて……。
「悪いがもう付き合いきれない。やるならあんたらで勝手にやってくれ」
離脱した。
一人が抜けると、一人、また一人と続くように離れていく。
「お、おい!? お前ら、契約違反だぞ! どうなるかわかってるんだろうな!? おい!」
焦った執事が離れていく護衛たちを引き留めようとするが、誰もその声に耳を貸さない。
命あっての物種だと割り切っているのか、契約違反や違約金だと騒ぐ執事を無視して結局、最後には護衛全員がその場からいなくなっていた。
報酬はよかったのかもしれないが、雇い主の情報諸々考えて受けるかどうかもっとよく考えるべきだったな。
残された少年と執事は事の成り行きを耳ほじって眺めていた大男に目を向ける。
大男は二人が自分を見ていることに気付いて、ニカリと笑うと一言告げた。
「消えろ」
笑顔で放たれたその言葉に、ビクリと身体を震わせた主従二人は顔を見合わせて大男から距離を取る。
「お、お前この先の人生地獄確定だからな!」
「そのときに自分の過ちを目一杯悔いることです!」
律儀に捨て台詞を残して反転、逃げるようにこの場を去っていく主従二人の姿に、周囲で見守っていた野次馬たちから歓声があがる。
「かっこよかったぞ兄ちゃん!」
「ありがとー!」
「なんかスカッとした!」
賛辞の声を受けて笑いながら手を振る大男。
だが本当にあの少年の家がなにかしら権力を持つ家なら彼の未来が心配だ。
出遅れ感が半端ないがなにかあったら僕を頼るよう声をかけようか……と、思って。
──悍ましい視線を向けられた。
これは目の前のあの大男……?
いや違う、彼が見ているのは横の姫だ。
ならばこの視線の正体は一体──?
「──まったくあなたは、図体通りいちいちやることが目立つ男ですね」
大男の身体で隠れるように、彼の背後からコツコツと落ち着いた老婆の声が聞こえる。
視線は確かに大男で遮られているのに、その奥から感じるのは、悍ましい視線。
こいつだ。
「よぉ、婆さん。いやなに、オレたちがあんなのを見逃していいわけがないだろ? だって──」
大男の身体の横から老婆を姿を現す。
その目は出てきたその始めから僕のことを見つめていて。
「──だってオレたちは、秩序を願う者なんだから」
二人横に並んだ彼らは、言いながら僕と姫のことをじっと観察していたのだ。




