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第六話「秩序を乱す者 ~前編~」

 僕が思いがけず姫のエスコートで楽しく魔術大祭を満喫しているときだ。

 そのなにやら騒がしい道の前を通ったのは。


「いいから俺にそのガチャを回させろよ!」


 まるで駄々をこねるような男の声だ。

 だが、声の太いそれは幼子のものではない。

 言っていることは大分幼いが、それでも少年くらいの歳はあるんじゃないかと思う。


 しかしガチャ……?

 魔術大祭に来てガチャとは、あまりイメージが結びつかないのだが見たところ結構な人だかりができている。

 ただの子供の癇癪であそこまでの野次馬も出来上がらないだろうし、声の下にはきっとなにかがあるのだろうと横を歩く姫に視線をやった。


「ふむ、あそこは迷宮遺物の【ガチャ】が展示されているところだな」


 本当にガチャなのか……。

 ダンジョンのことには詳しくないし、そこから発掘される迷宮遺物だってこの前買ったユキトイキ発掘の【閉ざされた箱庭】しか持っていないから、そういう娯楽的なものまであるとはまるで知らなかった。

 ちなみに推し発掘の記念すべきその品は今自宅に飾って毎朝視覚的癒しを貰っている。

 上級鑑定のできる魔術師に依頼して鑑定しなおしても貰ったんだが、追加でわかったことは少なかった。


 曰く。


『名称通り諸々情報も閉ざされちゃってるみたいで、わかるのは本来この迷宮遺物が持ってる力も現状全部閉ざされてて、現段階ではなんの効果もないってことですね』


 ということらしい。

 いやはや、鑑定魔術というのは便利なものだなと羨ましくなったものだ。

 上級鑑定までできれば僕でわからなかった情報があそこまでわかるのかと。

 鑑定してくれた魔術師は申し訳なさそうにしていたが、元々なにかしらの魔法的恩恵を求めて購入したものではないからそこは全然構わなかった。

 視覚的癒しを貰うというユキトイキの魔法は常に効果を発揮していたわけだし。


 と、推しの称賛は後に回すとして。


 迷宮遺物の【ガチャ】とはずばり何が排出されるのか?

 その答えが今……というか例年の魔術大祭で似たような輩が湧く原因になっているとのこと。

 といってもその対処自体は難しくなく、いつもあっという間に連行されて終わることなので問題というほど大きな認識にもなっていないようだけど。


 しかし今回は、姫と揃えて足を進めている間、ずっと駄々をこねる男の怒声が響き渡っていた。


「……おかしいな。例年なら警備の者が取り押さえて速攻解決していることなのだが」


 学園生として一応現場に向かっていた姫も不思議そうな顔をする。

 確かに娯楽的な迷宮遺物といえど迷宮遺物であることに違いはないのだから、相当な価値のあるもののはずだ。

 僕の買ったユキトイキ発掘のあれでさえ他の一般アイテムとは比較にならない値段だったのだから、面倒な迷惑客など速攻で摘まみだすに足る十分な理由と大義があるように思えるが。


 訝しんだ姫と僕は足を速め、問題の現場となっている迷宮遺物【ガチャ】の前へと道を開けてもらった。

 こういうとき姫は魔術大祭を主催する学園の者の証たる腕輪もあって話が早くて助かる。

 僕?

 問題の現場まで姫にエスコートされたのだからしっかり大義はあるだろう。


 と、冗談を抜きでいうなら執行者としての権力がなにか役に立てばいいかと同行したのだが……そこで見た光景は正直眉を顰めたくなるものだった。


 中心で騒いでいるのは明らかに贅沢三昧で生きてきましたと言わんばかりの太った少年。

 年頃は知らないが僕たちとそう離れてもいないかもしれない。

 それの周りにいるのは雇われなのかなんなのか、あまりやる気を感じないがそれでもしっかり周囲を固めている【霊装】姿の魔術師たち。

 人数は十人ほど。

 彼らは護衛だと思われるが、騒ぎ立てる少年に辟易しているのかいい顔はしていない。

 それと対照的に忠誠心を見せるのが少年の横に立つ執事姿の男だ。

 といっても少年と一緒になって警備員を責め立てているのだから忠誠心とは別のもののような気がしてきたが。


 要するに執事の存在や護衛を雇っていることからもなにかしらの権力を持つ家の者達なのだろう。

 それに圧力をかけられて警備員も強くは出れないが、それでも学園の所有物たる【ガチャ】に触らせるわけにはいかないとなんとか対応している。


 あの警備員は立派だな……。


 まさか本当に執行者の権力が役に立つほどの事件とは思っていなかったが、どうやら姫に着いてきた意味はあったようだ。

 ああいうのはキャラに反してお嬢様ではなく一般家庭生まれだった姫に任せるより、僕のような血生臭い人間が国家の権力を振りかざす方がより効果的だったりする。


 僕は横を向いて一言姫に声をかけようとして、あれいない……なんてことはなく、普通に歯ぎしりして「力が、足りない……」と拳を握りしめる姫を見てなんか安心した。

 あれ、なんでだろう……。

 こういうときクラスメイトの実は凄いんだぞ少年なら勇敢と無謀をはき違えて特攻しそうだなと思ったからだろうか。

 それでも彼なら主人公のような活躍でどうにかできるのかもしれないが、同じこの世の主人公を語る姫はどうなのかと心配してしまったのかもしれない。


 だが思えば姫は完璧を自称するために適性ネタ魔術を克服するほどの努力家だった。

 ならばこういうときの自身の行動の見極めもしっかり冷静でいられるのは不思議なことではない。


 それでも今回力が足りないと悔しそうにする姫を見て、この娘はいつか主人公を超えて凄いやつになるんじゃないかと思う。

 でもそのためにも今彼女に無理をさせないために、ここは血に濡れた汚い人間の権力ってやつであのガキを黙らせようと……して足を踏み出す前に。


「おいおい坊主。祭りは楽しめるうちに楽しめよ」


 現れた赤髪褐色肌の大男が、その周囲を圧倒する威圧、迫力を撒き散らしながら、少年の肩に手を置いていた。

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