第五話「この世の主人公らしい(自称)」
最終的に僕の方からナンパしたみたいになったエスコートイベント。
しかしそこは切り替えの早い女性なのか、それとも本当に先程のあれはただの演技だったのか、エスコートが決まった瞬間から姫は王子様のようなふるまいを復活させた。
今更王子様なんて呼びたくないので姫呼びを変えるつもりはないが、ふるまいに反した呼び名でも嫌な顔はされないのでこれでいいのだろう。
「我が君よ、どこに行きたい? ボクがどこまでも君を連れていってあげるよ」
ただエスコートが始まったのならナンパはもうやめてもいいのではとも思ったが。
これはきっと彼女の癖かなにかなのだろうな。
しかし行きたいところ、か。
特にない……というより特に思いつかない。
僕はボスに言われて来たはいいが、この魔術大祭で見るべきものの下調べをしてきたわけでもないのだから。
思考の末僕が今から探すより姫に任せたほうがいいのではと思う。
ここは学園の敷地内で、姫は学園生なのだから。
「姫に任せる」
「おぉ、ならば任されたその大役、見事に応えてみせましょう。ボクの一族の名誉にかけて」
大げさな手振り素振りで流暢に語る姫だが、その後の雑談で一族=家族であるという意味だと迂遠な言い回しの末に僕は理解した。
いいところのお嬢様ではないかと最初思ったものだが、ごくごく一般のご家庭に生まれた長女であるらしい。
双子の弟と妹がいるのだと嬉しそうに語る姿だけは、素に戻ったのか本当にお姫様のような年頃の乙女らしさを見せていた。
それを抜きにしても姫のエスコートは回るイベントや屋台、あまり知られない落ち着ける場所など、そのトークも相まって素直に悪くない……いや正直に言えば楽しかった。
だからこそ彼女の隣にいるのが僕などでよかったのだろうかと、頭にちらつく思考を僕は気付けばそのまま言葉にしていた。
「姫はなんでエスコート相手に僕を選んだ?」
言った後、自分が無意識で聞いていたことと、その答えづらいのではないかという質問にやってしまったなと申し訳なくなる。
いや明確に理由があるのならともかく、学園が催すイベントを消化していただけだとしたらとても気まずい空気になるのではないかと。
だが僕の問いに姫はあっけらかんと、予想外の回答をする。
「ビジュアルが完璧だったから」
そこに先程までの王子様のようなキラキラは振りまかれておらず、本当に素で返しているのだとわかった。
しかし言っていることはなかなかに肉食系である。
僕がどう返したものかと数瞬頭を悩ませていると、今になって自分の言ったことに気付いたのか姫は慌てたように弁明する。
「あ、いや! ボクってほら、可愛いし美しいしかっこいいだろう?」
「……そう、だな」
とんでもない自信家だった。
いや実際に姫の言っていることを否定する必要性を僕もまるで感じない程度には真実なのだが、かといってそれを自分で主張するのはどうなのだろう?
思わず僕の返答も少し引き気味になってしまったのだが、これは気付かれていないよな……?
「そうなんだ。でもボクには一つ完璧じゃないところがあってね……」
「一つか……」
むしろその一つ以外の自己を完璧と断言するその姿勢には僕も驚きを隠せない。
僕は彼女を乙女らしいところもあるんだなと思ったものだが、果たして世の中の乙女とは皆こうなのだろうか?
交友関係が極狭い僕には難しい問題だ。
「その一つというのが、ボクの適性魔術なのだけど……ほら、ボクの【霊装】を見て京助はどう思った?」
「似合ってる」
「そ、そう……? あ、いやボクも自分でこれは似合い過ぎだろと思うんだけど、問題は外見じゃなくて魔術のほうでね。なんというか……まぁ、一言でいえば所謂ネタ魔術に属するものなんだよね、ボクの適性魔術は」
ネタ魔術。
その存在は僕も知っている。
なぜならネタ魔法という置き換え可能な知識を先に知っていたからだ。
僕自身はそういう所謂ネタ系の力は持っていないが、中には世界のどこかの小石同士を位置転換させるというなんの役に立つのか、そもそも今まで行使されたことがあったのかもわからない魔法だって存在するのだ。
そして一つの魔法で様々な力を行使できる魔法使いならともかく、その一つの力だけがその魔術という形である魔術師にとってはネタ魔術が適性魔術であるということは大変苦労することらしい。
勿論適性魔術以外の魔術だって覚えることも行使することも可能だが、自身の適性に合った魔術というのはそれ以外と比べると別格の成長率や威力効率で、魔術師として決して無視できない要素となっている。
それゆえに魔術アレンジという自身の特色を見出すとき、大多数の者はその適性のある魔術に目を向けるのだ。
……以前始末した『悪鬼』は【霊装】という基礎の基礎をアレンジしていたが。
あれは着眼点はもとより、適性外の魔術をあのレベルで昇華させていたこと自体、彼が天才であったという話だ。
話が大分逸れたが、姫が自身で唯一の完璧じゃない点だというその適性魔術こそが、僕をエスコートに誘ったことに繋がっているということなのだろう。
いまいちどう繋がるのかがわからないが。
隣を歩く姫は昔を思い出すかのように空を見上げていたが、しばらくするとふっと笑ってヤレヤレとでもいうように首を振った。
なにか予感がする。
これはなんの前触れだ?
「たった一つの欠点、それすらも完璧に昇華させてしまったボクは気付いた。ボクってもしかしてこの世界の主人公なんじゃないのか? ……ってね」
僕は考え込むように口元に手を当てる。
この娘、キラキラ王子様キャラより素の状態のほうが相当面倒くさいんじゃないか?
いきなり自分こそこの世界の主人公だと自称するのは普通なら痛いで終わる話なのに、姫が語るとそれはどうなのだろうかと思考を巡らせてしまう恐ろしい現実に震える。
というかたった一つの欠点、克服してるのか……。
適性魔術がネタ魔術だったという話から、その完璧に昇華させたという話のほうが主人公云々よりよっぽど興味があるのだが。
クラスメイトの実は凄いんだぞ少年然り、いつも僕は距離を取っているから彼ら彼女らの物語の結果だけが耳に入ってくる。
人の興味を煽るのはやめないか。
僕が口元に手を当てて黙っていたのをどう勘違いしたのか知らないが気を良くした姫は、横目でもウキウキした様子で続きを話した。
それは続きというか最初の質問の答えで、ここに来るまで随分長かった気がした。
「この世界の主人公なボクは、仲間にする者もよく考えないといけないと思った。そこでエスコートイベントをどう消化するか迷っていたところで見つけたのが京助だよ。ボクに負けず劣らずな完璧なビジュアル、これは来たねと思ったね。慣れないナンパをして少し恥ずかしかったけど、結果こうして京助の隣を歩いてるんだからボクの勝ち」
ふんふんと鼻息を荒くする姫はやり切った顔をしている。
仲間にするには僕は魔術師ではないし、そもそも勝手に仲間にされても困るのだが、そこのところ僕の抗議は受け付けてくれるのだろうか。
まぁなにはともあれあれだ。
結論を聞いて思ったのが、やっぱりエスコートイベント消化したかったんじゃないかということ。
それでもやるとなったら完璧にエスコートして相手を楽しませるその姿は、伝え方からふるまいまで、確かに主人公の器かもねと密かに思うのだった。




