第四話「キラキラ王子様(♀)」
「ここ、いいかな?」
僕がカフェで推しの配信を楽しんでいると、前の席に何者かが現れる。
チラと視線を店内に走らせるが、特段混んでいるということもなく、むしろ祭りの最中ということもあってかなり空いていた。
そんな中でわざわざ自分の前に座ろうという変わり者に視線をやれば、そこにいたのはキラキラした王子様……のような女の子。
男装女子とまではいかないが、恐らく【霊装】と思われる豪奢な中世の貴族のような服に散見される宝石類からして、それに合わせた振舞いをしているのだろう。
しかしそれらが視界に与えるのは不快感などではなく、よく似合っているという称賛だった。
「……どうぞ」
とりあえず断る理由もないので一言で席を勧める。
初対面で話すこともないが、彼女はありがとうと礼を言って優雅に着席する。
いちいちキラキラしたオーラを放つ娘だ。
だがその過剰ともいえるキラキラが様になっているのだから称えるほかない。
どこかいいところのお嬢様なのだろうか。
しかしそんな突っ込んだことを聞く仲でもない……だからこれで交流は終わり、と思いきや彼女は席に座ってからずっと僕の顔をじっと見つめてくる。
そりゃ用がなければわざわざスカスカのカフェで目の前に座らないだろうとは思うが、生憎と話しかけられる要因にはまるで心当たりがない。
じっと見られ続けるのも気になるので、推しの配信視聴のついでに素直に聞いた。
「僕になにか用でも?」
「ナンパと言ったら逃げるかい?」
「他所を当たれとは言いたいな」
ふざけた答えだ、そう思った。
僕は学校でも一人ぼっちを貫くような男だぞ。
なにがどう転んだら一人カフェでもぼっちしてる男にナンパしようなんて思うんだか。
「君、窓の外から相当目立ってたよ? 今もほら、ボクたちを見て女の子たちが騒いでる」
言われて窓から外を見ると、確かにきゃっきゃしてる者達がいるようだがあれ絶対このキラキラした彼女のファンだろう。
一瞬で興味を失くした僕は推しの配信に視線を戻すが、そんな僕を見て目の前の彼女は優し気にふっと微笑む。
彼女のナンパ対象がこの僕じゃなければ完璧だったのだろうにな、と勿体なく思う。
さっさと他を当たれとも。
反応しない僕が言外に拒絶していることを彼女も悟ったのか、席を立ちあがり椅子を持った彼女はそのまま僕の横に移動してきた。
随分と強かな奴だな。
「高貴なる方よ、この魔術大祭で催されるイベントの一つに、学園生によるエスコートがあることをご存知だろうか? 是非貴方のエスコートを、このボクにさせてくれないか?」
キラキラと下から覗き込むように微笑む彼女は、言いながら手首につけた腕輪を見せてくる。
あまり詳しくはないのだが、確かこれは学園生であるという証であったはず。
端末機能も備わっていてダンジョン内でも使えるとかなんとかを聞いたことがあった。
要するに自分は詐欺師の類ではないよと証明しているわけだ。
「他所を当たってくれ」
だがそれはそれ、これはこれ。
彼女が真に学園生でエスコートイベントなるものに取り組んでいようと、僕がそれに乗る魅力がない。
僕はこの祭りを推しの配信越しに楽しむと腹積もりを立てたのだ。
第一青春を謳歌する学園生という年頃で、不用意に僕に絡むと碌なことにならないぞ。
このキラキラ薔薇色を自己で体現する彼女の青春が、灰色を通り越して血に染まる結末など僕は御免だ。
「ふむ……なるほど」
まるで靡かない僕の様子に一つ頷いた彼女。
先程までならこれは諦めたなと思えたのに、なんだこの妙な方向でこいつはまだ止まらないだろうという信頼は。
今まで僕の人生で関わったことのないタイプの人間だ彼女は。
押して押して、それでもダメなら更に押しまくるという頭の悪いやり方をしているはずなのに、一向に明確な不快感というのを感じないのは何故だ?
なにか考え込むように押し黙った彼女に嫌な予感がして、僕は若干顔を傾けて横を窺う。
瞬間、カッと目を見開いた彼女は、宣言した。
「ならばこれより本気のナンパ、させて頂きます」
……もう呆れる他ない。
確かに最初にナンパだと言っていたが、あれはエスコートをするためのジョークのようなものではなかったのか。
気付けば僕も流れている推しの配信にまるで集中できていないではないか。
これはそろそろ強く拒絶する時間か……と、一つ息を吐いて改めて横を見ると……少し頬を朱色を染め縋るような目でこちらを見る彼女の顔が目に入った。
いくらキラキラしていようとまだ学園生、歳でいえば僕と同い年くらいか。
年相応の乙女らしさも持ち合わせているのだな。
なぜそんなキラキラムーブに拘っていたのか知らないが、まぁ【霊装】に合わせるという行為はもしかしたら冒険者として普通のことなのかもしれない。
意外に純粋そうな彼女の眼を見ると穢れる前に僕から離れろと言いたくなるが、本気でナンパすると言ってこの数秒やってるのがただ縋るように見てくるだけだと、それもなんだか言いづらい。
よくよく見ると涙目になりかけてる気もするし、彼女は王子様というよりお姫様だったのかもしれない。
僕は内心、これが全部丸め込むための演技なのだとしたら彼女は天才だな、と敗北を認めながら席を立つ。
あっ……という声を漏らす彼女の横を通り過ぎ、椅子のない空間で僕は彼女の前へ手を差し出した。
「行こうか、姫」
笑わない僕の目とは対照的に、無邪気に笑う彼女の笑顔が眩しかった。




