第三話「イベント盛りだくさん」
つい先日のボスとのやり取りを思い出していた僕は、イヤホンから聞こえてくる賑やかな声に視線を戻す。
手に持つ端末には僕の推したるユキトイキが両手に大量の食べ物を持って賑やか過ぎるハロウィンもびっくりな場所を歩いていた。
そう、何を隠そうも隠すもなく、推したちもまたこの会場、魔術大祭に来ているのだ。
そりゃあ一般人でも参加したい国内祭りトップに入る大きなイベントだ、あのエンジョイ配信者たちが見逃すわけもなく、僕は同じ祭り会場にいるにも関わらず推しの配信越しに祭りを回ろうという腹積もりを立てたのである。
職務怠慢?
いや一応この祭り会場に来てすぐ散策はしたんだ。
しかし目立つ悪意の糸は視界に見えず、相も変わらず誰かの小さな悪意が視界を埋め尽くすだけの祭りに辟易してカフェで一息ついていたのだ。
この悪意を視覚化する僕の魔法は生まれたときよりの付き合いとはいえ、視界がいつも誰かの小さな悪意で埋め尽くされる光景は気分のいいものじゃない。
それがこの祭りとかいう人口密集地では普段の倍で済まない光景になるのだから、そういう意味でもカフェで推しの配信越しに監視するのは我ながら理にかなっていると思う。
まぁ、単純に推したちを見ていたいという想いがないとは間違っても言えないが。
そもそもの話、この魔術大祭とかいう祭りは開催面積が広すぎるのだ。
冒険者育成学園が主催で催されるこの祭りは、魔術設備などの関係もあって会場もそのまま学園の敷地を使っている。
その学園の敷地というのが、まぁ無駄に広い。
いや無駄ということはないのだろうが、ことこの祭りに限ってはすべてのイベント、店舗などを回ろうと思えば開催期間七日間では足りないだろうと言われている。
そんな祭り会場を執行者一人で警戒?
自慢じゃないが僕は執行任務で対象を始末すること以外に得意と自称するものなどない。
警戒や調査などというものは管轄外であるからして、そのところよく理解しているボスであればその分野には専門の部隊が送られていることだろう。
斯くして僕は、できる範囲での警戒、つまり推し配信視聴という結論に至ったわけなのだ。
実際ふざけているわけでもなく、配信越しであれば無駄な悪意が視界を埋め尽くすこともないから違和感が映ればすぐに動ける。
流石は推しのユキトイキ、人知れず秩序の維持に貢献するとは流石である。
正直ボスが警戒するこの魔術大祭に推しが参加していることに心配がないと言えば嘘になるが、それも今推したちが笑って祭りを楽しんでいる配信を見れば心持ちも変わる。
僕は執行者であるのだから、秩序を乱す者が現れるなら僕が秩序を守るだけのことだと。
カップを傾けコーヒーを口に含み程よい苦みを味わいながら、僕は余計な思考を排除して推しの配信に集中した。
『イベント盛りだくさんじゃのぉ~』
『魔術師たちによる競争とかもあるみたいですよ~』
『魔術師前提のイベントがあるのは流石に魔術師の祭典だな』
〈コメント〉
:俺魔術師じゃないから魔術前提イベント参加できなくて悲しい……
:会場も【霊装】で派手な人たち見るといいなーってなるよね
:ゆうて一般人でもしっかり楽しめるようコスプレイベントとかもあるけどね
:わたしさっき会場で『魔人』コスプレの人見たよ? 一瞬「え、本物!?」って焦ったww
:あー『魔人』コスチラチラ見るよね。そういう意味では『千鎖』コス見ないから憧れの方向性が違うんだなって
:『魔人』コスは見るけどあの絶対王者みたいなオーラが真似できてないから減点
:オーラ纏ってたらそれもう本物なんよ……てか何気に『魔人』密かな人気集めてて草
コメントも含めて推しの配信を見ていると、『魔人』に密かな人気があるという声を見て驚いた。
正直秩序のためならこの手を血で染めることに躊躇いのない自分がそんな目で見られるのはなにかの間違いだろうと思うわけだが、時間が経てば血濡れの姿に気付いて冷めていくだろうと傍観を決める。
しかしそれに反応したのが僕の推し……ユキトイキだった。
『むふんっ! ようやく世間も『魔人』殿の偉大さに気付きおったか!』
『タマは特に『魔人』推しの厄介オタクですからねぇ~』
『うぅ、よかったな、タマ!』
これは悲報か。
僕の推しが僕のことを推している件について。
いつか冷めるとわかっていて推しから推されるのは少し悲しいな。
まぁ、これも大きな括りで話せばいつものことなのだが、まさかタマが推しというレベルで執行者『魔人』を評価してくれているとは思ってもいなかった。
悲しさの中に少しの幸せを感じるのは良くないことだ。
いつかは現実と理想で道がわかれるのだから、今からこんな幸せを噛みしめてはいけない。
自分の心の鼓動を意識して聞き流しながらその後も推しの配信を見る。
なお推したちは魔術前提イベントを全避けした。
流石は【霊装】以外にまともな魔術の研鑽に励まない推したち、まるで自分たちが魔術師であるということを忘れているかのようなその振舞いに僕は自然と笑っていた。




